口裂け女
※この小説はカクヨムにも投稿しています。
先日、ふらりと入った居酒屋で、やけに饒舌な男と出会った。
男は、隣のカウンター席に頬杖をついて座っていたが、かなり酒が入っているのか、「なぜ世の中は女ばかり取り沙汰されるのか」とか、「意外性のない社会は無意味」だとか、取り止めのない話を、上着も脱がずに、時折くくくと笑いながら捲し立てていた。
そしてふと、思い出したかのように、
「そういえばこの前面白いことがあったんだよ」
と語り出した。
『都市伝説は嫌いじゃないんだけど、いかんせん流行らせてやろうという意思が見え隠れしているのがよくないよね。うん?いや、そういう創作を否定する気はないよ?ただ、怪奇の異常性より話題性が主眼になってしまうのは良くないと思うんだよなぁ。
ていうか、したい話ってのはそういうことじゃなくて、一昨日会った女の話。
深夜も3時を回ろうかって時に、目が覚めちゃって。いや、自分の歯軋りがうるさかったからなんだけどね。僕は、寝つきがあんまりいい方じゃないから、一度目が覚めちゃうともうダメなんだよ。全然寝れなくて。で、布団に潜ってても暑いだけなんで、散歩でもしようと思ってフラッと家を出たんだよね。ウインドブレーカー一枚羽織って。そうそう、この今着てるやつ。これ、襟が顔近くまであるじゃない?そしたら熱帯夜でさ、家を出て5分も歩いたら汗がじんわり出てきて、肌はベタベタするし首も蒸れるしで気持ち悪くなっちゃって。下は寝巻きだったけど、誰も見てないだろうって上着のチャックを少し下ろしたら、急にそいつが目の前に現れたんだよ。
最初見たときびっくりしたね。いや、だってこの熱帯夜にロングコートだよ?セレブが被ってそうなツバの広い帽子かぶっててさ。んでもってさらに顔半分覆ってるマスクだよ。「マジで!?」って叫びそうになっちゃった。ここまでテンプレだと別の意味でびっくりだよ。1970年代かよって。それで、ここからが面白いんだけど、僕が唖然してたらさ、そいつなんて言ったと思う?
「私、綺麗?」だって。
いやいやまったく、ステレオタイプここに極まれりって感じだよなまったく。今どきなろう小説だってもうちょっと変化球だぞ?そんな感じだから、驚きより先にツッコミが出ちゃってさ。
「お前さぁ、せめて出方ぐらいは工夫しようよ。」って。
後から考えたら悪いことしたな〜ってちょっと思ったよね。彼女ったら、それ聞いたら、僕の顔をじっと見たかと思うと、顔隠して一目散に逃げちゃった。』
「可哀想に。」
「いやいや、そりゃまあこっちもちょっと配慮がなかったけどさぁ〜!でもそれは向こうの実力不足が問題でしょうって。」
まあテンプレすぎるというのは否定しないが。
「でも流石に開口一番ダメ出しはないでしょう。」
「そうかな〜、やっぱり同族からのツッコミはキツかったか〜」
そう言って男は、手を額に当てながら、耳まで裂けた口を大きく開けて笑っていた。
都市伝説って面白いですよね。嘘なんですけど、嘘と分かった上で楽しむ、っていうのが最近のインターネットにはない楽しみですよね。
さて、この短編ですが、口裂け女はいるのに口裂け男はいないなーという思いつきだけで書いたものなので、矛盾があるだとか伏線がわかりづらいとかあるかもしれません。ごめんなさい。初めて筆を取ったので拙作ではありますが、読んでくださりありがとうございます。