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二十九話 神獣㊀

 (しん)が握り締めた叢雲(ムラクモ)に気迫を込めて、ラウインに斬り掛かる。それに呼応するように、ラウインが真に飛び掛かった。

 巨体からは想像できないスピードで応戦してきたラウインの突進を、真は咄嗟に避けつつ、擦れ違い様に(つるぎ)を振った。しかし、ラウインも空中で身体を捻り、器用に切先を躱してみせた。

 阿吽の呼吸を持ってしても不可能な速さで、二者の立ち位置が綺麗に入れ替わった。しかし、華麗な攻防の余韻に浸る間もなく、ラウインの鞭のような尻尾が空気を切り裂く。

 真は素早く左手で、叢雲(ムラクモ)に合わせて新調した両刃の小太刀、草薙(クサナギ)を抜き、尻尾を弾いて防御した。


 「……」


 猛烈な殺意を持って挑んでくるリベンジャーに対し、ラウインは落ち着いていた。

 一方、真は生死を分つ攻防を繰り返すだけ、ボルテージを上げる。


 「この時を愉しみにしていた……! ラウイン、お前はウィーグルの仇だ……! 僕が……僕が復讐する……!」



 砂丘の戦場は凄惨たるものだった。

 崩れた左翼のバビロン軍は壊滅状態に陥り、砂丘上部に撤退しようとしたが、兵士達は砂の斜面に足を取られ、それすらも叶わなかった。

 救援部隊が送られ、戦車部隊が突撃で幻獣達を跳ね飛ばしてみせたが、敵は怯む事なく当たり返してきた。対幻獣用の戦車は、幽世(カクリヨ)の攻撃にも耐えてみせたが、衝撃で吹き飛ばされたり、転がされたりすれば、中の人間が堪ったものではない。

 やがて、敵軍に十分な打撃を与えたと判断したエネアド軍は、無理な戦闘継続はせず、撤収を開始した。

 三度、人類側に追撃する余力がないのは、火を見るよりも明らかだった。


 「全軍が砂丘上部に引き上げるまで防衛体制を維持! 此方からも援軍を出す! 撤退したエネアドの追跡は白兎(びゃくと)隊が引き受ける!」

 

 アベルが司令部に無線で連絡を入れた。白兎隊がいた右翼の被害が最も少なく、余力を残している為だ。

 彼らの被害が少なかったのは、単純な運もあったが、砂嵐の混乱時に、アベルが味方に隊列を崩さないよう徹底したからだった。

 それでも、互角に戦えた筈の相手に、全体の半数近い戦力を失う被害が出て、隊士達は苦い表情をしていた。


 「俺にも責任がある……」


 アベルも指揮官の一人として、口惜しさを感じた。


 ――敗因に繋がる要因は幾つかある……。

 

 一つは、城塞を出た事での様々な状況変化による迎撃能力の低下。また、劣勢時の退路の不備。

 一つは、敵将の合流による双方の士気の上下と、それに伴う自軍の足並みの乱れ。

 一つは、不確定要素を生みやすい(ワザ)によって起こった混乱。

 それらが、少しずつ作用し、大きな被害を生んでしまった。


 ――予測できていたとしても、恐らくは―


 アベルは、今になって追撃を決めた時に感じた、引っ掛かりにも満たないものの正体に気付いた。ディーンに言われた()()だ。

 この戦闘を指揮している者達は、確固たる決意の下、この戦場にやって来ている。

 プロヴィデンス軍の者は、世界を動かす最高機関の作戦、宣教(ミッション)を成功させる為に。バビロン軍の者は、数多いると言われる難民達を、この地に帰還させる為に。

 それぞれ、国や己の威信を懸けて挑んだのだ。

 最大の要因となった不運で城塞を失ったからといって、すごすごと帰る事はできない。

 彼らが国に帰れるのは、勝利を納めて凱旋する時か、敗北して夢破れた時だけだ。


 ――白黒付くまで、戦い続けるしかない……。


 人間という生き物は、大志を抱いて行動を起こした時、必ず、その結果がどうなるのか見届けなければ、自分の気持ちが収まらないのだ。

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