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MR.ムーンライトの異世界新日常紀  作者: 毛利 馮河
第一章 一角の恐怖
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3話 肆 『嘘と隠し事』

──ヤマシタ・レイが行使できる仙術は、今の所一つしかない。


金属性、と呼ばれる、自身のエルネを直接形とするものだ。そもそも魔法とは違い、自分自身のエルネ量や色素に依存している為、エルネ量や色素が極端に少なく薄いレイには、酷なものだった。


しかし今、『鬼人化』というイレギュラーな要素が加わった事で、レイの体内エルネは、常の十倍にも増幅。故に使える仙術の回数も十倍になった。

とは言え、


「──使い過ぎると、本当に干からびますよ?」


リーフのそんな忠告が頭を過ぎる。おそらく、『鬼人化』に慣れていないレイでは、限界まで行使すると体をやられてしまうのだろう。


──結局の所、レイの能力は中途半端、という訳である。



「──ゴリア・リリーア!」


──あと三発。

空中に鋭利な黄金の杭を顕現させると、レイは心中でカウントを呟く。


この状態の自分の限界は未知数。故にレイはその仙術を、五発までに留めておくことにしていた。

初発と、先っきの一発。そのダメージが一体どれだけの影響を一角獣に及ぼしているのか。

そんなもの知ったこっちゃない。と言うか、知る由もない。


一角獣の動きは未だに俊敏だ。タイミングを見計らって何とか当てられたあの二発でも、その動きが変わる事は無い。

動物はアドレナリンが分泌されると痛みを感じないらしいが、一体それがどれだけ一角獣に適応されるのか。あれでも一応伝説の生物なのだ。


「頼むから早く死んでくれ!」


距離は十分にとって、絶対に攻撃を受けないであろう場所から小さく悪態。

言葉の意味は分からずとも、その苦々しい表情から何かを悟ったのだろう。一角獣の猛進がこちらへ向かう。


軽く舌打ちして、レイは左手へ逃げる。何故か分からないが、『先読み』が中々発動しない。

一応これも生命の危機判定なのだが──もしかしたら、その判定では作動しないのかもしれない。

今までのあれは、まさか勘違いだったのだろうか。


「そんなん今考えた所で変わんねえ」


思わず零れた唾液を拭い、レイは息を大きく吸った。

あと三発。それだけ決めたい。それには、何か策が必要で──、


「リーフ! なんか作戦!?」

「この状況で思いつくと思います?!」

「ごめん、俺なら無理!」


と、藁を縋るが如くリーフに助けを求めるが、それもやむ無く速攻拒否。さてどうするかと、今まで読み漁ったラノベ・マンガ。またはゲームの知識をフル動員する。


しかしそれで出てくるのなら苦労しない。否、思いついたとしても、そもそもの大前提が違う。

相手の弱点が分からないのだ。いや、露骨に突出している一角が怪しいが、実際の所そこが弱点なのかは分からない。


あと、たった三発。思えば何処かの漫画でも同じような展開があった。

あの時は確か、後々増援が来たのだった。それでは意味が──否。


「増援、呼べるのか……?」


ふと頭に過ぎった一つの作戦。しかしこれはたった一人では行使できない。最低でも三人はいる。

現状、リーフが──いや待て。何故、リーフは動かない?


彼女に向けて視線を送り、レイは考察する。


なんの気もなしに彼女を庇っていたが、何故未だに彼女は動かない?

怪我のひとつでもしているだろう、と脳内補完がされていたが、そんな訳でもない。


ならば精神的ショックか? と思うが、彼女に関してそれは無いだろう。

ならば、どうだ? 何故彼女が動かないのか。それの答えはレイの中にはない。故に今、レイの脳内では無理解が広がっており──、


「──っ!」


なんてゴチャゴチャ考えていたのがいけない。


──全身に、衝撃が走った。


そのまま、景色が横に流れていく。唖然、としたリーフの表情が見えた。

頭が空っぽになって、視線だけを後方に向ける。


そこには──、


「──ふさげんなよ!」


一角獣が、露骨に口角を釣り上げて、こちらを挑発していた。


「ふ」「さ」「ん」「な」「よ」に濁点が付くレベルで悪態を吐いた後、レイは洞穴の壁に直撃。

一体どれほど飛ばされたのかと、振り返って驚く。約五十メートルは飛ばされていた。


「──痛っ!」


洞穴に一度吸収された衝撃が、レイの体へと帰還。それにより、レイはようやく痛みを認識した。

アドレナリンが分泌されると痛みを感じない、というのは事実だったようだ。

アドレナリンの効果が切れた今、それを知る。


レイは痛む足を引き摺り、身体を起こす。どうやら骨が折れているらしい。頭で認識したままに視界を足元に移すと、案の定足首が訳のわからない方向に曲がっていた。


「──っ!」


と、声にならない絶叫を起こした所で、何の意味もない。リーフに近づいて行く一角獣を、ただ見詰めることしか出来ない。

否。


「──ちょっと掠るかもだけど耐えてくれよな!」


レイにはまだ、三発分残っている。ここで放てば先程の作戦の成功率はぐんと下がるが、そんな事言っていられない。

命を優先しようとするのに、葛藤なんて必要ないのだ。


否、そんなカッコのいいものでは無い。これはレイの気質。後先考えず、衝動のままに進む──それのせいだ。


「──ゴリア・リリーア!」


空中に顕現した黄金色の杭。それに方向性を与え、レイは言葉を区切る。否、エルネ供給を辞める。

途端、黄金色の杭が一角獣に向けて放出された。


瞬く間に、着撃。一角獣の頭が吹き飛び、そのまま後方へと飛ばれて行った。

してやったりと、レイは笑う。しかし現状は何一つとして変わらない。


増援を呼ぼうにも、呼び方が全くおもいつかない。思えば、そもそもルビアはどうなっているのだろうか。結局、あの問い掛けは応えられないままだった。


「くそ! 今ゴチャゴチャ考えても意味ねえのに!」


頭をよぎる邪念の数々。それらに苛立って舌打ちを連続する。しかしそれで考えが纏まる訳では無い。ただただ苛立つだけだ。


そんな時、ふとリーフの思惑に気付いた。


「研究は研究、依頼は依頼って事か──!」


思わず、絶叫。そのまま目を見開く。


もしも仮に、今までの全てが『研究』なのだとしたら。

全てがもし、彼女の思惑通りなら──。


「分かった! 降参だ! ──リーフ、力を貸してくれ」

「ええ、いいでしょう!」


笑った彼女の表情が、見えて、爆風が轟く。彼女の全身に、黄金色の光がまとわりついた。

それは、明らかな魔法。けれどレイが未だに見たことのない用法だった。


「は! ちょっと騙されたけど、やっぱ嘘くさいんだよ!」

「ほう。自分なりに最高水準だったんですが……残念です」

「お前のその表情くそ、腹立つな! まあ、今はいいけど!」


言葉とは裏腹に、薄笑い浮かべるリーフ。それにレイは少しだけ自尊心を傷つけられる。

けれどそんなもの、元からあってなかったようなものだ。

直ぐに切り替えて、レイは一角獣に目を向けた。


「さあ、リーフさん……よろしく頼みますよ……」

「ええ、分かりました……けれど、ちょっと言動変わりすぎじゃないですか?」

「あ、ごめん、アドレナリンドバドバでテンション馬鹿高くなってんだ」

「すみません、自分の知識不足ですね……八割も言ってることが理解出来ませんでした」


こちらへと、猛々しい表情を向ける一角獣。それにレイは不敵に笑って、大きく息を吸った。

イメージは、隣で笑う少女。そしてその体に纏う黄金色の光。

失敗してもいい。とにかく、息を吸って、腹の奥底に力を込める。

普段なら、口から放出するはずのエルネを、体内で循環させるのだ。


「──よし、行くぞ!」

「ええ!」


突進。猛進。

その状態を一体なんというのか、レイにはわからない。けれど無我夢中で、走り出した。──全身に、力が宿る。

大きく、右手を伸ばした。狙うは、一角獣のその角。先ほど粉砕したはずのそれに、レイは手で掴む。そのまま、自分の体に引き込んだ。


「──っ!」


歯を食いしばり、レイは一角獣を地面に引きづり混む。

おそらく、身体能力は常の三倍くらいに上昇している。何だか頭がむず痒いが、そんなこと気にしてなんて居られない。

レイはそのままリーフに目で合図を送る。

彼女の腰から、鋭い剣が現れる。それは、彼女の思うがままに、一角獣の腹に突き刺さった。青い血が、放出する。


「──ゴリア・ララーア!」


その隙に、レイは一角獣の体を拘束する。ガッチリとハマったのか、一角獣の動きが完全に停止する。


「──やった!」


レイは思わず、そんな言葉を吐いた。普段なら、フラグだとしてパニックに陥る所だが、今のレイにそんな余裕はない。

仙術の使い過ぎだ。体内のエルネが、完全に欠乏した。


「ああ、死ぬ……」


レイはそのまま、意識を失った。



──



「ご都合主義と言いますか……この節は、ありがとうございます」


目覚めたレイは隣で冷たい瞳をする少女──リーフに一礼。満足げな表情なんて一切見せず、ただ少しだけレイの額に触れてその場を立とうとした。


「ちょ、ちょっと待ってくれ」

「……はい?」


疲れ切っているのか、その返事はかなり億劫そうだ。

思えば、戦場にいた時の彼女と今の彼女では、レイへの態度がまるで違う。

なんだかそれは、いつも自分を偽っているかのようだ。レイはそんなふうに思って、頭を振る。

今聞きたいのは、それではない。


「お前、俺の質問、一個はぐらかしてるよな」

「────」

「おい、黙るなよ」

「────」

「はあ、まあもっかい聞くけど……。──ルビアは今、どうなってるんだ?」


リーフの瞳孔が、かつてないほどに揺れ動く。そこまでの動揺は、一角獣との戦いでもなかった。

一体、何を隠している。ありあらゆる可能性が、頭の中でチラつく。


こんな時に限って、レイの頭の回転は早い。

あれからの──パンドラとかいうおかしな少女に何か囁かれてからのルビアが一体どうなったのか。

最悪の可能性は、死だ──頭に過ぎったそれに、レイは大きく頭を振る。


「なあ、リーフ」

「────」

「隠し事は、辞めてくれ。嘘なんかより、余っ程タチが悪い」

「……はあ、仕方ないですね。──ついてきてください」


肩を落として、リーフはそう言うと扉を開けてどこかへ向かう。レイもそれを追おうと、立ち上がった。足に鈍痛が走るも、我慢だ。


リーフの後を追いかけ、レイは彼女が一つの部屋に入るのを見た。

開けっ放しにされたそれにレイは入る。


──レイは大きく、息を飲んだ。


そこには、


「は、え、マジで?」

「ええ。まじです。彼女は、今、昏睡状態……いつ目覚めるかは、正直誰にも分かりません」


──寝台で、死んだように瞼を落とすルビアの姿があった。

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