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三十七話 獅子の記憶㊀

 「戦いを辞める!? ああ? どういう事だ、それは!?」


 「言った通りだ。()()()()()()()()()()()()()は、大地から追い払った。これ以上、戦いを続ける必要はない」


 リビュアの荒野で、二体の幻獣が話している。一体は巨大で派手な鳥。もう一体は獅子の姿をしていた。

 新暦153年。ラウインが幻獣によるリビュアの征服を目指し三年。エネアドは、リビュアから人類の長プロヴィデンスの政権下にあった勢力を掃討し、彼らの支配が及ばない地へと変えた。

 

 「大地の外でも、これから幽世(カクリヨ)の才がある者が次々に目覚めるだろう。其奴らが育つまで、俺の戦いは未来にあると見た」


 「オレには訳が分からないぜ。オレとお前で、今の内に無双しちまおうぜ?」


 「悪いが付き合えん。それと、今後、大地では勝手な戦闘行為を禁止とした。シムルグ、お前も承知しておけ」


 ラウインが交戦的な鳥幻獣シムルグに、釘を刺した。

 征服した大地には、国際連合非加盟の国、部族など、一定数の人間が残っていた。しかし、彼らは最早、プロヴィデンスに存在を認知されておらず、どちらかといえば幻獣に敬意を払っていた。そんな相手を、ラウインは攻撃する気はなく、互い干渉しない形を取った。


  「チッ、王様気取め! 結構、結構、大地(ここ)はくれてやる! ……だが、オレはオレの国を作る為、奴等との戦いを続けるぜ!」


 シムルグが大見得を切った。


 「好きにしろ。俺の所にもまだ、大地から逃げたニンゲンの追討をしたがっている者がいる。そいらも連れて行って構わん」

 

 「フン! 見てろ、オレが世界を取ってやるぜ!」


 シムルグはそう言って、リビュアから東へと進軍を続けていった。

 幻獣戦争は、今や世界中に広がっている。


 大地に残ったラウインは、リビュアに逃げて来る幻獣達を保護しつつ、奪還を狙う人類勢力を退け続けた。

 エネアドの幻獣達は皆、ラウインを慕い、彼を幻獣の王と讃えている。

 しかし、そんな王に対し、反乱を起こす幻獣が現れた。


 「何、セクメトが!? セトとイシスもか!?」


 予期せぬ味方の裏切りに、エネアドの中核を成す幻獣達は驚いた。

 反乱軍は、ラウインの定めた掟を破り、リビュア内に残る人類を攻撃。勝手な人間狩りを始めていた。


 「どうする、ラウイン?」


 「禁を破った者は成敗する。例えそれが……我が子であってもだ!」


 ラウインは、反乱軍を率いた幻獣セクメトに対し、一騎討ちを仕掛けた。


 「セクメト……。この大地は俺の国だ。勝手な振る舞いは許さん!」

 

 「ニンゲンが死のうが生きようがどうでもいい事だ。俺が反乱を起こしたのは、お前から王位を奪う為だ!」

 

 セクメトの見た目は、ラウインと非常によく似ていた。体格こそ、やや小さいが、同じ獅子の姿を取り、雄々しい鬣を砂漠の乾いた風に靡かせている。

 だだし、瞳だけは父と違う、輝く金色(こんじき)だ。


 「王。いや、ラウイン! 幻獣の王は過去の栄光や味方の尊敬で決まる訳ではない! 絶対的な力の持ち主にこそ相応しい! 即ち、お前を倒すものが現れれば、その者が(まこと)の覇王となるのだ!」


 玉座を狙う者の登場に、ラウインは動じる事はなく、寧ろ、嬉々として迎えた。

 

 「くっくっく。セクメトよ……我が子よ! いや、お前は一つしかない王位を争う為に、神が創った俺の番に相違ない。久しく血が滾る……。来い! 俺は、俺を高みに昇らせてくれる相手を待っているのだ!」


 二体の獅子幻獣は、覇権を争い激突した。

 エネアドの幻獣達は、どちらが自分達の(まこと)の王であるかを見極める為、決闘を見守った。

 セクメトは強かった。戦場に出て以来、一度たりとも傷を負った事のないラウインの、その額に三本の傷を与え、互角に渡り合った。


 戦いはラウインの勝利に終わった。

 幻獣達は慄き、反乱に組した者は、再びエネアドの傘下に収まるか、大地の外へと去って行った。


 「…………セクメト……」


 己が目覚す境地に辿り着く為、ラウインは我が子すら葬った。

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