7.シンメトリー
庭園には死体以外にたいして目新しいものもなかったので、回廊に戻ろうとした。
その時、何処からかすすり泣くような声がした。
「なんだ? 亡霊の類でもいるのか?」
そう独り言を言いながら、すすり泣きのする方向へ行ってみる。
1人の青年が座り込んですすり泣いていた。
「そこで何をしてるんだ?」
私よりも年上とおぼしき青年が、泉の前で1人泣いていた。
青年は私に声をかけられるまで接近に気がつかなかったようで、驚いたように私を見上げた。
「なんでもない……」
私は気まぐれでハンカチを差し出した。
青年は差し出されたハンカチを見つめたままで、受け取ろうとしない。
私は差し出した手前引っ込めるわけにもいかず、無理やり青年にそれを押し付けた。
「……ありがとう」
青年は礼を言うと、ハンカチで涙をぬぐった。
「……昨日、母や親類が処刑されたのだ」
「そう、向こうの串刺し死体はキミのご親類か」
「見たのか?」
「見たけれど?」
それ以上会話は続かなかった。
あの凄惨な光景を見たのに全く動じることのないこの人でなしの獣を、この青年は不審に思ったのかもしれない。
この青年は――。
不貞を疑われた側妃、そしてその罪に連座して側妃の実家ごと粛清された。それにも関わらず、1人その罪科を免れることが出来た男。
「キミは王子か」
そう問えば青年は頷いた。
38人もいる王子・王女の内の1人。
「本当なら俺も串刺しにされるはずだった。だが陛下は、一人生き残って惨めに生きる姿を見たいと仰せで生き延びた」
「いい趣味をしている」
死ぬより生きているほうが苦しいこともあると聞く。
「俺は……陛下の子ではない」
「側妃の不貞は噂では?」
「事実だ。陛下は始めから母の不貞を知っていたのに、生まれた俺が実の子ではないことを知っていたのに、ずっと泳がせていたんだ。……いつか安心しきった頃に、惨たらしく殺すのを楽しみにして」
ほう、実に興味深い話だ。
王の子なのにそれを名乗れない私と、王の子ではないのに王子を名乗るこの青年。
実に対称的ではないか。
俄然この青年に興味がわいた。
もっと、もっと、話が聞きたい! 王の話も、この男自身の話も。
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