ロッカーの少女
その少女はロッカーに入っている。
ロッカーに入っているので、安全だ。
そのロッカーは、くさい。
けれど、それでも入っていたくなる
それがロッカーだ。
ある放課後の夕方に
ある梅雨の灰色の空のときに
ロッカーに隠れた 少女は
そのまま亡くなった
亡くなったけれど
それでもうクラスメイトとは
二度と会わないから
安心した
安全だから安心した
目が覚めたら
ゴミしかない世界で
ぽつんと置かれたロッカーのなかに
少女は入っていた。
少女ごとゴミだった
そのロッカーは
誰も開けようとはしなくて
快適だった。
埃がちらちらと降る
灰色の雪のように降ってくる
このゴミしかない世界は
みんなの世界中の
ゴミ箱の中身。
その世界で少女は
当時着ていた
体操服のまま
ロッカーのなかで
夢を見ていた。
ぼうっとぼうっと
夢を見ていた。
両親だけは
やさしかったこと。
教室のなかは
地獄だったこと。
でも掃除用具を入れる
ロッカーの中だけは
教室から隔離された空間だ。
ロッカーは安心する。
ロッカーは安全だから。
クラスメイトたちはもう来れない。
ロッカーはかたいから。
閉めちゃったらもう来れない。
あの梅雨の日の
夕方に
自ら入ったロッカー
持っていたカッターナイフは
そのために
来たる日のために
今はもう
過去のこと
ただただ埃が
舞い散るだけ
今はもう
ゴミ箱世界
ロッカーといっしょに
ロッカーといっしょだから
パラリパラリと
舞い散る埃
時は止まったまま
過ぎていく
あの日から変わらない
体操服の姿
あれから癒えてない
左手首の傷跡
ロッカーの中で
静かに時を待っている
開けてくれることを
待っている。