07.バーベキューとひと悶着
バスが出発してからあんなに姦しかったのにも関わらず、それはトイレ休憩を重ねていくほど、静かになっていった。
……と加藤が言っていた。
僕、一優希は結構熟睡してしまっていたらしい。
起きてみると、隣の筒井は未だに寝息をたてており、起きていたのは班の中でも、加藤と椿、そして、
「お、おはよう。優希」
「起きてたのか、小雪」
通路を挟んでお隣さんの柊小雪だ。
可愛らしい笑顔を振りまく彼女の隣には、窓にもたれかかって寝ている楪がいた。
バスがたまに揺れる度に、楪の小柄な体が軽くジャンプする。
それを一瞥し、僕は小雪に気になっていることを聞いてみる。
「で、あとどのくらいで着くか分かったりする?」
「えーと、ちょっと待ってね」
そう言うと、小雪はピンク色のリュックから緑色の冊子を取り出し、ペラペラとページをいじり、スケジュール表の載っているページを開く。
「……あったあった。向こうに着くのが十一時四十五分だから……あと十五分くらいだね。私が起きていた間に、特にこれといったズレは無かったと思うから、スケジュール通りだと思うけど……」
「それは良かった。教えてくれてありがとう」
「……何かあったの?」
「いや、もうすぐ着くなら、こいつら起こさないとな~って」
僕が筒井と楪に親指を向け、質問の意図を説明すると、
「……優希って、前から思ってたんだけど―――」
「?」
そこで言葉を切り、呆けている小雪。
変な間があり、ようやく彼女の口が開いた。
「―――優しい、よね……」
「……へ?」
僕がそんな間抜けみたいな声を出した途端、小雪の顔が沸騰し、
「今のなし!なし!なし!!!」
首をぶんぶんと、そのまま飛んでいってしまいそうな勢いで横に振る。
なにか失言でもしたのだろうか。
気になったのは山々だったが、それ以上踏み込むのも気が引けたので、それからは他愛のない雑談を交わしたのだった。
僕らを乗せたバスは段々と山奥に、臆することなく進んでいく。
某県の山奥にある旅館に着いたのは、昼前だった。
「はい、皆着いたよ~~荷物は全部持って降りてね~~」
バスが着いた頃には皆の興奮は最高潮。
そんな姦しい空気を、担任の上原の大きな声が通る。
既に起きていた筒井が体を伸ばしながら、寝起きのせいで妙に色気のある声で言う。
「や~~とっ、着いたのかあ。長かった~」
「それにしてもよく寝てたな」
「そうだな、乗ってからずっと寝てたから……三時間もねてたのか。少しばかり寝過ぎたかな?」
「いんや。林間学校目前なんだから体力温存は賢いと思うが」
「そういやハードスケジュールだったな、この林間学校」
少しばかり過酷なスケジュールを思い出し、いまから楽しい楽しいイベントがあるとは思えないほどにいやな顔をする筒井。
睡眠欲は満たされたんだから、別にいいだろ……という言葉は口に出る前に殺した。
「ん?あれって……」
と、筒井が不思議そうな顔で外を指さす。
僕もつられて指の先を覗き込む形で見てみる。
そこにあったのは、
「……バーベキュー場か?にしても大きくないか?」
とてもじゃないが、一学年がバーベキューをするには大きい屋根付きのバーベキュー場だった。
全体的に大部分が木造で出来ており、何かの拍子で火が移ったりしたらあっという間に全焼してしまいそうだ。
その建物は、何の違和感も感じさせないほど山奥ののどかな風景に溶け込んでいる。
僕の独り言に呼応するように筒井が第一印象を口にする。
「優希。俺、なんかワクワクしてきたわ……」
「それは良かった」
「ああ、なんか、こう……THE・校外学習みたいな?」
こんな僕でも、筒井の感じている言語化しにくい、表現しがたいわくわく感が心の底から湧いてきていた。
やはり林間学校といえば、バーベキューやキャンプファイヤーなどの火遊びだろう。
少なくとも、僕の知っている限りはそんな類いの行事が多い。
と、筒井がその『THE・校外学習』の魅力を力強く語っているが、
「……筒井、みんな降り始めてるぞ」
「嘘っ?!……って小波たちもいねえし!!急ぐぞ優希!!」
「あいよ」
そうして、バーベキューに思いを馳せている男二人は急いでバスを降りた。
筒井も林間学校のせいか、妙にテンションが高い。
ついていけるか不安にもなったが、よくよく考えてみれば、無理についていく必要もないことに気付いたのだった。
あのあと適当に班で昼食を済ませ(ここでは作らずに弁当が配られた)、生徒達は今日から三日間宿泊する旅館に入り、各自部屋に案内された。
メンバーは班もおなじである加藤と筒井だ。
「……意外と綺麗だな」
「……ああ。なんか想像と違ったな」
「……さすがに掃除してるだろ」
それが僕たちの部屋の第一印象だった。
てっきり、畳はい草が解け、白い壁にはヒビ、障子はビリビリに破けているのかと思っていたのだが、山奥にそびえ立っている旅館にしては綺麗だった。
正直、ここまで綺麗とは思いもしなかった。一周まわって少し残念というか……
畳に足を踏み入れ、いざ八畳の部屋へ――
「とりあえず、夕食は外で焼き肉だからそれまでここで待機だな」
加藤が部屋の隅に背負っていたリュックを置きながら、班長会議で聞いた連絡事項を伝える。
ちなみに、ここで言う『外』は『外食』ではなく、当然、先ほど見たバーベキュー場にて作るということだ。
これが林間学校の醍醐味であり、わくわく感の源泉でもある。
「それまでどうするんだ?言っておくが、俺はとくにこれといった時間潰しのものは持ってきてないからな」
筒井がそう言う。
確かに、夕食の準備までどう時間を潰そうか。
考えていると、しおりを開きながら加藤が提案する。
「準備が始まるのが四時……今から一時間あるわけだから、仮眠でもとろうか」
ふむ、妥当だな。
「じゃあ俺は他の部屋でも覗いてくるか」
「ん。鍵だけ閉めてけよ」
早速仰向けに寝る体勢をとっている加藤が筒井に忠告する。
「あいよ。優希も行くか?ちゃんと女子部屋も行くぞ?」
「僕を変態か何かだと思ってるの……?」
「え?そうだけど?」
「あれ?おかしいぞ?何かがおかしい……」
正直、ショックだ……
いや確かに僕も男だ。
それも男子高校生、思春期の真っ最中だ。
人並みの欲はあるし、そういう色恋沙汰にも興味はある。
けれども―――間違いなく、変態と言われるような筋合いはない!!!
「で、いくのか?いかないのか?」
「いや行かないよ?!」
即答だった。当然だ。
「……橘さんの部屋も行くぞ?」
「行かないし……何故そこで橘の名が出てくるのか、小一時間ほど問い詰めたいんだが……筒井、時間あったり―――」
「じゃ、いってきまーす!!!」
そう言い残し、筒井は部屋を飛び出していった。
まるで恐れる何かから逃れるように。
一体、彼は何を見たのだろうか。
気になるところではあるが、他にもやることがあるので、それはまたの機会に。
仰向けの加藤はもうぐっすり寝ている。
それを確認、僕も部屋を出ることにしよう。
会いたい人がいるのだ。
……部屋を出てから気付いた。
事前に打ち合わせも何もしていないのだから、簡単に会うことなどできるはずもなく―――
「―――普通に部屋に突撃した方が良かったか……やらかした」
まさかこんな単純な過ちに気付くまでに、二十分もかかるとは。
まあ会ったとしても話すだけなので、そんな時間はかからないとは思うが。
男子部屋のある二階から、女子部屋のある三階に階段であがる。
そこから廊下に顔を出し、女子がいないか確認する。
いや別に夜以外なら女子部屋に入ってもいいのだけれど……なんとなく倫理的にアウトな気がしてならない。
(いないな……皆部屋で休んでるんだろうな)
廊下に出てみると、部屋のあちこちから遊んでいる声が聞こえてくる。
ようやく、今から部屋を探すことができる。
(えっと、あいつはC組だから……っとここか)
目的地の部屋も例に漏れず、中から騒いでいる声が聞こえてくる。
ベルをならそうと手を伸ばした時だった。
「優希くん……?何を?」
「っっっ?!」
突然、背後から耳朶を優しく撫でる声がした。
顔をみなくても分かったしまうくらいに聞いた声だ。
そして、僕が会いたかった人でもある。
振り向いてみると、やはりその子だった。
「恵美、ちょうど探してたんだ」
「ちょうどと言う割には、なんやら私の部屋で戸惑っているように見えましたけど……?」
「……ごめん、だから通報だけはやめてくれよ」
「冗談ですよ、じょ・う・だ・ん」
そう言って、その子は可愛らしいピンク色の携帯電話を仕舞う。
僕の所謂幼なじみであり、最近思いがけない再会を果たした天使、西園寺恵美だ。
背まで流れるように伸びた銀髪に、犬っぽい小柄な体、そしてその体に似合わない高貴な振る舞い。
……うん、我ながら可愛い幼なじみを持ったものだ。
再開したときは、その変わりっぷりに驚いてしまったが……
「……あの、優希くん。そんなにジロジロと見られると……その、恥ずかしいというか……」
「……悪かった」
素直に謝っておくが、言うほどジロジロとは見ていない。
恵美の言い方だと、いかにも不審者のような言い草だな……。
と、照れていた恵美が口を開く。
「で、私に何かあるんじゃないんですか?」
「あ、そういやそうだった」
思わず心の声がぽろっと出てしまった。
「少し頼みがあるんだ―――」
そこで、僕は一つ頼むことにした。
僕たちは夕食を作るために件の屋根付きバーベキュー場に出た。
夕方四時の山は夕日に照らされていて、眩しい。
そんな僕の周りはというと、
「見て見て~優希。お肉だよ~お肉~美味しそうでしょ~」
「……なあ、楪よ」
「どうしたの?まさかお肉嫌いだった?」
「いやそうじゃなくてな……」
「じゃなくて……?」
「……どうして僕たち二人しか準備に来ていないんだ?」
……六人いるはずの班員のうち、たった二人しか集まっていなかった。
横ではよっぽどこの夕食が楽しみだったのか、肉ののった皿を両手に、楪が子供のようにはしゃいでいた。
そんな班員を後目に、頭を掻きながら周囲を見渡す。
「にしても、本当に何処に行ったんだよ、あいつら。加藤と筒井は部屋にいなかったんだよなあ……」
「小雪と桜子も部屋にいなかったよ」
恵美に頼み事をしたあと、僕は一階にある自販機で(こんな山奥の宿にも自販機はあった)水を買い、そのまま部屋に戻った。
その後気付けば寝てしまい、起きたときには二人はいなかった。
先にバーベキュー場に出ているのかなと思い、出てきてみたら楪しかいなかった。
現在までの経緯はこんな感じだ。
そして筒井はどっかでほっつき歩いていても驚かないが、あの加藤がいないのが余計不安になる。
「さて、どうする?僕たちだけで先に始めるか?それとも待つか、探すか」
「そうだね~、探しに行こうかな」
「それじゃあ、僕が探しに行こう。楪はここにいてくれ、十分くらいで帰ってくる」
「ん、待ってることにするよ。いってらっしゃ~い」
楪はそう言って、去って行く僕に大きく手を振った。
まずは先生に行方を聞くのが妥当か。
と、人が多いバーベキュー場から抜け出すと、金網を整理している副担任の福山先生を見つけた。
福山先生というのは、家庭科の先生で、どこにでもいるような近所のおばちゃんのような先生だ。
そのためか、話しかけやすさとしては教師陣の中でも易い方だ。
なので、容赦なく話しかけることにする。
「あの、福山先生」
「ん?誰かと思ったら、首席様じゃあないかい。どうしたんだい?」
首席様って……
それを若干スルーして,僕は訊くべきことを訊く。
「えっと、筒井大輝と加藤小波、それに椿桜子と柊小雪を見かけませんでしたか?」
そう聞くと、福山先生は首を振りながら、
「いやあ、残念だけど見てないねえ。何かあったのかい?」
「まだバーベキュー場に来てないんですよ、四人とも」
「それなら、宿にいるんじゃないかい?忘れていたりとか」
やっぱりその可能性が高いか。
「そうかもしれませんね。宿のほうを見てきます。ありがとうございました」
「はいよ、何かあったら先生に言うんだよ」
丁っっっ寧にお辞儀をしてから、宿に向かう。
バーベキュー場にいるかもしれないが、あの人の多さのせいで見つけるのも一苦労だろう。
ならば、宿から潰していった方がいい。
騒がしいバーベキュー場から離れ、旅館に入る。
ほぼ全員がバーベキュー場に出ているので、驚くほどがらんとしている。
二階へ上がろうと階段の一段目に足を置いたとき、頭上から足音がした。
(加藤たちか?)
期待を胸に階段をいつもよりも早く駆け上がる。
二階のフロアに入ると、
「―――って、加藤?!」
「ゆ、優希?なんでここに?」
「なんでって聞きたいのはこっちなんだが……僕と楪しかバーベキュー場に出てないぞ」
「悪い悪い」
「で、なんで来なかったんだ?」
「なんでってほどでも無いんだけど、柊たちのほうに少しトラブルがあってね」
「トラブル?どんな感じのだ?」
「──それがよ,椿の持ち物が盗まれてよ」
僕の質問に答えたのは,廊下の向こうから現れた筒井だ。
そして彼の後ろには,椿と柊の姿があった。
「あ!優希じゃん!ごめんね,遅くなって」
柊から謝罪の言葉が飛んできた。
「いいや,大丈夫だ……それより,椿は大丈夫か?」
「う,うん……無事返ってきたから」
「なら,良かった」
椿が驚いた感じで答えたのに,僕は,そういえば,と内心考える。
なんやかんや,椿と話したのは初めてに近いかもしれない。
この林間学校で少しは距離を縮められたらな。
そう僕が思っていると,
「じゃあ,バーベキューへと行きますか!」
「だね!!」
筒井がバーベキューに戻ることを提案し,柊も──やはりというべきか──楽しみらしく,笑顔でそれに乗った。
「椿さんも行こうか。さっきのことは忘れて,思い切り楽しむことにしよう」
「そう,ですね……」
加藤も椿に話しかける。
それに椿は少しながら赤面しつつ,加藤の親切な言葉に耳を傾ける。
そんな彼女の奮闘の証にも気付くことなく,加藤は椿と歩き出す。
(椿ってやっぱり,加藤のことが好きなんだな。改めてだけど)
どこか微笑ましい光景に頬を緩ませていると,加藤が後ろを振り向いた。
「ほら,優希も行くよ」
「あいよ」
軽い返事を返してから,僕も先に行った友人たちについていった。
「あっ!みんな~~~」
バーベキュー場に着くと,楪がこちらに大きく手を振っていた。
十分で戻ってくるとか伝えていたものの,最終的にその二倍近くかかってしまったことを詫びなきゃな,と思い楪に近付く。
だが,先に口を開いたのは楪のほうだった。
その顔は不安に染まっている。
「遅かったけど,何かあったの?」
「まあ,ちょっとな。椿の私物が盗まれたらしくて」
「盗まれたっ?!桜子,大丈夫?!」
その声と同時に,楪はすぐさま椿のほうへと寄って,彼女の両肩を優しく掴み──そのまま椿の体を揺さぶり始めた。
向こう──椿もさすがに驚いたようで,焦りが混じった声で答える。
「だ,だ,大丈夫だよっ」
その言葉に揺さぶるスピードが加速する。
「ほんとに?!何も盗られてない?」
加速の源というか根源は,他でもない,椿への心配から来ている。
「ほ,ほんとぅ……だよぉ……」
「楪,そこまでにしとけ。椿が半分壊れかかってるから」
僕がそう楪を止めようと伝えると,楪はハッとなった顔で揺さぶっていた腕を止め,申し訳なさそうな声音で椿に言う。
「あ,そうだよね。ごめんね,桜子」
揺さぶられていた椿は,その謝罪に小さく首を振った。
「う,ううん。ほのかが心配してくれているのは分かっているから……」
その言葉に,楪は「よかった~」と呟いた。
ひと段落つき,加藤が様子を見計らって口を開き,
「それじゃあ,遅くなったけど食べようか」
先に班のスペースへと歩き出し,
「やった~~お肉だあああああ」
筒井が,やっとな思いで肉に向かっていき,
「桜子も行こ!!」「う,うんっ!」
楪が椿を連れて行く。
その光景をなんとなしに眺めていると,
「ねえ,優希。私たちも行こ?」
柊が僕を誘い,
「だな」
その返答で,僕たちも歩き出す。
「ところでさ,優希」
「ん?どうした」
「桜子のトラブルについて,少し話してもいい?」
「別にいいけど,本人から訊いた方がよくないか?」
どんな情報でも,他人のことをぺらぺらと話すのは,あまりよろしくない。
それが友人であっても。
だからこういう感じで問い返したが,横の柊はにっこりと笑った。
「大丈夫,だって私も一緒にいたし。これは私が見たものとして話すから」
「……まあ,分かったよ。話してくれ」
それに,正直な話,知りたかったことでもある。
僕らは皆から少し離れたところで話すことにした。
二人きり,というのも何か『あれ』な気はするも,椿のいる前で話すのも気が引けるからだ。
僕が話を促し,それに柊は一つ頷いてから話し出した。
「結論から言うと,盗んだのは別クラスの男子だったんだよ」
「男子?けど,男子が三階にあがることなんて……」
「そう。ほぼ不可能なはずなの」
彼女にしては珍しく真剣な表情で,そう告げる。
柊の言う通りだ。
女子のフロアは三階なのに対して,男子のフロアは二階。
無論,男子が三階にあがるのは禁止されている。
どうしても上がるためには,二階と三階を繋ぐ階段を上る必要がある。
上ったところで,三階の廊下には常に見回りの先生がいるので,行くことは容易ではない。
実に命がけの行為となる。
それなのに,盗んだ犯人は男子だった。
僕は参考までに柊の意見を知りたいと考えた。
「……柊はどう考えているんだ?」
「どうって……あまり考えたくはないけど,先生とグルなんじゃないかなって」
「なるほど……」
確かにあり得る話だ。
けど,盗まれたものは分からないが,先生とグルになってまで欲しいものなのか?
そんな疑問が生じた。
「優希は?どう考えてる?」
「そうだな……柊,盗まれたものって何なんだ?」
椿には申し訳ない気持ちでいっぱいだが,訊いてみる必要があるのもしょうがない。
僕が訊くと,柊は訝しい口調で言った。
「それがね,靴なんだよね」
「犯人は匂いフェチなのか?」
「それは知らないけど……いくらなんでも女子の靴の中を嗅ぐ変態はいないでしょ」
「いいや,分からないぞ。世の中には様々な変態がいるからな」
「えっ?!優希ももしかして……」
「なわけあるかよ」
「とか言ってほんとは?」
「そうです……とか言ったらいいか?」
「やっぱいいやっ」
「いいのかよ……てか,盗んだ男子って?」
これまた気になったことを訊いてみる。
ちょっとした冗談が終わり,柊がまた真剣な表情へと変わる。
返ってきたのは,質問だった。
「C組の大黒颯って知ってる?」
「大黒颯……ああ,あの問題児か」
「そうそう。問題児ではあるけど,それなりに成績も良くて,彼女もいるらしいやつね」
他校の子だけど,と柊は付け足した。
大黒颯──柊の言う通りの問題児だが,僕が知る感じでは疑問点が生じた。
「でもさ,柊。僕の知る大黒は盗みをするような奴ではないんだが」
「そうそう,そうなんだよね……」
確かに大黒は問題児だが,それは良いムードメーカーという意味合いが強い。
決して盗みなどという犯罪行為を行うような男ではないはずだ。
とはいえ,僕も噂だったり名簿を通してでしか存じないが。
柊の頷きに僕が応える。
「彼女もいるのなら尚更だろ」
「だから冤罪疑惑が出てるんだよね。大黒もその場で否定してたし」
「だろうな。まあ,僕たちが出来ることはないけどな」
「でしょ。けど知りたくない?」
「……それは仮に大黒が冤罪だとして,大黒を嵌めた真犯人をってことか?」
うんうん,と頷き返す柊。
考えてみれば,僕はともかく,柊は被害者である椿の友人だ。
なら知る権利はあるのではないだろうか。
無論,突っ込みすぎるのは危険だが。
それに,知りたいという気持ちはすごくわかる。
だからというわけではないが,僕は「うーん」と唸ってみせた。
「じゃあ調べてみるか?」
結論は好奇心に押されたものとなった。
柊はにっこりと笑って見せ,
「ありがとう,優希っ!」
「でもあんまり突っ込まないようにな。境界線の見定めは必要だからな」
「はーいっ」
やけにハイテンションな柊を見て,僕は少し思いに沈む。
どうやら柊が言いたかったことは,大黒颯のことだったのだろう。
もちろん椿のことは心配しているものの,加害者に仕立て上げられた可能性のある大黒を見て,なにか思ったことがあった,という具合か。
椿はもう大丈夫そうだが,問題はやはり大黒颯か。
僕も気になるのは事実だし,つい好奇心で乗ってしまったが。
(首を突っ込むことではないっていうのは重々承知なんだが……わざわざ冤罪をかける必要なんてあったのか?それも高校生だぞ?)
疑問は膨らんできたが,眼前の柊の言葉で現実に意識が帰ってくる。
「優希?だいじょうぶ?」
「あ,ああ。悪い,戻るか」
「ごめんね,足止めしちゃって」
「いいんだ。それに椿も心配だったし」
「相変わらず優しいね」
「褒めてくれてありがと」
会話の途中,バーベキュー場にいる友人たちへと目を向けてみる。
椿が加藤と話しているのを確認し,再度安堵する。
肉を焼くいい香りが腹の虫を鳴らさせた。
隣にいる柊がまたにこっと笑った。
「お詫びに私の分のお肉,少しあげるね」
「そりゃどうも」
どういたしまして,と柊が言う。
いったん大黒のことは忘れて,有難くお肉をもらうことにしよう。
そう決意し,バーベキューを楽しむことにしたのだった。
どうも,りのです。
実に半年ぶりです。まだ7話です。びっくりです。なんならそろそろ始まって1年ですよ……1年?!
学生ゆえに忙しく,本当にマイペースに投稿していますが,暇なときに見てやってください。
……やっぱりのんのんと書くのは楽しいですね。
ではまたいつか。