三十三話 古よりの願い㊀
弾丸のようなスピードで飛来した物体が、岩山を次々に貫いて行く。
普通の人間なら物体を目で捉えられず、山々が勝手に破壊されていく様に見えるだろう。ましてや、その破壊が、同じ人間の衝突で起こっているとは、夢にも思わないであろう。
「真ー!!」
砂地から身体を半分程出した勝志が、ラウインのパンチで吹き飛ぶ真を、運良く目撃した。
勝志は、幻獣ケプリの巨大氣弾を、砂に潜る事で辛くも躱していた。そのまま、敵の森羅が届かない距離まで逃れる事にも成功したが、いかんせん、砂嵐の影響で地上の様子が分からず、闇雲に砂の中を移動した結果、戦場からかなり離れた場所に出てしまった。
「くそっ!」
勝志は、真が墜落した場所へ急行する。真は、最後に衝突した岩山の中腹を砕いて漸く勢いを失い、砕けた岩石と共に、砂に埋もれて倒れていた。
ズダボロになって倒れている真はピクリとも動かず、吹っ飛びの速度もあり、どう考えても命はないと思われたが、勝志は真を懸命に救助しようとした。
「真、しっかりしろ! うわっ!」
勝志は、岩山の残骸を避けながら真に近付こうとしたが、足が砂にズブリと嵌る。よく見ると、周辺に散らばった岩石も砂の中へと沈んで行く。
「なんだこりゃ!? あっ、真!」
どうやらこの辺りも、ヘリオポリス基地周辺同様、地盤沈下が起こっているようだ。その為、真が岩山に激突した衝撃で流砂が発生していた。
勝志は神足を使えば容易に脱出できたが、意識のない真はみるみる沈んでいく。
「くそー、待てー!」
勝志は友人を救う為、躊躇なく流砂に飛び込んだ。
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「なんでですか!? 二人共、見付かっていないんです! わたしたちも捜索しましょう!」
「駄目だ! 白兎隊は待機し、体力回復に努めるように。まだバビロン軍の収容もままならないんだ」
感情的になっているりぼんの進言を、アベルは冷静に却下した。
戦闘があった砂丘では、ヘリオポリス基地を放棄した為、港への撤退が開始されている。白兎隊は殿を務める事になったが、左翼に派遣した真と勝志が行方知れずとなっていた。
既に、負傷兵の手当ては行われていたが、絶望的な状態の者は後回しになっている。故に、無事の確認が取れない二人の生存も、絶望視されていた。
「遺体の回収は軍に任せるんだ。俺達にはどうする事も―」
「二人は生きてますよ! やられる訳ないじゃないですか! 勝手なことをしてどこかに隠れているのかも……! なら、わたし達が探した方が早いですっ!」
アベルの言葉を受け入れられず、りぼんは二人の捜索に向かおうとした。直ぐにアベルが「止めろ」と言い、近場にいた隊士が彼女を留める。
「追跡部隊の報告では、エネアドは内陸へ向かっているとの事だが、まだ油断できない距離だ。分かっていると思うが、再度攻撃を受けたら主戦力は俺達になるんだ」
アベルが厳格な態度で言った。
りぼんは、ガイや他の隊士達が、何時ものように反論してくれるのを期待して周りを見た。
しかし、隊士達も戦闘で疲弊し、負傷者も出ている。皆、当てもない捜索はできないと分かっており、俯いていた。
「でもっ……!」
りぼんは諦め切れず、涙目になった。
日頃、可愛げのない後輩に不平不満ばかりのりぼんだったが、一緒に鍛錬を積んできた仲だ。誰よりも込み上げてくる感情は強かった。
「二人やられたくらいで何さ。バビロン軍に聞かせてやりたいよ」
イフリータが、痛い事実を嫌みたらしく言った。りぼんは反論できず、悔しそうに唇を噛む。
アベルとて、銃の訓練を指導した二人の死を、残念に思わない訳ではない。しかし、副長として、感情を優先し判断を誤る訳にはいかなかった。
「まっ、ともかく、十兵衛達が戻ったら港に引き上げよーぜ」
「……」
この状況でも軽い調子のガイが、落ち込んでるりぼんの肩を叩いて言った。
彼は此方を見上げるりぼんと、プロヴィデンス軍からの移籍組に対し、キッパリと言った。
「しくじるようならガキだけで援軍に送ったりしねぇよ。ったく、誰があの二人を鍛えたと思ってんだ」
嘘も方便とも言うが、アベルとは違い、長年、仲間達を纏めている彼が自信たっぷりに言うと、既存の隊士達は希望を持った。




