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MR.ムーンライトの異世界新日常紀  作者: 毛利 馮河
第一章 一角の恐怖
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3話 弐 『応えない問い掛け』

──一角獣の住処はリーフの案内で割と直ぐに分かった。


森の奥も奥。レイが一度も足を踏み入れたことがない所で、一角獣は休息しているのだそうだ。

レイはリーフと共に、一角獣の住処とされる洞穴に向けて、感嘆の声を上げた。


「ここが、ソーゼンの洞穴……」

「ええ、縦幅十メートル、横幅三十メートル。その上、最奥までは未だに辿り着いた事がないという伝説の洞穴です」

「こんなもんがあの村の近くにあったとはな……」

「まあ、あれでも『始まりの村』ですから? そういうものも自然に寄り付いて来るのでしょう」


と、思ったよりも淡々と、リーフは言ってから、レイの顔を覗く。それにギョッとしていると、リーフは人差し指を立てた。そのままジトリとした瞳で一言、


「言っときますが、観光目的ではないですからね?」

「わ、分かってるよ……」


伝説の洞穴、なんて言われたワクワクしない訳が無い。そんなふうに考える思考を何とか棄てて、レイは頭を振る。

邪念があると、目的を遂行出来なくなるのだ。これは万人共通。レイは特にその節が強い。


「さて、一角獣の捕獲、と行きますか」


手を鳴らし、レイは大きく一言。一泊置いてからリーフが手を鳴らしたので、突っ込みたかったが、そこはなんとか自重する。

レイはリーフが灯りを付けたのを確認すると、洞穴に侵入した。



──



「思ったより、中明るいんだな」

「…………はい? すみません聞いてませんでした」

「あ、もう大丈夫でーす」


追求され始めると面倒なので、レイは早々にその問をカット。中断した所で、レイは改めて辺りを見渡した。

洞穴、とは言えど、やはり探索は進んでいるようで。


──ソーゼンの洞穴内は思いの外明るかった。


おそらく開拓される度に何らかの光石が置かれているのだろう。爛々とした明るさでは無いものの、洞穴内は多少薄暗い程度で住んでいる。


レイはそれに文明と人間の逞しさを感じて感嘆。一方、リーフは呆れ調子にため息を吐くと、レイの左足を蹴りあげた。


「──痛! え?! 何で? 何で今俺蹴られたの?!」


女々しい声を上げ、必死に抗議するレイにリーフは冷ややかな瞳。口ではなく、指で『早く行け』と指示してくる。

レイはそれに渋々と、従うことにした。


「なあ、そう言えば──」


一角獣を探し、奥へ奥へと進み始めてから早十分。沈黙に耐え切れなくなったレイが、言葉を放つ。

洞穴内は広く、案の定反響が凄まじい。声はよく響いたし、何より自分の声の気持ち悪さに悪寒さ浮かんだ。


尤も、リーフはそんなことは露ほども気にしておらず、レイの次の言葉を待っている。

ノーリアクションでシンシンと待たれてしまうと、こちらは言葉を言いにくくなるというものだ。

とは言え、ここで「なんでもない」なんて言うのはナシだ。そもそも沈黙に耐えきれず声を出したのに、それでは本末転倒になる。


と、多少の葛藤はあったものの、結局数秒後にはレイの口から言葉が発せられていた。


「そう言えば、何だけど……。──ルビアって、どうなったんだ?」


聞きたくとも聞けなかった問。この場で問うのが果たして正解なのか否かはサッパリ分からないが、ともあれ──尋ねてしまったものは仕方がない。

レイはリーフの言葉を待つ。


「──まあ、今の状況を見ればわかるでしょう? 自分は、ルビアさんに託されてこの場に……いえ、依頼されてこの場に来ています」

「……依頼、だって?」

「はい。彼女自信がレイと共にするのが一番だったそうですが、彼女は今疲弊仕切っていますので。代行として、自分が来ることになったのですよ」


そうリーフはへいへいと言った。レイは少しだけ呆気に取られてから、声を絞り出す。


「も、もしかしてだけど……ルビアの容態は相当悪いのか……?」


まさか、自分はまたもや誰かに尻拭いをさせるのか。もうこれ以上レイの我儘で犠牲は増やしたくない。そもそも、『何でも屋』を経営し始めたのだって、そんな思いがあったからだ。


──お前のせいだ。


名誉挽回、という事だってそうだ。思えばこれはただの自分の我儘だった。

ルビアに諭されたように見せかけただけで、自分の心には既にそんな気持ちがあったのではないだろうか。


──お前のせいだ。


言葉がずっと頭を公転する。自分の罪が背中を覆って、重石となってはレイの体に溶け込んでいく。

レイはきっといつか耐えきれなくなる──それが怖いから、誰かのせいにしてしまう。


──お前のせいだ。お前のせいだ。お前のせいだ。お前のせいだ。お前のお前のお前お前の──自分の、せいなのだ。


そんな思考回路が怖くて、レイは思わず耳を塞ごうと──、


「──ヤマシタ・レイ」


した所で、そんな声がレイの意識を回帰させる。

この場において、たったひとつしかないその声の主は──しかし自分の存在感が薄いように、レイの頬を叩く。思い切り、二度叩く。


「──ヤマシタ・レイ」


もう一度、レイの名前を呼んだ。今度も厳しく単調で、しかしその分同情も憐れみもなかった。

そこにはただ、本質的な『声』だけがあった。


「あなたが、あなたを責め続けるのはあなたの勝手です。どうぞ、余裕が無くなるまで自分を責め立てて下さい」

「────」

「けれど、それを今されると困ります。自分は、あなたの依頼人です。本当に、『何でも屋』を名乗るのならば、依頼人の依頼一つだけでも厳守して下さい!」

「────」

「良いですか? メソメソするのは勝手です。でも。それがあなただけで済まない時──例えば、今みたいな雇用関係がある時は、絶対にメソメソしちゃ行けません。それは、『何でも屋』の絶対的な約束です!」


『何でも屋』という言葉に、一体どんな思いがあるのだろう。

レイに向けて初めて放ったその言葉には、何故か愛おしさのような響きが込められていて──けれどそれも直ぐに頭から離れてしまう。


それほどに、彼女の言葉は強烈だった。きっと、レイの知る大人なら当たり前と考えるそれが、レイには脳髄にハンマーを叩き落とされたかのように衝撃的だった。


言葉が、出てこない。何を言えばいいのかは、しかし何故かよくわかっていた。

何とか、舌先と喉で言葉を固める。そして、言い放った。


「わ、分かった。任せてくれ」


動揺が隠せず、何だかはぐらかすような言い回し。それにレイは心底恥ずかしくなって──けれど、


「────」


リーフの笑顔がとても眩しかったから、


「──そろそろ掴んでる胸倉離してもらってもいい?!」


と、普段通り、レイはふざけて大声を出してしまったのだった。



──



──事件というのは、極めて平和な時に起こるらしい。それは今回もそうだった。



レイの胸倉をようやっと外したリーフが一言、「さあ行きましょうか」と言った途端、レイの身体は、左斜め前方に吹き飛ばされた。


「──っ!」


後方からの、ぶち抜かれるような攻撃。『先読み」が発動しなかったことに苛立ちを覚えてまもなく、レイは洞穴の壁に叩きつけられた。

そのはずだ。


「な、何で、痛みがないんだ?」


攻撃による、衝撃はあった。しかしそこに痛みはない。それに──とレイはその攻撃の主を見る。

その一角は、レイの血で濡れていない。そしてレイの背中にも風穴は開いていない。


となると、レイの体があの角よりも硬いわけになるが──、


「そんな訳が、ない」


レイはそんな言葉を発してから、リーフの方を見る。その瞳は、恐怖に震えている──レイに向けての、恐怖に。


「や、ヤマシタ・レイ……?」

「──熱っ!」


突然、左手の甲に熱が走る。昔、中学生の頃の古傷が再起動したのかと一瞬考えたが、そんな訳があるまい。

レイは耐え切れぬほどの熱を発する左手を抑え、地面に蹲った。


「やばい! やばい!」


もう語彙力なんて崩壊していて、「やばい!」の一言発するだけで精一杯。そんなレイは、ふと、自分の左手の甲を見る。

そこには、


「──っ!」


──よくわからん、気持ちの悪い痣が出来ていた。










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