二十四話 ヘリオポリスの戦い㊃
アベル達の攻撃に加えて、プロヴィデンス軍やバビロン軍のファイ達、幽玄者の遠距離攻撃が開始され、エネアド軍に損害を与えていく。
しかし、その程度で崩れる相手ではなく、やがて基地内に侵攻した幻獣との間で、白兵戦が開始される。
「炎龍! 大焼壁!!」
ガイが、白兎隊を含む歩兵部隊に、恐れる事なく突進してくる幻獣達の勢いを削ぐ為、炎龍刀の一本を地面に突き立て、業を繰り出す。
砂の大地から、灼熱の壁が味方を守るように立ち昇り、敵の進行を妨害した。
それでも、エネアドの幻獣達は個々の戦闘能力が高く、アヌビスとセルケトが、白兎隊きっての実力を持つガイと十兵衛を平然と相手取り、隊士達は苦戦を強いられた。
真は、データファイルに乗っているリスクB、Cの幻獣を叢雲で斬り倒す。
この程度の相手を倒した所で、何の達成感もない。狙うは敵将ラウインであった。
気配を察するに、奴はまたしても戦場に来ていないようだ。
――けど、コイツらからはラウインの意志を感じる……!
真は思った。
エネアド軍がラウイン自ら組織した軍ならば、彼らの行動はラウインの意志の下に行われている。
即ち、コイツらはラウインの手足に等しい。
軍の情報では、ラウインの動向は未だ掴めていない。しかし、真はエネアドと戦い続ければ、必ず本体であるラウインが現れると思っていた。
――チャンスは必ず来る……!
燻り続けていた怒りの炎は、燃え盛る刻を待っている。
「来ないんなら……お前の部下を皆殺しにしてやるさ……!!」
「見付けたで、バビロンのアマ共や! 今度こそやったるー!!」
「ボスの仇やー!!」
基地内に侵攻した幻獣達を迎え撃つ為、前に出たバビロン軍の女性幽玄者達に、特徴のある言葉を発する幻獣達が迫った。
「シムルグの残党!? このっ、あんた達との戦いは終わったって言うのに!」
ファイが、さぞ迷惑そうに言いながら、襲い掛かる残党部隊に銃剣を向けた。
しかし、彼方も彼方でリベンジに燃えており、氣弾や火炎の乱射に晒される。
「任せろ!!」
そこへ、勝手に白兎隊の守備配置を離れた勝志が、救援に現れた。
乱舞する氣弾対し、彼は超・破壊を嵌めた拳を突き出す。
「無敵拳!!」
パンチを繰り出す一瞬のみ、無敵(本人談)のバリアを拳の先端に発生させる勝志の業は、真の天墜刃に似てピーキーだった。
しかし、勝志はこの荒業で、氣弾を悉く相殺し女の子達のピンチを救う。
「キャー、勝志君!」
彼女達の歓声に応じ、振り向いて拳を突き上げる勝志だったが、続けて飛んできた氣弾が石頭にヒットした。
エネアド軍の猛攻を、各部隊は辛くも抑えていたが、空中からの攻撃はより苛烈を極めた。
直上から攻撃を仕掛ける幻獣に対しては、高射砲があるとはいえ、射撃の難易度が高く、兵士達は難儀している。
そんな中、城塞の塔に肉薄した幻獣ベンヌが、翼に青い炎を纏って振り払い、鋼鉄と岩盤でできている筈の城塞に火災を引き起こした。
「私が行きます!」
敵の接近を許した城塞の一角に、りぼんが素早く救援に向かった。
彼女が振り袖を振ると、一本の長い襷が袖から飛び出し、城塞の屋上にある軍旗が掛かるポールに巻き付いた。それは、彼女が地面を蹴ると同時に引き戻され、反動でりぼんを通常の神足以上のスピードで、上空に飛ばす。
この襷は、エネルギー状のモノで、攻撃力がない代わりにりぼんの移動をサポートする。同じ女性隊士のアヤメに追随できるように、彼女が編み出した縁産魂という業だった。
「やあっ!!」
りぼんは、高速でポールの横を抜けると、そのままの勢いで塔に降り立ったベンヌに飛び蹴りを加え、城塞の外へと追い返した。
華麗な動きに対してか、ふんどしが食い込むお尻を見てか、此方は男性兵士達から歓声が上がった。
「残りは任せろ! 喰らえ!!」
上空から攻める敵に対し、ベンも救援に動いた。
白頭巾を被った頭の上で、薙刀を扇風機の様に高速回転させる。すると、雲に届く程の竜巻が発生し、飛行する幻獣達を吸い寄せ、地面に叩き落とした。
「出た! 弁台風!」
「決まったな、弁台風!」
「そんなヘンタイみたいな業名じゃねぇーよ!」
苦手な空戦を補うベンの業に、賛辞を贈る太郎や幸彦らが、墜落した幻獣達に斬り掛かって行った。
空中部隊へ対抗できるようになったのも束の間、今度は地中から轟音が鳴り、城塞が揺れる。
「くっ、今度は下か!」
目から遠距離攻撃を放つ、奇妙な円錐形の幻獣メジェドに撃ち返していたアベルが叫ぶ。
地中に潜って攻撃を仕掛けているのは、植物幻獣オシリスで、包帯のような平たい蔓を振り回し、砂に埋もれた城塞下部を殴打していた。強化壁が容易に吹き飛び、蔓が城塞内部に侵入する。
「俺がやる! ここは任せた!」
アベルはシルフィーにメジェドのビームを防衛させ、屋上の胸壁を超えて、城塞を飛び降りた。
途端に、宙を舞う別の幻獣が彼を仕留めようと肉薄したが、拳銃を発砲し返り討ちにする。
アベルはそのまま空中から、巨大な土竜が移動したような後が残る砂地を凝視し、拳銃を仕舞うと、左のレッグホルスターにある銃を取り出す。訓練中には使用していなかった、大型のリボルバーだ。
「ジャッジメントレイ!!」
リボルバーを構えると、銃口の前に、ロックオンマーカーのような光の輪が現れた。
アベルがトリガーを引くと、レーザー光線のような光が、銃口から放たれる。
「グァ!!?」
砂地に潜っていたオシリスは、光の矢のような業を受け、大ダメージを受けた。衝撃で包帯が解けるように吹き飛ぶが、中身はない。
アベルは砂地の中を移動する幻獣を、森羅で正確に捉え、正確無比な射撃で撃ち抜いてみせた。
「水虎次元流、弐の太刀―名残!!」
十兵衛の太刀を鋏で防御したセルケトは、反撃に転じようとした。
しかし、その鋏が、まるで、見えない太刀を押し付けられているかのように、圧を受け続ける。
「何だ!? 斬撃が消えない!?」
次の一手が遅れたセルケトに、十兵衛が再び太刀魚を振った。
セルケトは、咄嗟に毒針が付いた尾っぽを振ったが、その尾が切断される。
「おのれっ、不埒者!」
セルケトは追撃を逃れる為、素早く砂の中へ潜った。
オシリスとセルケトがダメージを受けたのが皮切りとなり、戦況は人類側の優勢に傾き始めた。
不利を悟ったエネアド軍は、素早く撤退を開始する。ガイと戦うアヌビスが、神託を使って指示を出したようで、これも、非常に統率の取れた動きだった。
「……ぜぇぜぇ……!」
兵士達は、敵の撤退という事実が暫く飲み込めず、呆然と彼らを見送った。
しかし、多少の損害は被ったものの、基地を守り切った事実に気付いた兵士達の歓喜の声が、やがて各所から湧き起こった。




