三十一話 神獣㊂
ラウインの強烈な猫パンチと、真の叢雲の斬撃がぶつかり合う。
しかし、徐々に戦闘力を解放し始めたラウインのパワーが優り、打ち合う毎に、真が仰反らされ弾き飛ばされる。
「このっ!」
真っ向勝負に拘る気はない。真は再び草薙を抜き、二本の剣を交差させ、ラウインのパンチを受け止め、相手の拳を横に逸らして側面に逃れようとした。
「!?」
しかし、この手はラウインの攻撃をいなすには不十分だった。
真は、ラウインの猫パンチを殆ど逸らす事ができなかった。結果的に巨体を避け切れず、ラウインの肩に接触し跳ね飛ばされる。
「っ!」
頑強極まりないラウインの身体に接触しただけで、真の身体には金色の毛が無数に突き刺さった。まるで、一本一本が鋼線できているかのようだ。
「……まだだ!」
真はダメージを振り払うように構え直す。
空蝉の力の差はあれど、戦い方次第でそれは覆せる。そして、その能力が自分にはあると自負していた。
「惜しいな。お前の瞳はアイツに似ている。……だが、所詮はリベンジャーだ……」
ラウインが、闘志を燃やして立ち向かってくる真を見て言った。
真は、鎖を草薙の柄尻に付け替えて、遠距離から斬撃を入れて隙を作り、本命の叢雲で斬り付けようとした。
しかし、ラウインが素早く回転し、鞭のような尻尾で真を叩き返した。
「天墜―ぐあっ!!」
「この大地にも、かつてはそういう瞳をした奴が沢山いた。幻獣だけではない、ニンゲンの中にもな……!」
砂地に転がった真に、ラウインが言った。
半世紀前、ラウインがこの大地の支配に乗り出した時、敵対した者は大勢いた。
自分に従わなかった幻獣。国際連合が存在を認識していない部族の幽玄者。それらの中には、若きラウインと互角に渡り合った強者も存在した。
彼らとの戦いが、今日のラウインを形作っているとも言える。
「だが、やがて俺に挑む者はいなくなった。幻獣は皆、俺を敬い従い、ニンゲン共は畏怖し、憎悪に捉われた者ばかりとなった……。残念だ」
ラウインが更に戦闘力を解放し、周囲にエネルギーが迸る。生半可な攻撃は、最早、通用しそうにない。
「俺の目指す場所は幽世の遥か高みにある。何人も、幻獣さえ到達した者がいない神域に……!」
今度はラウインが真に向かって来る。
立ち上がった真は、当たり負けを避ける為、神足で空中へ逃れた。
距離を取る真を追うラウインも舞い上がり、何もない宙を猫パンチで叩いた。すると、空間がひび割れ、亀裂が岩山の側面を走り抜け真に襲い掛かる。
真は、ここ一番の研ぎ澄まされた森羅で、見えない稲妻のように宙を走る亀裂を見切って躱し、ラウイン目掛けて分銅を投げ付けた。
しかし、ラウインは氣弾を纏った強力な分銅を猫パンチで易々と砕く。
「……!」
真は制御不能になりかけた鎖を道連れで制御し、再びラウインを狙う。
ラウインは分銅を破壊された鎖など脅威ではないといった様子で、出方を伺うように身体に絡まる鎖を甘受した。
「獄摑巳!!」
拘束業がラウインの動きを封じ込める。
しかし、この幻獣が空蝉を最大にすると、真の業など干渉できず、まるでラウインの身体が膨張したかのように鎖が千切れ、粉々になって吹き飛んだ。
「!!?」
動揺する真だったが、ラウインに反撃を許すまいと、反射的に残された攻撃手段であるベルトに挟んでいた拳銃を取り出し、幽世の弾丸を乱射する。
ラウインは銃弾の嵐を強固な空蝉で無効にした。
真は正確な射撃で、強引に敵をその場に釘付けにしながら接近し、弾切れになった銃を捨てると、叢雲を振り被る。
――貰った!!
今なら避けようがない。
例えラウインが防御できても、完璧なタイミングで剣を振り下ろせば、間違いなくダメージを与えられる。
「天堕刃!!!」




