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二十五話 太陽の地㊀

 「お命、頂戴いたします!」


 りぼんが背にした刀を抜き、瀕死の幻獣に引導を渡した。エネアド軍は撤退し、現れた西の砂丘の反対側へと消えている。


 「打ち取れた幻獣は思いの外、少ねぇ。こりゃ、長い戦いになるかもな」


 ガイが、ざっと戦果を計算して言った。早急に不利を悟って撤退を決めたエネアド軍の損害は、比較的軽微に違いない。


 「……だが、手負いの幻獣は多い筈だ。追い討ちを掛けるなら今しかない……! 上がどう判断するかだがな……」


 岩に腰掛け、袖で太刀魚(たちうお)(やいば)を拭きながら十兵衛が言った。

 ガイは城塞を振り返った。

 指揮官達は、再び司令室に集まり、次なる対応を話し合っている。今回は副長アベルに任せたガイだったが、やはり、自分達の命に関わる事柄ゆえ、その決定が気になった。



 「頭、大丈夫? 馬鹿って意味じゃないよ」


 砕けた城塞の外壁がバラバラと散らばる一角で、(しん)は衛生兵に治療を受けている勝志(かつし)に尋ねた。

 戦闘中、調子に乗った勝志は、氣弾を頭部に受けたものの、幸い大事には至らなかった。


 「ああ、おれはばかだぜ。でも、おれの石頭を割るとは……やるな、あいつ……! あれ? ……どんなやつだったかな?」


 敵を退かせたとはいえ、勝志に限らず味方にはそれなりの死傷者が出た。医療用の建物には、引っ切り無しに負傷者が運び込まれている。

 真は、幻獣達が去った砂丘を見つめた。

 彼らの気配は、まだ、その向こう側から感じ取れる。


 ――戦いはこれから……!


 そんな気迫が、彼らと真の中に存在している。

 砂丘の上から西に沈む太陽の熱を、何時もより強く感じた。


 司令室に集まった指揮官達だったが、彼らに想定外の報告が入った。


 「建物が沈んでいる? 多少、地下が破壊されても、倒壊しない設計の筈では?」


 「それが、基地建設時の記録では問題になっていなかったので、見落としていたのですが、地盤事態がかなり脆くなっているようで……それが、今の戦闘で悪化した模様です」


 指揮官達は、基地の改修作業を行なっている技術者の代表から、緊急の報告を聞いていた。

 どうやら、地殻変動か何かで、基地周辺の地盤は徐々に地下に沈んでいるらしい。

 今までは調査しても分からない程の微細な変化だったが、先程の戦闘で地下部分に攻撃を受けた所為か、変化が顕著になり、既に、基地内の建物の中には、明らかな傾きが見られる物も出始めた。

 

 「くそっ、運がないな」


 「基地が砂に埋もれているのも、砂嵐ではなく沈下が原因か……」


 自然という敵の攻撃に、指揮官達は頭を抱えた。


 「参ったな……。このまま、ここで幻獣と戦い続けるのは危険かもしれん……!」


 最高司令官が眉間に皺を寄せた。

 どんなに幻獣を追い払い続けても、基地と共に砂の下に沈んでしまっては、元も子もない。


 「どれくらいの時間で基地に影響が出るか……。いや、最悪を考え一時、全軍を退避させる必要がある……! 港に連絡を取れ! 本部にも戦況報告に続き、この件を報告しろ!」


 最高司令官が、最悪の事態を避ける為の判断を下した。皆、戦闘が優位に運んだ事もあり、この件には口惜しさを感じている。

 そして、それを最も感じている者が、最高司令官に進言した。


 「司令官。基地に留まれないのなら、尚更、追撃を仕掛けるべきです! 今なら敵の大半は負傷しています!」


 ファイだった。戦闘に使った銃剣を、そのまま肩に背負っていて、普段以上に勇ましい。

 ファイに限らず、この案に賛同する指揮官もいた。そもそも、基地の問題が発覚する前から、追撃戦は提案されていた策でもある。


 「しかし、いざと言う時に引き返す場所がないぞ?」


 慎重派の指揮官が言ったが、ファイが卓上に広げられた周辺地図を示す。


 「深追いはしません。軍を前進させて、戦車部隊で砲撃を行います。砂丘の上を取り、これを城塞代わりにして、各部隊を配置します……!」


 ファイが、情熱を大きな胸の内に秘めながらも、冷静に策を提案した。


 「時を稼げれば基地の沈下の度合いも分かるか……。放棄の際は、港の艦を近海まで回し退路を確保すれば……」


 最高司令官が更なるプランを加え、立案された作戦を取る決定をした。


 司令室を出たアベルは、待機していたシルフィー、ディーン、イフリータ、ノームに言った。


 「基地の放棄を視野に入れて、追撃を行う。ガイ達にも伝えてくれ」


 「アタシが行くよ」


 イフリータが、サバサバと隊士達の下へ向かった。

 アベルが気難しい表情をしているのに気付いたノームが「煩わしい」と言わんばかりに聞いた。


 「どうした? 何か気掛かりな事でもあるのか?」


 「君達が指揮官なら……この状況で追い討ちを仕掛けるか?」


 アベルの質問に、シルフィーは一般的な対応策を参照して答えた。


 「あくまで敵の現状に対してですが、味方の余力は十分に残っています。こう言った場合は追撃も視野に入れるべきかと……」


 「だろうな、俺もそう思う」


 アベルはそう言った。


 「アベルちゃんが何か引っ掛かるんなら、何かあるぜ? 生半可な指揮官より、あんたの読みの方が上等だからな」


 「いや、買い被りすぎだ。引っ掛かるのなら、反対論を出した」


 自分を買うディーンに対し、アベルは「冗談を言った」というように笑い掛けた。

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