53)空飛ぶ魔物
孤島に向かい船を進める。
方角は北西、船に方位磁針が備えられているので方向は間違えて無い……だろう。
守衛隊の人は船で約一日って言ってたけど、どの位のスピードで一日なんだろう?
数時間もすると、大変便利な物を手に入れだ。
スキル、魔力操舵!
このスキルにはレベルが無い。
つまり、覚えるだけで、ある程度使える優秀なスキルだ。
このスキルのお陰で自動操舵が可能となり、水晶から離れていても船を動かす事が出来る。
但し、進路変更や速度調整をする場合は、水晶まで戻らなくてはいけない。
勝手に同じ速度で、真っ直ぐ進むだけでも便利だ……MPが少しずつ減るけど。
「レティシア、大丈夫?」
「ええ、なんとか……蓮斗さんこそ、MPが切れる前にご休憩なさって下さい……ご休憩?……蓮斗さんとご休憩…………」
うん、大丈夫、平常運転だ。
「蓮斗様ー」
「どうした?」
「あたい暇だよー」
「心配しなくて良いよ?」
「なになにー! 何か有るの!?」
「大丈夫、皆、暇だよ」
「……蓮斗様の意地悪っ!」
だって、する事無いじゃん。
しりとりは失敗に終わるし……スマホでも有れば…………俺のスマホ!?
今まで気付いて無いって事は……無いよね。
有ってもバッテリー切れてるか。
「折角だから、お話でもしようか?」
「いいよー! 恋話?」
何故、そうなるんだ?
「む……何か近付いておる」
「え……?」
「あ、あれですわ!」
遠くに翼を持つ人型の何かが、こちらに向かって飛んでくる。
「一人……一体か?」
「じゃな……あれは、ズラキュルか!」
「何ですって!」
「大型が来たねー!」
……何だ、ズラキュルって?
よく分からん……人型なのに大型?
確かに見ていると、近付く程にどんどん大きく…………でかい!
巨人に翼が生えた感じだ。
「あれに襲われたら、どう戦えば良いのかな?」
「そうじゃな……良い方法は有るぞ」
え、マジで!? 流石クリスちゃん!
「儂が人化して蓮斗を投げる、そして、蓮斗が斬れば良いのじゃ!」
「なるほどー……って、クリス!?」
「冗談じゃ」
び、びっくりしたわ!
「どうしよ……」
「あたい、良い方法を思い付いたー!」
「おぉ!」
「あたいが蓮斗様をー」
ん? 何か嫌な予感……。
「抱えて上に投げるからー」
「もういいわっ!」
「えー」
何なんだ、二人とも余裕が有るのか?
「蓮斗さん、良い手を思い付きましたわ!」
「俺を投げて攻撃するの?」
「そ、そんな事を出来る訳……」
むっちゃ落ち込んでる! しかも、涙が!
「ご、ごめん、レティシア」
「いえ……」
「最低じゃの!」
「最悪だねー!」
あれ? 俺のせい? 俺が悪いの!?
「レティシア、ごめん……方法を教えてくれるかな?」
「……怒ってないですか?」
「全然、全く、少しも怒ってないよ!」
「……私の事、嫌いになったのですか?」
「俺がレティシアの事を嫌いになる訳ないじゃん!」
「……じゃあ、私の事、好きですか?」
「好き好き、大好きだよ!」
一瞬、間が出来る……あれ?
「やったの……」
「やっちゃったねー」
え? なに?
「蓮斗さんが私の事を大好き……大好き……大好き……へへ……へへへ……」
「壊れたのう」
「レーちゃん壊れたね!」
あの……皆さん、魔物が迫っているんですが?
「任せて下さい! 蓮斗さん!」
何だか凄い自信だな、二日酔いは何処へ?
「来たのじゃ!」
ズラキュル? 確実にこの船を狙っている。
船を一旦停め、看破……。
〔看破に成功しました〕
〔名前:ズラキュル 種族:魔〕
〔レベル:5〕
〔H P:9249〕
〔その他:閲覧権限がありません〕
レベルの割にHPが高い、人族以外は皆そうなのか?
「私が魔法で引き寄せますので、皆さんで攻撃をお願いしますわ!」
「でも、空中から攻撃されたら?」
「大丈夫ですわ!」
レティシアには策が有るのか?
「先ずは新魔法ですわ! レティシアの名に於いて命ず、光の精霊達よ、我が無数の矢となり敵を滅ぼせ! 喰らいなさい! 多重の魔矢!」
数十本の魔法の矢がズラキュルを襲う。
「くぎゃー!!」
魔物はレティシアに向かって飛んでくる。
〔レティシアのヘイトが上昇しました〕
〔看破に成功しました〕
〔名前:ズラキュル 種族:魔〕
〔レベル:5〕
〔H P:8815〕
〔その他:閲覧権限がありません〕
看破の前にログが……ヘイトって何? スピーチ? こんな事ならゲームを一杯やっておけば良かった。用語が分からんわ。
「もう一つ行くわ! 我が名はレティシア、我と我が仇を光の鎖にて縛り付けよ! 愛の拘束魔法、決闘の鎖!」
愛の拘束って重たくない?
レティシアとズラキュルの足首に光の輪が現れ、その間を光の鎖が現れ繋ぎだす。
まるで、お互いを足枷で繋いだかの様に。
光の鎖を繋がれたズラキュルは、強引に船上に降ろされる。
「さあ、皆さん!」
「ヴァージュ、行くぞ!」
「あいあいさー!」
俺も新技だ!
「剣技、雷迅閃斬!」
剣が雷を纏いだす……これをどうするんだ?
「蓮斗、相手に向かって全力で振るのじゃ!」
クリスに言われた通り、力一杯に振り抜いた。
振り抜いた空間から雷を纏った斬擊波が現れ、ズラキュルに向かい飛んで行く。
斬擊波はいとも簡単に首を跳ね、ズラキュルは灰の様になり散ってしまった。
「蓮斗様、つよーい!」
「自分でもびっくりだ……」
「流石ですわ!」
「でも良かったのかの?」
え? 何で? 何か忘れた?
「その技、一日一回じゃろう?」
「あ……」
はい、忘れてましたー。そんな事も有るかと思ってクリスに教えといたのさ……多分。
「レティシア、いつの間に魔法を増やしていたの?」
「元々、スクロールを所持していたのですが、先日レベルが上がったので修得出来ましたわ!」
「凄いね、レティシア!」
「いえ、これも愛の力ですわ!」
「そ、そうだね……」
ここで違うとか言ったら、また落ち込みそうだし……俺だって空気くらい読むのだ。
「レティシア、一つ教えてくれる?」
「ええ、何でもどうぞ!」
「お主の体重は?」
「それは……って、何を言ってますの!?」
ク、クリス……。
「矢の魔法を使った時に、ヘイトが上がったらしいんだけど、ヘイトって何かな?」
「えっと……ヘイトは存じませんが、敵意を此方に惹き付ける効果が有りますわ」
「そっか、ありがと!」
「いえいえ、蓮斗さんになら何だって……」
……。
ヘイト……何となく分かった様な?
「蓮斗、魔石が落ちとる……」
〔ズラキュルの魔石を獲得しました〕
〔鑑定に失敗しました〕
鑑定と看破を上げる方法が知りたい。
さぁ、孤島に向かって再出発だ。
今日はもう魔物に会いたくないな。
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