一話
『殺し』
それはとてもいけない事で、世界中の誰しもが忌避するものだと思っていました。
そんな私が『殺人』の処女を捨てる経験したのは高校二年生の夏休み。
相手は叔父でした。私の身体目当てで襲いかかってきたのを包丁で刺し殺しました。
今でもあの時の肉を裂いて突き立てる、ぶちりぶちりといった感触は忘れられません。
それから私は『殺す』といった行為の虜になりました。
虫、魚、犬や猫に鳥。様々なモノを殺しました。
そして遂に……人間も。
最初は自衛という『手段』で行った『殺す』という行為は、いつしか、『目的』へと変貌していったのです。
皆さんはそれが頭のおかしい奴とか、気が狂っているとか思っていませんか?
幼少の頃、虫の足を千切ったり踏み潰したりして殺しませんでしたか?
それが面白おかしくて何度もやっていた経験はありませんか?
私が感じているのはそういう事です。
そろそろ時間も無くなってきましたし、この手記もここら辺で終わりましょうか。
パタリと手帳を閉じ、私は人であった物体に冷たい視線を向ける。テレビからは連続殺人の行動に関するワイドショーが流れていた。
そして部屋の隅でカタカタと震えている少女を一瞥し、
「ごめんなさい。許してくれ、なんて言わないから、思う存分憎んでください。それじゃあ、またね?」
ガチャリ、とリビングや玄関の扉を開けこの場を後にする。
所作は優雅にたおやかに。
あぁ、今日も楽しかった……。私を睨みつけていた少女の眼。恐怖、悲しみ、憎しみ、怒り、全てが混ざり合ってなんとも言えない雰囲気を醸し出していた。
あぁ……堪らない。
「でも、飽きちゃった」
何もかもを殺してきた。ころして、コロシテ、殺して、頃す。
私に殺せなかったモノは無かった。だから……
「今まで殺した事のないモノが殺したいなぁ……」
あ!そうだ!まだ殺してないモノがあった!
それに気付いた私はその足で高層マンションの屋上へと足を運んだ。
「えへへ…まだ私、自分を殺してみたこと無かったんだよね」
靴を脱いで、遺書として私の手帳を一緒に置いておく。
この手帳を見た人は私が連続殺人犯だと気付くだろう。世間を騒がせている連続殺人犯が自殺。きっと色々な憶測が飛び交う筈だ。
それを想像するとドキドキが止まらない。早く、一刻も早く────────────
自分を殺さなくては
「サヨナラ人生。また来世」
そう言って私は高層マンションから飛び降りた。