クリアミッションの回顧
俺は過去にクリアしたミッションを振り返って現在のスキルを確認してみることにした。
もちろん、一番記憶に新しいのは、ついさっきクリアしたばかりのミッションだ。
魔王を倒して、世界を平和に導く。(倒すのは自分でなくても良い)
シンプルにして王道の異世界生活だった。
いや、持っていたスキルが『グリーティングインベスト』って言う、一日一回、挨拶を交わすことで他者のステータスを永続的に微量ながら上げるという自分にとっては何の意味も無いようなスキルだったことを除けば、だったけど。
それでも、このミッションはなんとかクリアまでたどり着いたから、この『グリーティングインベスト』は今の俺の報酬リストにあるわけだ。
ただ、これを現世に持って帰って会社の同僚や家族、果ては行きつけの商店のおばあさんをパワーアップさせて、どんな意味がある。
逆にリスクの方が多いわ!
あと、クリアしたミッションは、ある王国同士の友好を改善させて、国交を結ばせるミッションをクリアした。
その時使っていたスキルが『マップオンアイズ』。
実際に通った場所や行ったことのある場所の視覚的情報だけで、正確に地図を作成することができる、国交のためには有益なスキルだった。
ただし、あくまで文明の発達していない世界に限っては有効なものだ。
これを現世で使う場面は遭難でもしない限り訪れることはないだろう。
スマホが手元にあれば初めて訪れた場所でも地図なんてものは必要じゃないからな。
他には要人の護衛ミッションで、とても役に立った超有能スキル『パーフェクトレジスト』これははっきり言ってチート能力だった。
一切の魔法を受け付けないスキルだ。
ただし、バフも回復も受け付けないというリスクはあった。
攻撃力の低い俺はほぼ、肉の盾となっていたのはさぞ傍観者を笑わせたことだろうな。
それは、この空間に戻った時のやつの反応を見てすぐに察しがついたよ。
そして、このスキルは異世界ではチートスキルの一つになり得るが、大前提が魔法が存在することだ。
つまり俺の居た世界ではまったくもって使いどころのないスキルになるってことだな。
あと一つ、これも超絶チートスキルだった。
『ドロップロスト』
一度自分の手に持ったと判定されたものが、落ちた(落とした)と判定された場合、地面やそれ以外の地面の替わりと判断されるもの(水面など)に接触した瞬間にその落下物は永久に消滅する。
もはや、チートスキルと言うよりはバグと言っても過言じゃないレベルだった。
これは手段を問わず、ある商人の資産を1億ミル(その世界の通貨)にすることだった。
ものを増やすスキルなら一瞬で終わったはずなのに、まさかの落としたら物が消滅するスキルだったために苦戦した。
このスキルも相当使いようによっては効果は高いスキルなのだが、持って帰るとかなり私生活で不具合が出ることだろう。
何せ落としたものが一瞬で無くなるんだからな。
しかも物をなくすの度合いが違う。
消滅する。
買い物をしている時にレジの順番が回ってきて、その瞬間財布を落としてしまおうものならゲームオーバーだ。
スマホだってふとした時に手からこぼれたことだって何度もある。
画面が割れるとかそんなレベルじゃなく、その瞬間そのスマホはこの世から姿を消す。
きっと、恐ろしくて物を持てない体になるだろう。
メリットはごみのポイ捨てが環境破壊にならないことぐらいか。
クリアしたミッションは4つだから、獲得したスキルも4つ。
『グリーティングインベスト』
『マップオンアイズ』
『パーフェクトレジスト』
『ドロップロスト』
やべぇ。
すごいスキルもあるにはあるが、持って帰って使えるスキルが無い!
「なにやら考え込んでるところ悪いんだけど、どうなの?持って帰りたいスキルはあった??」
クリアミッションの回顧と獲得スキルのことを考えて、茫然自失になっていた俺は、その呼びかけで我に返った。
「僕のお勧めはやっぱり、さっきの『グリーティングインベスト』が一番面白かったかなぁ。『ドロップロスト』の回も相当面白かったけどね。」
思い出してもまだ笑えるとばかりに嬉しそうな声だった。
「いや、面白さで選べないだろ!持って帰った世界で有意義に使えるスキルじゃないじゃないか!『グリーティングインベスト』がせめて俺に対する効果があるならまだそれも選択の余地はあったけど、やっぱりどう考えても効果の対象者が自分以外ってのは使えない。俺は現世で誰を無敵に育てるんだよ!結婚してから子供を無敵のステータスに仕上げるか!?いやいや、下手したら赤子のうちに父親の威厳失うぞ!」
「いいね!それ面白そう!子供が女の子だったら面白さ割り増し確定!」
「却下!」
ダメだ、このままだと俺は一生誰にも挨拶しない無礼の塊としての一生を終えるという状態で現世に戻されそうだ。
「よし、次のミッションの相談といこう!」
ここは、流れを変えて次の異世界へと旅立ったほうが得策というものだと悟った。
「そうだね、次行こう!」
どうやら、次のミッションへの期待よろしく、話は無事に前に進みそうだ。
「そう言えば、ミッションの難易度的なものとか、その時初期に持っているスキルってどうやって決めてるんだ?」
なんだか、大事な質問を今更にした気がする。
「えっとね、あんまり詳しくは言えないんだけど、色んな所で困ってる人の相談みたいなのを受け付ける窓口みたいなのがあるんだよね。もちろん、色んな世界に困っている人は無数にいるわけ。そんなものは数えたらきりがないけど、たまに僕のような存在が、ランダムで手を差し伸べてあげたりするんだよね。もちろん、なんでもかんでも困りごとを簡単に解決しちゃったらその人のためにならなかったりするから、相談解決の成否は結果論的なことになるんだけどね。」
もう何度目かわからない重大事項をさらりと言いやがった。
なんだよ、その市役所の相談窓口みたいなものは。
是非今の俺が相談したいくらいだわ。
それに『僕みたいな存在が』ってコイツだけじゃないって意味か?
どんだけカオスだよ。
でも、やってることは悪魔的な何かじゃないってことかな。
それがせめてもの救いか。
「つまり、そのお困りごとの解決の手助けを、何らかの事象を起こして行うのか、その事象が『君』なのかってことだね。お困りごとの内容は、箱の中に入ったくじをひいてるようなイメージしてもらったらいいかな?もちろん、選べないわけじゃないけど、当たりはずれは行ってからのお楽しみってことで。」
そこは完全にお前の楽しみだろ!
と、喉まで出たが、辞めた。
言って解決するような相手じゃないだろうから。
「それでスキルはどうなんだ?」
「んー、それも君の運だね。なるべく、世界観に合うようなスキルを選んでるつもりだけどね。それこそ、魔法のない世界で魔法耐性系のスキルや魔力強化系のスキル持ってても仕方ないでしょ?」
いや、それ、獲得しても俺の世界で使い道がないことは考慮してくれないのか?
心の中での突っ込みが増えていくばかりだ。
口に出したくないからいっそ、心を読んでその辺の考慮もしてくれないだろうか。
「それも出来なくはないんだけどねぇ。」
「 !? 」
「相手の思考読んじゃうと、会話が成り立たないじゃない?僕がしゃべってそれに対する返答は返ってくる前に分かっちゃうし、それが本心なのか建前なのかも分かっちゃう。それじゃあ何も面白くないでしょ?」
「いやいや、今完全に俺の心読んだでしょ!」
恐ろしい、本当に恐ろしい。
冗談で心を読めと思ったけど、本当に読まれたらこんなに怖いことは無い。
「今のは君が無言で、何か呼びかけてる気がしたから、やっちゃっただけだよ。大丈夫、今までもそういうことはしてないし、基本的には僕の個人的な趣味からしてもそんなことはしないよ。」
信じていいのかどうか分からないが、これももはや信じる以外に手の打ちようがないし、分からないことだらけだが、なんとなくコイツの性格からしても心を読んで相手の返答をカンニングするようなことはしなさそうではあるか。
「わかった、信じよう。別に読まれて困るようなことも考えてないしな。」
「そうしてくれるよ助かるよ。君が今後、どんな選択肢を選ぶのかは、ある意味では今の僕の一番の楽しみだと言えるだろうからね。その楽しみをつまらない結果にするのは避けたいところだよ。」
「話の腰を折って悪かった。さぁ、次のミッションの話をしようか。」
例年より早い梅雨入りをして、梅雨入りした以上やっぱり雨が多いですね。
最近では梅雨のあめはシトシト降るより、暴風雨が多くなってきている気がします。
傘をさして歩くのも一苦労です。
私は子供の時、傘をささなくても自分だけ濡れないスキルに憧れていました(笑)