十二話 魔女の島㊁
「レムリン! ほら、ブルーベリーだよ! いらない? なら、わたしが食べちゃうよー!」
ラーラがハンカチに包んで持って来たブルーベリーを一粒摘み、魔女の島の真ん中辺りにある木の、小さなうろに差し出している。フクロウの棲家でもありそうなそのうろは、やや木の高い位置にあり、ラーラは根っこの高い位置に乗っていた。
「天気予報では今日、雨が降るらしいから、濡れない所にいてね!」
島に辿り着いた真と勝志は、そんな独り言を言っている可笑しなラーラを発見した。ラーラは地名に合わせたのだろうか、魔女っぽい黒のミニスカワンピを着て、艶かし太ももを出している。
「やぁ、ラーラ」
「何やってんだ?」
「!? 真、勝志っ!? どうしてここに!?」
二人に声を掛けられたラーラは、かなり驚いた。
森羅を使える彼女は、油断していなければ直ぐに人の気配を察知できる。しかし、幽世を移動する二人には、警戒していても気付けなかった。
「今日中に出発する事になったんだ。家に行ったらこの辺りで見たって話を聞いて」
「いい場所だなー。ラーラの秘密基地か?」
「そ、そうなの!? ごめんね。わたし、なにもしてあげられなくて。もっと二人にガリアを楽しんで欲しかったんだけどっ」
わざわざ別れの挨拶に来てくれた真と勝志に対し、ラーラは、さり気なく木のうろをピンク髪の頭で隠すようにしながら応えた。しかし、スカートの裾を気にする仕草と同じように、逆に男子の興味を引いた。
「そこに何かいるのか?」
勝志が言った。確かに生き物の気配を感じる。それも、普通の生き物とは何処か違った。
「そいつは……」
「ち、違うの! っきゃあ!!」
不安定な足場にいたラーラは、近付いた真から、うろの中を更に隠そうとした所為で、根っこから足を踏み外してしまった。
真は、咄嗟に体を滑り込ませてラーラを助ける。
「いたた……あっ!」
二人は尻餅を突きつつも、真がラーラを後ろから抱き抱える格好で受け止めていた。
しかし、ラーラの柔らかい胸が、真の両手に収まってしまう。更に、先端の突起が指先に触れたり、指の間に挟まったりした。
「きゃぁああああああ!!」
「……ごめん」
布一枚越しに、敏感な場所を触られたラーラは、飛び起きた。
謝る真を、紳士の勝志が咎める。
「だめだぞ!」
「事故だろ……」
トラブルが起こった三人は、暫く、自分達がどうしてこの場にいるのか忘れてしまっていた。
しかし、ラーラが隠していたうろから、聞いた事がない鳴き声が聞こえてくる。
「リーン……」
「!?」
「ああ?」
真っ赤になっていたラーラの顔から、血の気が引いた。急いでうろの前に戻ろうとしたが、既に、猫くらいの大きさをした、茶色の毛の生き物が顔を出していた。
「だ、だめ!」
ラーラが生き物を奥に戻そうとしたが、手遅れだった。
「そいつは……」
真は、訓練と実戦でラーラを凌駕するようになった森羅を使い、生物の正体を探った。
哺乳類のような外見で、やたらと大きな耳と長い尻尾があり、前脚の指がやや尖った形に伸びている。
既存の動物に当て嵌るものを、真は思い浮かばない。だが、何より、その正体が掴めないのが証だった。
「幻獣だね……!」