二十話 ミッション㊄
「幽世で銃を扱うのはそこまで難しくない。大事なのは道連れの使い方だ」
アベルは、基本的な拳銃の扱い方を真と勝志に教え、実践させた後、幽世での射撃方法を教えた。
「銃を幽世入れる場合、空蝉が撃発を阻害しないように、弾丸は幽世に入れないでおくんだ。弾はトリガーを引いて射出したら初めて道連れにする」
アベルは説明しつつ、自分の銃を構えた。銃は独りでにセーフティが解除され、スライドが引かれる。
「発砲まで全て神足で操作してもいいが、無理な操作は破損を招く可能性があるから注意してくれ。軍に入った幽玄者は、最初、銃も幽世に入れず、発射した弾丸を道連れにする訓練から始める」
トリガーが引かれると、弾丸が射出される。即座に幽世に入った弾丸は、森羅で捉え辛く、幻獣に対抗できる威力を有する。
「ふーん。そう言うカラクリか」
真は銃を構え、アドバイスがあったにも関わらず道連れにする。自分の空蝉で銃を破壊しないようにする為にも、できるようにするメリットは大きい。
真が的を狙い発砲すると、同時に道連れにした弾丸は、通常では貫通できない的を貫いた。
「君は中々、器用だな。同じ銃で弾速や威力が変えられるようになれれば一人前だ」
アベルが呆れながらも、賞賛した。
「よーし、おれも……! ……あれ? 弾、出ねーな」
「勝志には無理だろうな」と真は思ったが、予想通り勝志は射撃に失敗した。
何度もトリガーを引いたり、銃を振ったりしたが、弾も幽世に入ってしまっているらしく、薬莢が引火しない。
困った勝志は、あろう事か銃口を覗き込む。
「あっ、危ないないぞ!」
慌ててアベルが叫んで、勝志は銃口を覗くのを止めたが、銃をあらぬ方へ向けたとき、唐突に弾丸が発射された。
「あっ、飛んだ!」
弾丸が幽世に入っていれば、訓練室の強化壁とて貫通しかねない。
しかし勝志の弾は、空中で見えない壁に当たったかのように弾かれ、事故を免れた。
「?」
「あ、危なかったですね……」
両手で自分の銃を握っているシルフィーが、苦笑いをしながら言った。
真も勝志も、彼女が何をしたのか分からなかったが、どうやら暴発した弾丸を、何らかの方法で止めたようだ。
「注意してくれよ……。同じように手榴弾やロケット弾も、起爆の瞬間を幽世に入れなければ使える。訓練あるのみだ」
アベルが言った。
「よーし、頑張るぜ!」
「君は止めときなよ。でも、これは中々、使えるかもね。氣弾より消費しなくて済む」
道連れ不得手の勝志から銃を取り上げながら、真は習った価値はあると判断した。
面白くなさそうな勝志を横目に、真がかなり自在に射撃ができるようになった頃、訓練室のドアが開き、長身の男ディーンが現れた。
「おーいアベル。もう直ぐ港に着くみたいだぜ。デッキから向こう岸も確認できた」
「そうか。よし、真、勝志、訓練はここまでだ。少しでも戦術の助けになれば嬉しい。港に着いたら陸路の移動になる。他の隊士に連絡して、準備に取り掛かってくれ。俺は艦橋に行く」
アベルはそう言い残し、訓練室を出て行った。真と勝志はふざけて敬礼で見送った。
「ところでシルフィーちゃん。折角、同じ任務に就いたんだ。港に着くまでオレの部屋で休まね?」
唐突にディーンが、シルフィーの耳元に顔を近付け、人目を憚らずに誘った。
「この部屋を片付けておかないと……。それに、移動前に荷物の確認を―」
困った表情で断るシルフィーに対し、ディーンは彼女の背に手を回すと、素早くブラジャーのホックを外してしまった。シルフィーは慌てて両胸を押さえて、ブラが落ちないようにする。
「きゃあっ!」
「大丈夫だって。片付けなんてそこの下っ端にやらせりゃいいんだから。オレらは楽しく部屋で―」
突然、バリッと音がして、弾丸が防弾ガラスを破壊した。弾はディーンの肩を掠めていて、チャラく伸ばした青い髪の毛を、数本舞わせる。
「あ、危ねぇな、オイ!!」
「すいません。暴発しちゃって」
硝煙の上がる銃を持った真が、ニヤニヤする勝志の隣りでサラリと言った。
気分を害されたディーンが怒って去って行った後、真と勝志も片付けをせず部屋を去る。
「……どうしましょう、これ……」
残されたシルフィーは、ブラジャーを着け直すと、決まり悪そうに砕かれたガラス片を拾った。




