表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
115/183

二十七話 太陽の地㊂

 「来るぞ! ヤロー共、さっきのようにチョロくはいかなそうだぜ!」


 ガイが再び、エネアド軍と白兵戦を開始しようと、二本の刀を構えたが、逸早く戦場の異変を察知した十兵衛が叫んだ。


 「待て、左翼から何か来る!」


 それは、黄土色をした突風にも見える、砂嵐だった。

 猛烈な砂嵐は、あっという間に砂丘の斜面を覆い尽くし、突撃してくる敵の姿を隠して付近の味方の姿すら朧にした。

 

 「撃ち方止め! 守りを固めろ! 前線に後退命令!」


 砂丘上部にいる最高司令官が、砂嵐に巻き込まれた全部隊に素早く指示を出そうとしたが、直ぐにこの砂嵐が、自然現象で無い事が分かる。


 「無線通信……全て、繋がりません!」


 「何!? この距離でか!?」


 長距離通信ならばさて置き、今は一定距離で通信部隊を控えさせている為、砂嵐だけで電波妨害が起こるのはあり得なかった。

 しかし、実際に通信は繋がらない。加えて、砂嵐の影響は視界や電波だけに留まらなかった。


 「くっ、森羅(シンラ)が効かない……!」


 「クソッ、これに紛れて奇襲を仕掛けようって訳か! 望む所―」


 「違う! 白兎(びゃくと)隊、密集して守りを固めろ!」


 十兵衛とガイが、敵の出方を伺っていると、直前に加勢に動いていたアベルが白兎隊本隊に合流し、味方に指示を出した。


 「エネアドのウヴァルだ! ファイルの情報ではこの(ワザ)森羅(シンラ)を著しく弱める!」


 アベルは砂嵐の効力から、これを発生させた幻獣の正体に気付いた。ラウインと共にカーネルにいると思われていた幻獣ウヴァルも、何時の間にか戦闘に加わっているようだ。


 「隊列を乱すな! 敵の狙いはそれだ!」



 左翼にいる(しん)勝志(かつし)も、特殊な砂嵐の中で、敵を見失っていた。

 敵に斬り込もうとしていた為、味方からも距離が離れ、付近にいる筈のバビロン軍の姿も見えない。


 「わっ、口に入った、まじい! ぺっぺっ! 見えねぇ、天気予報見とけば良かったぜ」


 勝志は事態を把握できていなかった。

 一方、真は、この砂嵐を逆手に取れると判断した。


 「チャンスだ……!」


 森羅(シンラ)が効かないのは、何も自分達だけではない筈だ。

 その証拠に、眼前に迫っていた敵が、何時まで経っても攻撃を仕掛けてこない。


 「今なら敵陣を突破できる……!」


 ラウインがあの岩山から動いていないのなら、敵陣さえ素通りできれば奇襲を掛けられる。

 道中、偶然、鉢合わせる幻獣がいるかも知れないが、敵将の首を狙うには、潜在一隅の機会になり得た。


 「行くのか? 真」


 勝志が聞いた。無茶な冒険に出る前に、よくする確認だ。


 「君は付いて来るかい?」


 真も勝志に聞いた。

 チャンスと言っても、あくまで戦闘を仕掛けられるという事だけだ。見事成し遂げても、敵陣の最も深くで、孤立無縁の戦いを強いられる無謀な手だった。


 「食べ物も……女の子もいないけど」


 真は、勝志が戦う理由を思い出して、付け足した。


 「真は行くんだろ? なら、行くぜ! おれが戦う理由は他にもあるんだ!」


 勝志がノータイムで答えた。

 真は勝志の思考を理解できなかったが、頼もしさを感じる回答だった。


 「よし! 地面を離れないで、ゆっくり進む! 目標はラウインだけだ!」


 「分かったぜ!」

 

 真には、宿敵に辿り着ける自信があった。

 かつてラウインに付けられ、とっくに治った筈の腕の古傷が、チリチリと鈍い痛みを放っている。ラウインの起こした事象が、ラウインの前では全てだというように、抗えない影響力を与えていた。

 その影響力が強まる方へ向かえばいい。


 「人生は一度きりだけだ。……だったら、冒険しよう……!」


 黄竜山を登った時、今は右手にある叢雲(ムラクモ)が、真に道を示していたように、今はラウインが、真に修羅の道を示しているかのようだった。


 「待っていろ……。ラウイン……!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ