表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ある主人と従者の話  作者: りの
1/7

01.主人と登校する新たな高校生活

初めまして、りのです!

小説を書いてみようかなと思い、これが初作品です!

色々足らないところが多々あると思いますが、よろしくお願い致します!

従者。

それは僕、(にのまえ)優希にとって大切な職業であり、子供の頃から慣れ親しんできた職業でもあった。

僕の家は代々橘氏に仕えてきた家系で、それは僕も例外ではない。

そんな僕が高校生になった去年、高齢だった橘雄一郎が亡くなった。

その方は従者にとても優しく、みんなから愛されていた。

だから、葬式ではみんな泣いていた。

みんなが亡くなった橘雄一郎に感謝の言葉を述べていた。

そして、その孫―――橘六花(りっか)に僕は今年から仕えることになった。




「僕、男なんですが……」


「いいんですよ。貴方は私のお手伝いさんなのですから」


「いや、そういうことではなくて」


「まあまあ、明日からいっしょに登校しますし、こうして仲良くなろうと思ってるんですよ」


そんな優しい声音で仰っている方は、亡くなった橘雄一郎の孫娘、橘六花さんである。

けど彼女自身、さん付けはやめろと言っている。


「確かに明日から同じ時間に、いっしょに登校しますが……」


「敬語もやめてと言っているんですが」


「わ、分かりま……分かった」


「それでいいんですよ」


そう言うと六花は、思わず心を奪われるような笑顔を浮かべた。


「同じクラスになれてたら良いですね」


「そう……だな」


僕が六花の部屋を掃除していると、六花はベッドに座りながらそう言った。

だがもし、同じクラスになったらどうやって接すれば良いのか、僕には見当もつかなかった。

やはり仕えている身ならば、ご主人様優先で動くべきなのか。

それとも、全く無視して良いのか。

そんなことを考えていると


「そろそろ掃除終わります?」


「終わるけど、どうかしたか?出て行った方がいいか?」


「いや……違います」


小さく、だけどもどこか力強さを感じる声音で、六花は言った。

それも、僕の服の裾を引っ張りながら。


「少しの間、ここに居てくれませんか?」


「……構わないけど……」


ただの雑談を交わすのだろう。

そうだよな?

恋愛漫画でよくある、おいしい展開にはならない……はず。

そんなことを少し期待しつつ、僕はほうきを六花の部屋の壁に立て、六花のほうを見る。

その彼女の頬は、紅潮していた。

ベッドに座っている六花の隣を、僕は確認を取って座った。


「……で、どうしたんだ?雑談か何かか?」


「そうだね。どちらかというと、相談に近いかな」


「相談?明日からの高校生活についてか?」


コクリ、と首肯する六花。

僕は言葉を紡ぎ直す。


「それで、どんな相談なんだ?」


すると照れながら六花は言った。


「同じ時間に、登校出来ませんか?」


思わず僕は黙ってしまった。

それは恥ずかしいからなどではなく


「何言ってんだ?当たり前だろ?」


「ふぇっ!?」


「だって六花は主人、僕は従者。ならいっしょについて行くのは当たり前だろ」


六花は火照りとした顔を隠すように、両手を顔にかざす。

主人の可愛い一面を見られて、どことなく嬉しくなっている僕をチラリと見て、六花は話を続けた。


「一くんは別にいいってこと?」


「だからいいって」


……いや、正直に言おう。

めっちゃ緊張している。

流石にこんな美少女と登校するのは気が持たない。

だが、これは上からの命令だ。

まあ、あの父親のことだ。

自分が動けないから、余計心配なのだろう。

なので僕は、その緊張を悟られないように、笑みをこぼした。




そして翌朝。

今日から僕も晴れて高校二年生だ。

とはいえ、特別何かが変わる訳ではないだろう。

変わるとしたら、毎朝六花という可愛いご主人様と登校することくらいか。

そんなことを思いつつ、自室で荷物をまとめていると、コンコンとドアが叩かれた。

僕が入るよう促すと、その扉が開かれた。


「おはよう」


いたのは六花だった。

昨日は私服だったが、今日はもちろん制服を着ている。


「おはよう。で、どうしたんだ?」


「いやまだかなって……準備終わった?」


「もう終わるけど……まさかその為だけに!?」


「そうだけど、もう八時だよ?」


そう言われて、僕は壁にかかっている時計を見る。

確かに八時をさしていた。

学校には、八時半までに着いておかなければならない。

なので、そろそろ出なければならなかった。


「そ、そうだな。行こう」


「うん」


僕は六花に言葉をかけ、カバンを肩から下げる。

そして六花と共に廊下へ出た。

玄関まで歩いている途中、何人かの同僚に会った。

同僚と言っても、僕がこの屋敷に仕えている者の中では最年少のため、全員が先輩になる。

新人さんの同僚もいれば、僕が幼稚園児だった頃から仕えている古株もいる。

廊下ですれ違うたび、みんな六花に一礼し、「進級おめでとうございます」と祝ってくれた。

こうして僕らは靴を履き、広い敷地を通って屋敷を出た。

六花は屋敷の方へ体を向け、深呼吸をした。


「行ってきます」


そう言って、六花と僕は学校へ足を進めた。




まだ桜は咲いていなかったし、それ以前に風が冷たかった。


「寒いわね。もう四月も上旬が終わったのに……」


「確かにな。思っていた以上に寒くて驚いてる」


四月十二日。

少しは暖かくても良いはずなのだが、どうやらまだ春は感じにくいようだ。

隣で歩いている六花は、体を温めようと、カバンから取り出したコートを身にまとっていた。


「茶色……随分と暖かそうだな」


「そうね、暖かいわよ。それより優希は寒くないの?」


「今さらりと名前で呼びましたね、六花さん」


「え、ダメだった?嫌なら直すけど……」


「いや、直さなくて大丈夫。むしろそっちで呼んでくれ」


「分かったよ、優希」


六花はそう言って、笑顔を浮かべ、僕はそれに微笑み返した。

僕の名字はレア中のレアなものだ。

それ故に、自分も名字で言われると妙に違和感を感じてしまう。

なので、名前で呼んでくれる方が嬉しかったりする。

僕がそんなことを思い返していると、不意に声が聞こえる。


「それより、友達できるかな」


「なんだ?不安なのか?」


「うん。もちろん去年にクラスが同じだった子とは接しやすいけど、やっぱり新しい環境は緊張するね」


「意外だな。六花も悩み事あるんだな」


思ったままのことを口に出す。


「優希は知らないかもだけど、私が通っている学校って少々荒れてるのよね。優等生が集まったからなのか、常に成績で争っているのよね」


「なるほどな。好戦的な優等生が多いってことか」


「そうそう。だからテスト期間中とか緊張感すごいんだよね」


「前の高校とは真逆か」


ちなみに僕は、六花が通っている夕ヶ丘高校に転校してきたことになっている。

もちろん入るのに必要なテストも合格し、新たな高校生活を始めようとしているところだ。

その期待を胸に、僕と六花は校門をくぐった。




六花と別れた後、僕は職員室に向かっていた。

校門をくぐり、そのまま正面に進むと本館と呼ばれる棟がある。

六花曰く、職員室はその二階にあるらしい。

本館に入り、階段を上がる。

本館の玄関からここまで静かなのは、おそらく生徒はあまり来ない場所だからだろう。

玄関近くにあるのは事務所くらいしかなかった。

そう考察していると、事務所が見えた。

階段を上がった、すぐそばに妙に騒々しい職員室があった。

僕は遠慮なくガラスのドアを開ける。

すると、騒々しかった職員室が沈黙に包まれ、僕は気付いた。

その空間にいる教師や生徒の視線が、自分に集中していることを。

だが、足は止めてはいけない。

そう考え、僕は職員室のちょうど真ん中の列に座っている教師の前に立つ。

上原和紗。

今日から僕の担任となる女教師だ。

彼女は菓子を口に咥えながら、パソコンを触っていた。


「あの、一優希です」


上原は操作を中断し、椅子を回転させてこっちに体を向ける。

そして少し口角を上げて上原は口を開いた。


「君が一くんか。今日からよろしくな」


「こちらこそよろしくお願いします」


おう、と上原は笑うと、デスクに置いてある時計を見て慌てて


「悪いが、歩きながら話そうか」


「あ、そろそろですか」


上原は頷き、僕に付いてくるよう促すと、職員室を出た。




予告通り、上原は廊下で歩きながら聞いてきた。


「まず、君が転校してきた際に解いたテストは覚えているか?」


「はい。あの学力を測定するためのテストですよね?」


地味に難易度が高かった、という事くらいしか覚えていないが。


「ああ。あのテストで君は歴代最高得点を出した」


「確かあれって、学年末考査と同じ問題だったんですよね」


その辺は六花から聞いていた。

ちなみに六花は学年三位だったらしい。

上原は、僕が知っていることに驚いた様子で僕を見たが、すぐに前を向いた。


「そうだな。あれは学年内でも難しいと話題だったぞ」


「でしょうね。なかなか難しかったですよ」


「おや、君がそんなことを言うのかい?満点様よ」


「満点だったんですね。合格ラインを超えたことしか知りませんでした」


まさか満点だとは思わなかった。

一応、一通りの学習は済ましているので、逆に満点近くないと怒られてしまう。

僕が答えると、上原は苦笑に近い調子で笑う。


「そんな冷静に言わないでくれ。今君はこの学年のトップなんだぞ?」


「それで職員室に入った途端、みんなが一斉に僕を見たのか」


「そうだよ。学年末考査の話題から、その考査で満点を取った化け物がいることに話題が変わってたりしてるんだよ」


「初耳ですね、そんなこと」


六花からそんなことは聞かされていなかった。

なので嘘はついていない。

と、はじめましての雑談を交わしていると、いつのまにか教室の前だった。

『2年B組』

クラスの表札(?)にはそう書かれていた。

顔を上げていると、上原が静かに言う。


「さあ、ご対面だ」


彼女はドアを開け、僕は教室に足を踏み入れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ