三十九話 眼差しの先㊁
フォンというキャラがいるのに、ファイという紛らわしい名前のキャラを出した事を反省しています。ファーというキャラもいます……。
ガリアの医療は、国際連合の中でも最先端であると言われており、首都ルテティアの大病院では、腕の確かなドクターから高度な治療を受けられた。
今日も、病院内は絶え間まく訪れる患者で忙しない。しかし、殺伐とした戦場に比べれば、遥かに平穏な場所だった。
「こんにちは! お加減いかがですか? 今日はいいお天気だから、窓を開けましょうねー!」
ナースが真の個室にやってきて、部屋に風を入れる。
真達と白兎隊は、ガリアへと戻っていた。
ラウインに敗れ、辛くも一命を取り留めた真だったが、案の定、全身骨折で入院となった。救助された直後に必要な治療は受けたが、幽世で受けた傷の完全回復は、幽玄者自身の回復力に頼るしかなく、それまで静養する日々が続いている。
「これはお見舞いのフルーツ! 食べたいのがあったら、わたしが切ってあげるよ!」
病院のナースは、入院患者に親身に接してくれるが、このナースは流石に親身過ぎた。しかも、ナース服のミニスカートが短すぎて、不貞腐れたようにベッドに横になっている真からは、パンツがチラチラと見える。
「……何やってんの?」
真は呆れた表情で、親身なナースに言った。
「わたしは真の専属ナース! 今日は学校がお休みだから、お手当頑張るよ!」
専属ナース、ラーラが笑顔で言った。真は「頼んでないけど……」と言ったが、やる気に満ちているラーラは「いいの、いいの!」と聞く耳を持たない。
「この白衣の天使が、直ぐに回復させるからね!」
ラーラは、真が重体で運ばれてきた日から、毎日、見舞いにやってきて、あれこれ世話を焼いていた。
今日は、一体どこから持ってきたのか、ナース服の他にも、体温計や聴診器を持っている。
「お熱測りまーす。体は動かせますか? 痛い所はありますか? お薬は飲んだ?」
「僕は何の病気設定なのさ……。大体、動こうと思えば、動けるんだ。こんな所に居なくたって―」
「だめだめ! 治るまで絶対安静だよ!」
ラーラが、体を起こそうとする真を押し留める。痛んだ骨が軋み、真の表情が歪む。
「あっ、もう直ぐごはんの時間。持ってくるから、じっとしててね。フォークは持てる? わたしが食べさせてあげるね!」
ラーラは、そう言って病院食を取りに、一旦、病室を出る。お節介にほとほと参っている真だったが、偶にはお礼をする事にした。
「ねぇ、パンツも白じゃなきゃ、白衣の天使じゃないんじゃない?」
「きゃ! そ、そこは見ないでよー」
今更の指摘に、ラーラはミニスカートを押さえて、逃げるように退散した。
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エウロパを走る汽車がルテティアの駅に止まり、民族衣装を着た人物が三人、駅に降り立った。
異国の服装は珍しく、彼らは構内にいた人々の注目を一手に集めた。特に二人の女性には、男性達の失礼な視線が注がれる。
それもその筈、女性達の衣装は、俗に言う乳袋で胸の形がくっきり見て取れ、唯でさえ短いスカートなのにスリットが腰の高さまである、ハレンチな物だったからだ。
「全く、何であたしがガリアまで遠征しなきゃならないのよ! あいつらに借りなんてないのに……。ところで、休暇はあるんでしょうね?」
ハレンチ女性が、汽車から一緒に降りた細い目をした男女二人に聞いた。
「まさか、借りがない筈ないアル。恩があるアル」
「休暇はあるアル。いや……ない……多分、ないアル」
「はぁ?……分かりづらいわね、あんた達!」
二人の言葉づかいに、機嫌が悪そうな女は益々、不機嫌になった。
そんな、扇動的な格好と態度の女性フォンは、やらしい視線を送る男達を睨み付けながら、街へと向かった。




