二十一話 ヘリオポリスの戦い㊀
真、勝志達、白兎隊を含むエウロパからの遠征部隊は、エジプト東部ヘリオポリスに築かれた軍事基地に入った。
この基地は、リビュア制圧を目指した幻獣軍エネアドとの戦いで、当時のプロヴィデンス軍及びエジプト軍が最後の抵抗を行った場所だった。敗戦後、基地は幻獣に破壊されたと思われていたが、一部、無事な施設が放置されたままで、偵察に入った軍が改修を行えば使用可能と判断し、対エネアドの前線基地に選ばれた。
「見ろよ真、戦車だ戦車だ! キャタピラがカッコいいぜ! プロヴィデンスの女兵士だ! ピチピチでエロいぜ!」
勝志が、男子に刺さる物を見付けてはテンションを上げている。既に基地には、バビロン方面からの部隊が到着しており、彼らが持ってきた最新兵器が配備されていた。
「もっとボロボロかと思ってた。……僕が敵だったら、改修が進む前に攻め込むね」
真が基地の要になる城塞を見て言った。
城塞は、長らく放置されていただけあって、半分程、砂漠の砂に埋もれている。しかし、無事な屋上部や窓、銃眼に、高射砲やガトリング砲を新たに設置。外壁の防御力を上げる工事も行われていた。
「よっ、真、勝志!」
エウロパ部隊を出迎えるバビロン軍の指揮官、ファイが、二人に気付き陽気に声を掛けた。
兵士達は、焼け付く砂漠の気候に慣れておらず辟易していたが、風通しがよさそうな衣装の彼女は、故郷を取り戻す戦いを前に、静かに闘志を燃やしているようだった。
「何だ何だ、この陣形は……!? ふざけてんのか!」
白兎隊士達は、基地内の作戦会議室に集まって各々、席に着いていた。そんな中、アベルが決めた決戦時の守備陣形に、隊士達から抗議の声が上がる。
教壇のような場所に立つアベルの後ろには、基地施設とその周辺図が貼られ、軍や隊士達の配置に細かく鋲が打ってある。
部隊配置は、城塞の屋上部に軍の砲撃部隊とアベル達五人の新入隊士。他の隊士は歩兵に混じり、城塞の前面に配置されていた。
「てめぇーらだけラクしようって言うのか!?」
「前に出ろ、前に! 臆病者が!」
「大体、何でお前が作戦決めてんだよ!」
立ち上がって抗議する隊士に対抗するように、ノームやイフリータ、ディーンが立ち上がった。
「俺達はお前らとオツムの出来が違うんだよ。バカみたいに前で戦うだけじゃないのさ!」
「副長なんだから作戦を決めて当然でしょ? 分かってないわね、アンタら……!」
「まっ、地べたで戦うのはオレらの性に合わないんでね! 囮は任せるぜ、ベイベー!」
これに対し「何ぃー!」「舐めやがって!」「イフリータさんがそう言うなら……」とキレたりする隊士、太郎達と、喧嘩腰のノーム達をアベルが「止めろ!」と一喝した。
「喧嘩は止めろ。エネアドはもう動き出している。これは間違のない情報だ。連中がここへ現れた場合、確実に迎撃するのが俺達の役目だ……!」
アベルが冷静に言った。
エネアド軍は平時、広大なリビュアの大地を一定の範囲に区切り、自軍の幻獣に縄張りとして与えていた。しかし、今、これらの縄張りの幾つかに、命懸けで偵察に入った軍の部隊が、そこを収める幻獣の不在を確認。
その情報から、軍はエネアドが軍勢を集結させているのが濃厚と判断していた。
「……まぁ座れ、太郎、又三郎。野郎がどんだけ立派な作戦を立てたのか、聞こうとじゃねぇか……!」
椅子に浅く座ったガイが、物言いた気な雰囲気を出しつつも、仏頂面で言った。
隊士達が喧嘩の矛を収めたのを見て、再び、アベルが切り出した。
「作戦の詳細を話す。……シルフィー、続きを頼む」
まだ文句を言いそうな部下を前に、アベルは的確な判断で、女性のシルフィーにバトンパスした。
目のやり場に困る格好のシルフィーが前に出ると、男性隊士達は逆に注目し、大人しく作戦を聞く。
「では、私の方から作戦の詳細を話させてもらいます。まず、幻獣が西方から攻めてくる事を仮定し―」
アベルが感謝するように、真に目配せをした。
真は、隊士達が指示に従わないのではないかと危惧していたアベルに、簡単なアドバイスをしていた。




