04.林間学校 準備編
短め。
楪ほのかとデート(?)した日の翌朝。
いつも通り、僕は六花と登校していた。
のだが……
「なんでそんなに怒っているんだ?」
「別に!!」
いや怒ってますよね?
そう言って、六花は唇を尖らせてそっぽ向く。
どうにかしてご機嫌を取り直さなければ……
「そう言えば、林間学校の班どうするの?」
「……決めてない。それにまだ説明もされていないし」
「……あっそ……」
また不機嫌になる六花。
今日はいつも以上に疲れそうだ、と僕は確信して校門に入った。
僕が教室に入ったのは、始業の鐘が鳴る寸前だった。
なので、殆どの生徒が着席していた。
ま、当たり前のことではあるのだが。
「おっはよう、優希!」
「お、おはよう」
「テンション低いねぇ……何かあったの?」
そう聞かれるので、反射的に今朝のことを答えそうになる。
だが、流石に六花との関係性をここで明かす訳にはいかない。
六花とバラさないと約束したのだ。
となると、ここは嘘をつくか、
「いやいつもこんな調子だろ」
こう返答するしかなかった。
自分でも分かっているのだが、いつもこんなにテンションが低い訳では無い。
流石に無理があったか、と思い楪の方を見る。
「そうかな……?」
少し無理があったか。
すると楪の顔は徐々に晴れていき
「まあ優希が言うならいいっか!」
「分かってくれて何よりだよ……」
「……やっぱなんかあった?相談乗るよ?」
「だからねえって」
「ん、分かった」
「……というか、そう言ってる楪の方がテンションおかしいんだけど」
「えへへ、分かっちゃった?」
分かるも何も、見たら誰でも思うだろ。
「ま、まあな」
そう答えておくと、楪はそのやや面倒くさいテンションで迫ってくる。
「聞きたい?聞きたい?」
「そんなに言いたいなら言っておけ」
「じゃあ言っちゃうよ?」
よく分からない緊張感が湧いてくるのが分かった。
入学試験の合否発表の時のような緊張感だ。
「あのね、読んでるラノベの新刊が今日発売なんだよ〜」
「なんだ。そんなことか」
「そ、そ、そ、そんなこと?!」
やべ、言っちゃった。
本心が自分から丸出しになってしまった。
楪は悲しそうな顔をして、
「……そんなこと……そんなこと……」
「待て待て待て!確かに嬉しいことだとは分かるんだけども!」
「ありがとう!また奢ってね!」
「いや奢りませんけど……」
「え〜」
もうダメだ、この子についていけない。
そうして始業の鐘が鳴ったのだった。
「ねえねえねえ」
7限目の直前の休憩時間に、楪が僕に声をかけてきた。
「今度はなんだ?奢れって言われても奢らねえよ?」
「もう分かったから!」
「で、ご用件は?」
「次の時間の内容知ってる?」
「……林間学校の班わけ、だったか?」
昨日クラスのグループラインでネタバレされた。
他のクラスが昨日班わけをしたらしい。
それを聞いた生徒が、クラスのグループラインで話題に出したのが始まりだった。
「そうそうそう!班は六人班で、男子女子三人ずつで組むやつ」
「それがどうかしたか?」
「一緒の班にならない?ってこと」
「同じ班……か」
「……嫌?嫌なら言って欲しいんだけど」
林間学校は、個人的にはグッドタイミングで来た。
この機会を上手く利用して、六花との仲を修復したい。
そのためには、六花と同じ班になる必要がある。
最悪なれなくても良いが、六花と同じ班になった方が間違いなく上手くいく可能性は高くなる。
なれなかった場合は、頑張って橘家の屋敷で修復するしかない。
正直そっちの方がやりやすさはある。
が、一生に一度あるかないかの林間学校だ。
六花の側にいたいという願望だってあるし、どうせあの父親に命じられる。
現在は病ゆえに、ベッドで横になっている、六花の父親だ。
心配性なので言うはずだ。
ならば、
「取り敢えず説明聞いてからにしよう。未だに何をするのか知らないんだし」
「……そうだね」
けど、と楪は区切って、
「美少女に誘われて断る人なんていないでしょ?」
「脅迫だな……まあ、頭には入れておく」
楪はしょぼんとしてから、前を向いた。
ここからの五十分間は、僕にとっては戦場と化すだろう。
担任の上原は教室に入ってくると、生徒たちからの質問攻めにあっていた。
「先生、林間学校!林間学校!」
「何するんですか?」
「林間学校!林間学校!」
「落ち着いて席に着いてくれ」
そう言って、質問攻めを鎮めると、上原はチョークを持ち黒板に『林間学校』と大きく大胆に書いた。
黒板から身を反転させ、生徒たちの方を向く。
「えーと、君たちが何故か知っている通り、今日は林間学校について連絡する」
その一言で生徒の様子が、再度騒々しくなる。
本当に進学校なのか、と疑いたくなるほどだ。
そして騒がしいのは隣人も例外ではない。
「ね、言ったでしょ?」
「……いや僕も知らなかった訳ではないからな?それに少し落ち着けって」
「ちぇ、つれないねえ」
「待て、君そんなキャラだったっけ?」
と聞くと、楪はあはは、と笑って何事もなかったかのように喋りだした上原の方へ目を向ける。
「林間学校で何をするかだが、まずはこのプリントに目を通してくれ」
そう言って前の生徒からプリントを受け取る。
一度目を通して読んでみると、中々のハードスケジュールだ。
三日間某県のとある山奥にある旅館に泊まり、その周辺を歩いたり、そこで特別講義を受けるようだ。
何がハードスケジュールって、三日間あることだ。
(これは……仕方ない休みだよな。いや、休みじゃない。きちんと六花のお世話も……)
と思っていたのだが、見たところそもそも女子と関わる時間が班行動の時くらいだ。
それに唯一の連絡手段である携帯も旅館では使用禁止のようだ。
そこは進学校らしい。
だが周りの様子を伺うと、やはりテンションは下がっていないようだ。
数分後、プリントの説明が終わり、皆が待っていた班決めの時間がやってきた。
「じゃあ残りの時間は班決めに使ってくれ」
そう言って、上原は教壇からおりて教室の壁にもたれかかる。
皆は待ってました、と言わんばかりに一気に席を立つ。
僕もそろそろ行動しなければならない。
見渡してみると、六花は既に三人組を作っていた。
(これは同じ班になるのは難しそうだな)
そう思って、六花と同じ班になるのを諦めていると、声がかかった。
「なあ、優希。俺と同じ班にならないか?」
震源は加藤小波だった。
加藤の隣には、同じく整った顔を持つ筒井大輝が立っていた。
絵に描いたような茶髪のイケメンで、そのうえサッカー部のキャプテン。
にしても、
(イケメンが二人並ぶとこんな構図になるのか)
彼らのファンだろうか、先ほどからやたらと女子からの視線が刺さる。
この二人はいつもこの視線の雨を浴びて生きているのか。
イケメンも大変だな、と思いつつ僕は返答する。
「僕でいいのなら……」
「おう、ありがとな!!」
「ありがとう優希。これで三人班だ」
感謝の言葉をもらうが、この二人に誘われて断る者は、男女問わずいないだろう。
まだこの学校に来てから日こそ浅いが、筒井と加藤の悪い噂は耳にしない。
むしろ賞賛の声だったり、感心の声の方が多かったりする。
(加藤に関しては室長だからか、このクラスを引っ張っている印象も受けるしな……)
何はともあれ、
「後は女子だけど……優希は何か要望はあるか?」
筒井からそう聞かれる。
因みにだが、筒井とは初対面では無い。
こうやってクラスメイトとして教室でも、ラインでも話したりする。
無い、と答えようとした途端、楪からお誘いを頂いていたのを思い出した。
断るのも悪いので、とりあえず要望だけは出しておこう。
「……そういえば楪ほのかから、一緒の班にならないか、とは言われたな」
「じゃあ決まりだな。加藤はそれでいいか?」
「当たり前だ。楪さんたちのグループに突撃するか」
「うちらがどうしたの?」
三人で方向性が合致し、楪たちを誘うとしていると、僕たちは後ろから声をかけられた。
言われるがままに後ろを向くと、そこには柊小雪がニヤニヤしながら立っていた。
「柊、お前楪と同じ班だったよな?」
柊小雪。
楪とよく一緒に居る女子だ。
僕はほぼ確信しているが、念のため聞いておくことにした。
「そうやけど……組むってこと?」
「話の早い人は嫌いでは無いな」
「てことは、優希君。君、うちのことが……」
「いやどうしてそうなる。で組んでくれるのか?」
左右の頬を両手で隠して恥ずかしがっていた仕草を見せていた柊は、今度は親指を立てて見せる。
「あったりまえやで。ちょいと待ってな」
そう気になる関西弁を残して、柊は窓際にいる楪ともう一人の女子に声をかけに行った。
さっきの会話を聞いて、加藤が僕に何気ない口調で聞いてきた。
「優希って柊のこと好きなの?」
「おい。僕を女子と話すだけで好きになるような、軽い女ならぬ軽い男として捉えるのはやめろ」
「……ごめん、何言っているのか分からないんだけど」
大丈夫だ、加藤。
自分でも何言ってるのか、さっぱり分からないからな。
「とりあえず、僕に好きな人なんて居ない」
「じゃあ橘さんは?二人で帰るのをよく見るけど」
「それな。で、結局付き合ってるわけ?」
加藤の疑問に筒井がさらっと便乗してくる。
楪が言っていた通り、見ていた人はいるらしい。
なのであのときと同じ返答を繰り返した。
「あれはおすすめの参考書を教えろって言われたからな。一緒に買いに行っただけだ」
だが、その返答に対して加藤が怯むことは無かった。
「でも優希が橘さんと話しているところなんて見たこと無いよ?」
「そうか?意外と話しかけてくるぞ。特にロッカーとかで」
ふーん、と加藤は唸ってから、
「少し意外だったな……」
「同感だ。優希は知らないだろうけど、橘さんってあの大企業の橘コーポレーションのお嬢様なんだぞ。そして、その美しさに男女問わず多くの生徒を魅了しているんだぞ?」
その魅力に関しては、誰よりも知っている(つもり)。
それにしても、やはり六花はモテる。
幼い頃からそうだった。
だけども、
(告白は全部断ってるんだよな……結婚相手はいないはずなんだけど)
御曹司やお嬢様によくある許嫁というものだ。
六花の実父、橘五郎曰く、そういうのは彼女に一任している、とのこと。
ようするに、六花の好きなようにさせたいということだ。
筒井の熱弁を聞いているかのようにして、片耳から片耳へとその言葉を流していると、向こうから三人の女子が向かってきた。
言うまでも無く、楪ほのかと柊小雪、そして椿桜子だ。
それぞれの顔を見てみると、楪と柊は何かニヤニヤとしており、椿は頬をリンゴのように真っ赤に染めている。
原因としては、楪と柊が、加藤のことを想っている椿をいじったのだろう。
今の椿は誰がどう見たって恋する乙女だ。
だが。
(それに気付かないやつが、運悪く加藤っていうな……)
イケメンで、鈍感といういかにもラブコメの主人公にいそうな加藤に好意を抱くのは、おかしなことではない。
確かに、加藤は僕が接してきた人物の中で、ダントツで優しく接しやすい。
と、柊は
「連れてきたよ~」
言って加藤と筒井の前に椿とともに立つ。
一方、楪はというと、ニコニコしながら、
「組んでくれたんだね。私は嬉しいよ」
「まあな。特に無かったしな」
「なにそれ。それだと私が売り残れたような言い方じゃん」
「いや、どうしてそうなった」
よく分からない捉え方をしてしまった挙げ句、楪は頬を膨らませる。
僕はそれに軽く返す。
「ともかくこれで班は決まったみたいだな。よろしくな」
「こちらこそよろしくね」
そう楪と話してから、加藤たちの方へ目を向ける。
向こうも向こうで話がまとまったみたいだった。
マイペースに書いていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。