妹に陥れられ、婚約破棄されて、辺境伯の冷血公爵のメイドになりましたが彼はハーフバンパイアで血液供給係を命じられることになったのですが…。何故か彼とともに王太子と妹の婚姻式に呼ばれることになりました。
「エメリー・レンダル、私の愛しいユーリをいじめた罪で婚約破棄をする!」
私はふふっとユーリが楽しそうに笑うのを見ました。ユーリは私の腹違いの妹です。
婚約者の王太子殿下はユーリの胸をチラチラ見ています。完全に胸の上半分が見えるデザインでした。
「お前は辺境伯のレイド・エルフォード預かりとする!」
「どうしてそうなるのですか!」
私はつい反論をしてしまいました。冷血公爵と有名な彼は婚約者さえ決まらず、辺境伯として50年以上領主をしている人です。
年齢不詳とされていますが、若く見積もっても70歳以上です。
「使用人がいつかないと相談を受けていてな。お前は使用人として彼の預かりとなる!」
いや、そんな厄介払いみたいなというか厄介払いなんですよね。
私は政争に敗れた自分を呪いました。
1年前に庶民に産ませたというユーリが引き取られ、私はさすがにここまでするとは思わず、油断をしていました。
色仕掛けで殿下に取り入り、腹違いの姉である私がいじめたという噂も流していたようです。
「連れていけ!」
私は衛兵に両手を取られて、ここから退場させられました。そして……。
「……役立たずが連れてこられたと思ったら、元侯爵令嬢の婚約破棄されたという女か」
「……あなたが辺境伯のレイド様ですか?」
「ああ本人だ」
どう見ても20歳過ぎの若者がそこにはいました。
メイド服を着せられた私は彼が50年以上この地位にいるとか噂ですわよねと思います。
「50年以上……」
「正確には48年と3ケ月だな」
「どういうわかづく……」
「聞いていないのか? 私はハーフバンパイア、つまりダンピールだ」
「はああああ?」
伝説にしか聞かないバンパイア、つまり吸血鬼。そしてハーフ? 私はどうしてそんな人がと驚きます。
彼は淡々と説明をしてくれました。
金髪碧眼の美青年ですが、目が吸血鬼特有の赤い目ではありません。
「私は真祖ノインが気まぐれに作った人間との混血でな、今年で159歳になる」
「ひゃくごじゅうきゅうさい……」
「真祖ノインは千年を生きていた吸血鬼だが、150年前に打ち取られたのは知っているな?」
「確か……」
「そこから吸血鬼は真祖が消えたことで、全滅した。始祖がいなくなればすべての吸血鬼が消えるシステムでな。半吸血鬼の私だけが生き残ったというわけだ」
「はあ」
私も伝説では聞いたことがあります。でも150年前なんてひと昔前以上で、みなにとってはおとぎ話に近いですわ。
吸血鬼の実在を疑う人もいました。
「お前たちの王国の最初の王が、私を庇護するという条件で、我が母を妃として迎え入れて、私はその時から辺境伯としてこの土地に存在する」
「そんなこと聞いてませんわ……」
「適当に代替わりを演出しているからな。でも使用人としてくるものには説明をするようにはいっているが、あのバカ王太子、忘れていたな」
「いえただたんに嫌がらせだと思いますわ」
つまり、いまの王家とこの人は縁続きですのね。なら納得です。
しかし嫌がらせ……あの妹の入れ知恵かもしれませんねえ。
「事情は理解しました。使用人としてこちらに雇っていただくのでしたら精一杯務めさせていただきます」
「適当でいいけどな」
彼はふわあとあくびをします。今は太陽が出ていますが、太陽も平気だし、十字架も平気、ニンニクも平気だといいます。
「人より寿命が少し長く、少し魔力が強いだけでな、多少強力な魔法使いといったところで、害にはならないと判断されたんだ。使徒を作る能力もない」
「使徒が作れないとなると……」
「姿も変えられないし、まあ血は飲むが、供給源は不足はしていないから大丈夫だ」
どうもそれほどは人と変わらないようで安心しました。私は館を案内してもらいましたが、埃だらけですごく汚いです。
「使う場所だけ掃除してもらうだけでいい、私は食事もとらないし、掃除だけでいい、洗濯は通いの洗濯婦がしてくれている」
しかし使用人が一人もいない辺境伯って……。
私はとりあえず掃除だけと思って、掃除道具を探しても、リネンさえありませんでした……。
必要なものを書いて彼に渡して、とりあえず使用人の使っていた部屋のみを掃除して使えるようにしました。
前途多難ですわ。
「……血液供給源が送られてこない……」
「血液供給減とは?」
「月に1度、血を吸われてもいいという人間が来るのだが……どうも忘れられているのか?」
「もしかしたらそれ私かもしれませんわ……」
「まさか」
「あの妹が考えそうなことですわ」
いやがらせに度が過ぎるというか……私はでもまあ2週間一緒にいたレイド様は浮世離れはしているが悪い人じゃないので、割と快適には過ごしていました。
食料はたまに必要なものを届けてくれる人のお願いをしてくれてましたし、私に必要なものは用意はされていました。
暇なときは図書室の本を読んでいいといわれ、行ってみるとかなり貴重な図書があり驚きましたわ。
「……使徒にならないのならいいですよ」
「しかしあのバカ王太子がそこまでするとは……」
「妹の入れ知恵でしょうねえ」
すまなそうに眉をしかめるレイド様、彼はほややんとはしていますが、決して頭の回転が遅いわけではなさそうです。
私の説明でほぼ境遇は理解してくれましたし。
でも外の情報はあまり入ってきませんし、どうなっているかわかりにくいですわよねここ。
「さあどうぞ」
「……非常に聞きにくいが、あのそのだんせい……」
「経験とやらはありませんわ!」
そういえばバンパイアの吸える血の必須条件はその処女、童……でしたわ。つまりその経験がない人だけ。
「すまない……」
顔を真っ赤にするレイド様、私はどうぞと首を差し出すと、少しだけといって彼はゆっくりと牙をたてました。少しちくっとするかな程度でしたわ。
「……これで一か月は持つ」
「あまり吸わないのですね」
「ああ、傷口はすぐ治癒するし、貧血になるようならいってくれ、まあ私はハーフだからそれほどの血は必要ない」
ほんの数分で、吸い終えた彼はすまないと頭を下げます。
まあ、使徒は吸血鬼の言いなりになり、そしてその吸血鬼と同じ特性を持つことになるのでご免でしたが、そうじゃなかったらまあいいかなと。
彼は自分の私室でいつも一人本を読んでいたり、ぼおっとしているだけでしたが……。
何かとても寂しそうに見えました。家からも放り出され、皆から裏切られた私と少し似てましたもの。
「……婚姻式にお呼びしますって……」
「強気な妹だな、招待状を送りつけてくるとは」
「……はあ」
私はたぶん見せつけたいのでしょうねえ。とレイド様に苦笑いで返しました。
ここにきて一ヶ月がたちました。しかし比較的平和に過ごしていたのにこれはないと思いましたわ。
「どうする?」
「行かなければ行かないで、また何かしでかしそうですので行きますわ」
「そうか」
彼はドレスや必要なものは用意させようと言ってくれましたが、しかしここまで馬鹿にされるなんてねえとため息をついてしまいましたわ。
「やり返すか?」
「え?」
「復讐をしてみるか?」
「……そうですわねしてやりたいですわ」
「なら力を貸してやろう」
一瞬、レイド様の目が赤く光り、私が驚いていると、彼はニコッと笑い、いい方法があるといいました。そのとたん、目がいつも色に戻り、いつもの優しい笑みをレイド様は返してくれました。
「ここに私レオンハルトは愛しいユーリ・レンダルと婚姻を宣言する!」
婚姻式を私は退屈だなという思いで見ています。私の隣にはレイド様も一緒で、女性たちがちらちらと彼のほうを見ています。
見た目は確かに黙っていればかなりの顔立ちのいい人ですし。
「退屈だな……」
ふわあとあくびをするレイド様、あ、ユーリが睨んでますわ……いい男好きですもの、見た目なら殿下以上ですし。
私の着ているドレスやアクセサリもあんなものみたことがないと素晴らしいと皆がほめたたえています。
確かに妹のものよりかなり上だということは素人の私でもわかりました。首飾りのダイヤなんて見たことがないほど大きいです。加工も素晴らしい。
「レイド様、復讐は……」
「ああもうすぐだ」
レイド様がぱちんと手を鳴らした途端、ユーリが口を開きました。
婚姻を承認する言葉のはずが……。
「私は婚姻はしたくないですわ。だってこの馬鹿の相手を続けるのはこりごりですの!」
皆が驚き騒ぎ出します。あ、殿下が一番慌ててますわ。レイド様の仕業だとわかりますがでもどうやって?
「この馬鹿を奪い取れば、お姉さまが悔しがるだろうと思いましたが、思ったより平気そうですし、私よりも良いドレスにアクセサリをしていて許せません。いい男もつれていますし、悔しいですわ。それに私をいじめたという噂を流したのに、それも平気そうにしていますし……どういう神経していますのよ!」
ぺらぺらとユーリが話だし、皆が騒然となる中、にこっとレイド様が私に笑いかけ、これで婚約破棄で辺境送りは君の妹かなと言います。
「……あなたのところに来させないようにしてくださいまし」
「そうだね、私の供給源は君だけでいいよ」
「……レイド様」
レイド様はさあ、楽しい婚姻式になりそうだと意地悪く笑います。ええとても楽しい婚姻式になりましたわ。
「婚約破棄で辺境送り、修道院送りとは」
「あのバカが王太子でなくなったのは傑作だった!」
クスクスと楽しそうにレイド様が笑います。私はいつも通り彼とともにお話をしています。
掃除も終わりましたし気楽ですわ。
「さあ、復讐としては手ぬるいがどうする?」
「そうですわねえ、妹にはもっと痛い目を見てほしいです。しかし使徒の力はないと」
「ないけれど、あの女のまずい血を吸ったのは嫌だったが……使徒にする力はないが、数時間程度好きに動かせるだけの力はあるんだ。だからあいつに本音を話すよう命令したんだ。まあ君には絶対にしないよ」
「処女が必須条件だったのでは?」
「必須条件ではあるよ。だって栄養にはならないんだからねえ」
妹はどうもだんせいけいけんがその……レイド様はあれに本音を話すよう暗示をかけて、そしてあの大騒ぎになり、傷跡は消えていて、妹の記憶も消えたのでレイド様の仕業とはばれませんでしたが。
「しかし心臓に悪いですわ」
「あははすまない」
私はレイド様に寄り添い、血液供給源は私だけですよと笑いかけます、彼はうんと笑いますが、少し困ったこともあるなあといいました。
「え?」
「うんまあ……まあうんエメリーずっと私のそばにいてくれ」
「血液供給源として?」
「いやそれもあるが、いやまぁ」
言い淀んだ彼からこの後の言葉を聞き出せずとても困りましたが、私は辺境に送られましたが今は愛しい人と二人で幸せですわ。
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