80)杖の転移者
PV12000感謝です!
まだまだ頑張ります!
なんで、戦わなきゃいけないんだよ。
「行くよ! リアーナの名に於いて命ずる、闇深き森より出でよ! 黒の魔獣、ヴァルドーラ!」
虎とよく似た黒い獣が現れるなり、襲い掛かってくる。
俺は縮地術で獣を無視し、リアーナの目の前まで一気に間合いを詰めた。
バキッ!
剣とスタッフで押し合う。リアーナは意外と力が強いのか、互角に押し合う。
「蓮斗、一歩遅いのじゃ! 何を迷っておる!?」
「でも……」
「ラーズ! 代理詠唱!」
「心得た! リアーナの名に於いて命ずる……」
代理詠唱? 何だそれ。それよりもマズいな……俺とリアーナが鍔迫り合いのまま。後方からは黒い獣がこちらに向かってくる。
「クリス、火炎を!」
「承知! 我と契約せし炎の精よ。今再び我の元にて、その姿を現し我の力となれ……」
その前に、杖の奴が呪文の詠唱を完成させてしまった。
「風の精霊よ、その姿を刃と化し我が敵を斬り刻め! 千刃の風!」
空間に無数のナイフの様な物が現れ、俺に襲い掛かると同時に黒い獣が前足の爪で俺を引っ掻く。
「うっ……ぐぁっ……」
風の様なナイフは俺とクリスを斬り刻み、黒い獣の爪は俺の背中を抉った。
「くっ……我が剣に宿りて、その業火で敵を討ち滅ぼせ! 業火の輪!」
火炎の輪が黒い獣を包み、悲鳴をあげて消滅した。
「下がるのじゃ!」
一旦、下がりつつ回復術。
「へぇ。君、回復使えるんだね」
「ま、まぁね……」
「お主こそ、召喚を使うのじゃな」
「まーね」
「召喚中は他の魔法が使えぬ様じゃが?」
え? そうなの?
「……何故、分かったの?」
「代理詠唱じゃ」
「……」
「別魔法で二人同時に詠唱じゃと分かるのじゃが、それをせずに杖だけの詠唱じゃったからの」
「優秀な剣なんだ」
そうだろう!
「我輩も優秀だぞ!」
「ラーズ……分かってるわ」
仲良いんだな。
「まだやるのか?」
劣勢な俺が言うのもなんだけど……。
「当たり前です」
ですよねー。
(蓮斗、本気で行かぬのか?)
(ごめん、戦うのは間違っている気がして)
(蓮斗らしいの)
「何をブツブツ言ってるの? 行くよ!」
「ラーズ、同時詠唱! 我が名はリアーナ……」
「我が名はラーズ……」
「「風の精霊達よ……我との盟約に従い、我を形取りその姿を現せ! 幻影の形代!」」
リアーナが三人……五人に増えた!?
「蓮斗、あれは絶対に幻にしか当たらん。一気に消し去るのじゃ!」
「任せて! 縮地術からの剣技、廻陣炎舞!」
俺はリアーナの幻影を、一気に消し去ったのだが……。
ボカッ!
「痛った!」
杖で豪快に殴られた。
「剣なら死んでたかも」
「剣を振り抜き終わったら、直ぐ離脱しろと言っとるじゃろう……」
「ごめん……」
俺達の会話を聞いて、リアーナは何か納得した様子だが……。
「そうだよね、ラーズ!」
リアーナの持っていた杖が、剣に変化した!?
「状態変化が出来るのじゃな」
「クリスは?」
「人化だけじゃの」
「そもそも、何に変化させたいのじゃ?」
え? えへへ……。
「何を想像しておる……顔!」
「ごめん……」
それどころじゃなかった。
「リアーナの名に於いて命ず、風の精霊達よ、我に取り巻き我に翼を宿らせよ!」
あれは、加速魔法!
「速いっ! クリス!」
「うむ! クリスの名に於いて命ず、我を取り巻く風の精霊よ、我に対峙するものの瞬く時を我に与えん!」
クリスの放った遅延魔法の風は、リアーナに触れると霧散してしまった。
「消しおったか」
「マジか!」
俺達は剣と剣でひたすら打ち合う。
魔法の付与が有るとは言え、魔法使いみたいな人と剣の打ち合いで同レベルとかって悲しくなるわ。
「はっ!」
「ぐっ……」
リアーナは一度後方に下がり、頭を抱えながら杖と話している様だ。
何かあったのかな?
「止めます」
え、聞き間違えたかな? 今、止めたって?
「君、本気で戦う気が無いよね?」
最初から言ってるじゃん……。
「無いよ」
溜め息をついて近付いてくる。
「理由を聞いても良いかな?」
「最初から言ってるじゃん。戦う事に意味や理由が見付からないからだよ」
「まぁいいです。君は転移者の存在意義をどこまで知っているの?」
存在意義って、そんな大層な。
「歪みとか、そう言う話の事?」
「まぁ……そうですね」
「俺の聞いた話だと、前回の剣と杖の転移者は人の味方だったって事かな」
「その通りよ。今回はどうでしょうか?」
「俺が人の敵だと? それを確かめる為に戦おうと?」
「ま、そんなところ……」
そんなんで、どうやって分かるんだよ……。
「君には殺気が全く無かった……有り得ないくらいね」
「そりゃあ、まぁ」
「そこで君に提案」
なんだよ……一方的な気がするな。
「ウチが旅に同行する。その間に君が敵か味方かを見定める。それまでは休戦で」
俺はレティシアとヴァージュと目を合わすと、二人とも軽く頷いていた。
「分かった。宜しくな、リアーナ?」
「取り敢えず、宜しくね……蓮斗くん?」
こうして、俺は杖の転移者と一緒に旅をする事になってしまった。
油断はしない方が良いかな。
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