十七話 ミッション㊁
遠征部隊に加わり、戦艦でガリアからエジプトを目指す真、勝志は、再び、見張りと訓練の日々に戻っていた。
国際連合の政治機関プロヴィデンスは、これ以上の幻獣の侵攻を阻止する上で、主要な都市部は勿論、民間人がいる場所での戦闘を極力回避する作戦を立てた。これは、華国やマガラニカで首都に攻め込まれ、多大な被害を被った事が要因にある。
―宣教―と名付けられたこの作戦は、補給路を確保した最前線の軍事施設、要塞に大部隊を配備。一種の隔離された戦場を作り出し、被害を抑えるという策だった。
真達のこの遠征も、その作戦の一環であった。バビロン国などの敵勢力を倒し、前線を押し上げたのもその為である。
「何だかっ! わたし達だけっ! 離れた場所でっ! 頑張れっ! って感じですよねっ!」
休暇中に大和から届いた道着に身を包んだ隊士達が、甲板で訓練をしている。りぼんは、新調された振袖風のミニ着物を着て、十兵衛と組み手をしながら不満を拳に乗せた。
「非戦闘員がいる場所より俺達もやり易い筈だ。支援と補給は抜かりなく、孤立無縁ではない」
それに対して十兵衛は、首から下げた数珠や言葉を乱さずに受け流した。
「幻獣が……っ! わたし達を無視して……っ! エウロパとかに向かったら……っ! どうするんですかね……っ!?」
りぼんは、今度は十兵衛の拳を凌ぎなから言った。用意された戦場に、わざわざ幻獣が来るとは限らない。侵攻に陸路を取る必要がない彼らが、此方を相手にするだろうか。
「幻獣とて眼前に出てきた俺達を始末したいだろう。そういう連中だ。それに、エウロパはエウロパに残っている軍と、エインヘリャル聖騎士団が守る。だから、この遠征は、俺達やバビロン軍、プロヴィデンス軍が行う」
再び、十兵衛が、りぼんの疑問に淡々と答えた。
「……高みの見物か」
二人の会話を聞いていた真は、何処か気に食わないエインヘリャルにケチを付けた。
一方、白兎隊士の多くは、どちらかといえばプロヴィデンスを嫌っていた。確かに白兎隊は、彼らの指示で厳しい戦場を渡らされ、第一次幻獣戦争での悲劇に繋がったのだ。
新たにプロヴィデンス軍から派遣され、副長となった男アベルが、暫しば「合同で訓練をしよう」と言ってきたが、隊士達は、誰も参加しようとしなかった。
「連中の豆鉄砲訓練なんかに付き合うじゃねぇ! プロヴィデンス軍なんてのはなぁ、勝てる戦しかしない腰抜け連中なんだよ!」
最初の挨拶で、彼らに悪印象を持ったのかガイが言った。
真は、その場に居合わせなかった為、何故、彼らがそこまで嫌われているか分からなかった。
「国際連合加盟国の幽玄者を独占して、自分達の都合でしか派遣しねぇ! お陰で滅んだ国が幾つあるか」
「誰にでも噛み付くからなぁ……」
ガイの悪態を聞き、真はぼやいた。彼が他人に喧嘩腰なのは何時も事だ。
「それに連中は銃をメインに使う! 近付いて戦わないなんつーのは臆病な証拠だ!」
「自分も使ってるじゃん」
ガイの横暴な物言いに、真は思わずツッコんだが、全く無駄だった。
「……オレのはサブウェポンなんだよ! 戦いの主役は刀だ刀!」
ガイは、そう言い張った。
組み手を続けていたりぼんが、素早い連撃から得意の踵落としを繰り出したが、冷静な十兵衛には通用せず、振り下ろす前に足首を掴まれてしまった。
「あっ、ちょっと……っ! きゃっ、見ないで下さいよー!」
片足を振り上げたままの格好なので、褌がミニスカートから露わになってしまう。りぼんは、ケンケンしながらどうにか隠していたが、十兵衛が手を放すと転倒した。
自分で縫ったのだろうか、此方もリボンが付いた可愛らしい物に新調されていた。




