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MR.ムーンライトの異世界新日常紀  作者: 毛利 馮河
第一章 一角の恐怖
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2話 壱 『そもそもの話』

──そもそも、ヤマシタ・レイは懸賞金が欲しくて一角獣を探している訳では無い。


それだけはハッキリしておくと、そう断言した上で、レイはネコが寄越した紙切れに目を向ける。


「じ、十倍になってやがる……!」


最近になって、少しは理解出来るようになったこの世界の数字。その知識で、その紙切れを舐め尽くすように見て、レイはそう呟く。


以前までは、金貨百枚だったそれが、今では一千枚となっている。

一体誰がこの懸賞金を出しているのか知らない──というか読めないが、頭がおかしいとしか言えない。


よっぽど、執着しているのだろう。一角獣の噂が流れ始めた一ヶ月ほど前から、徐々に上がっていたその金額は、遂に始まりの十倍。気持ちはわかるが、余程の大富豪だ。ネコが言うには、噂が流れるやいなや張り出されていたらしい。


「な、ネコさんよ。この懸賞金出してる人って、誰なんだ?」

「え? 誰って、そんなの決まってるだろ……MR.ムーンライト団だよ」


何故かネコは耳元でそう囁く。レイはゲニな顔をして、舌を出す。

自分の依頼主も彼らであるとはいえ、やはり嫌いなものは嫌いだ──と、


「あれ? おかしい。なんでだ? いや、そもそも何がおかしい」


喉に骨が引っかかったような、歯と歯の隙間にモロコシが入り込んだような。そんな違和感に、レイは歯軋り。思わず舌打ちを付いてしまう。

それに、ネコが嫌そうな顔をするものだから、急いで誤り、レイは顎に手を添える。


「あれー? なんだ、何がおかしんだ?」


MR.ムーンライト団が、どうしてレイに依頼するのか。それに関しては本当に謎としか言えない。だが、それではない。そうではなくて──と、レイのもどかしさは取れないままに、今日の『会合』は終わる。


「じゃ、それぞれ捜索と行きますかー」

「ええ。そうですね」

「そういや今日、ウィンディ兄弟居ねえみたいだけど、どうしたんだ?」

「あー、あの人達、確かMR.ムーンライト団に招致されたとか何とか? 聞きましたよ」

「あ、そうか。まあ、どうでもいいわ」

「ですね」

「んじゃ、バイなら」


と、そんな対話を繰り返し、レイとネコは手を振る。マーキュリーが時より言葉を挟むが、お互いに完全に無視。やはり、ネコの見解もレイと同じなのだろう。


──マーキュリーには、気を付けろ。


ルビアが同行したあの日、彼女は帰り道にそう言った。その目はやはり真剣で、冗談で終わらせようとしたレイを捉えて離さない。と言うのは相変わらずだが、彼女はそれを何度も言った。


夜寝る前も、朝起きた時も、飯食べてる時も、寝る前も……と、あれから四日間、そんなふうに続けられている。

そこまでされてしまうと、やはり嫌でも警戒してしまう。と、言う訳で、レイはマーキュリーには注意を払っている。おそらくネコもそうだ。

と、


「そういや、俺ルビアと同棲してんだよな」


今更ながらに再確認して、綻びそうになる頬を抑える。

そうだ、別に少し優しくされた位で好きになるはずなどない。これはただの甘えだ、とレイは心に戒める。

こんな勘違いで、幾度となく心砕かれて来たのだ。流石に経験則がブレーキを掛ける。


とはいえ、やはり年頃の女子と同棲している事実は、レイには刺激的だ。よく今まで何もなかったものだと、改めて自分を褒め──ていいのか途中で怪しくなり、レイは長く息を吐いた。


──あれからというもの、レイは毎日一角獣探しをしていた。


午前は『会合』にて情報交換、午後は現地にて、捜索。これの繰り返しを、この約一週間、ずっと続けている。

勿論、それでは生計が立たないので、他に入ってくる依頼は、ルビアに頼む形となっている。


テイラーがある日に言っていた。


『──バーッと成功して、名誉を得てやろうや!』


と。

レイはこれを目指す。バーッと成功して、信頼を回復してやる。それを目指して全力疾走だ!

そんなレイに、コツコツと小さな仕事で信頼を回復する、という考えはないのだ。少し考えれば、わかる話なのだが。


一度、小屋に戻り、ある程度の準備を整え、レイは森へと向かう。目撃情報が、森の東辺りでよく言われているので、まずはそこへ。


とはいえ、あまり期待はしていない。この何日かずっと、目撃情報を頼りに捜索しているが、なかなか見つからない。

これはもう諦めて、別の依頼に当たった方がいいのでは無いか? と思うが、やはり初依頼はしっかりとこなしたい。勿論、それ以外を疎かにするとは言っていない。


「でもやっぱ見つからんのよねー」


と、色々考えている時点でレイは暇。イコール一角獣は発見していない。

今は手頃な小枝で草むらに八つ当たりをしている所である。雪が舞いに舞って仕方がない。

と、


「ほんと、こっから先に行ければ随分違うだろうにな」


レイは立ち止まり、ため息を吐く。レイの眼前には身長の三倍はあるであろう、柵。それは連なり、レイの視界の外へまでも続いている。


──障壁の消失に伴い、村人達は柵を立てた。


単純な話である。獣達の侵入を防ぐ為である。

以前までは、エル婆の障壁により侵入を阻んでいたのだが、今はそれはない。という訳で、MR.ムーンライト団が苦肉の策を提唱。焼石に水だな、と冷ややかな視線が送られていたのだが、今ではちゃんと機能している。


「確かに五メートルもあったらさすがにな」


と、レイは頭をかいて柵の大きさを目測で図る。これはもう柵と言うより、壁だな。なんて事も考えていた。


「まあ特に何もねえよな……」


少し期待して、辺りを見渡す。数分経ってから、また辺りを見渡す。

そんな事を何度やっても、一角獣は現れない。そもそも、一角獣の存在さえ怪しい。


聞く所によると、一角獣のように見える鹿の可能性が浮上しているそうだ。

確かに、片方の角が折れた鹿は一角獣となりうるので、有り得ない話ではない。


ただ、一角獣の話にはかなり魔法的要素が──例えば、虹を背中から噴出していた、角からビームを発射したなどなど──が聞かれる。

おそらく話にかなりの量の尾ひれが付いていると推測されるが、それでも魔法的要素が含まれているのは事実だろう。


──そもそも、一角獣という物が何なのか、レイは未だよく分かっていない。


否、それはレイだけではない。レイ以外の皆──『会合』の連中以外も、それを完全に把握している者はいない。

簡単な話、そもそも一角獣なんて言われ出したのが、ここ一ヶ月前──、一般的に語られ始めたのでも、一週間前あたりからなのだ。


当然の事、誰も一角獣への情報がない。

そもそもそいつに、こちらへ危害を加えるつもりがあるのかさえ分からない。

今の所、全てが霧中。暗中模索とはまさにこの事で、レイらが行っている事は、世紀の発見への探索とほぼ同等。否、そもそも一角獣自体が伝説の存在だから、見つけたらそれは世紀の発見となる。


そもそも──ここまで来るのに『そもそも』を四度使っているのだが──、一角獣という名前も適当だ。

言わば、一千年位前の伝承にあった生物と、たまたま似ていた、という理由だけで命名された。


今の所、誰が決めたのかは知られていない。

テイラーが命名者だ、と皆言うので、テイラーも自分で言っているが、確実に嘘なのでレイは信じていない。


「ハクション! ウー」


クシャミして、レイは手頃な葉っぱで鼻をかむ。赤く染まった鼻を叩いて、レイは自分の肩を摩る。


「サブっ! もう『本降り』かよー!」


手頃な雪を丸めて放り投げて、レイはまたクシャミをする。

本当に、この寒暖差は勘弁して欲しい。

普段は春頃の気温であるのに、一日に一度、凄まじいほどの寒気に襲われる──それはレイが今まで経験したことの無い気候だった。


「もうそろそろ帰るか」


──収穫なんて何もないし。

と、小さく呟いて、口を尖らせてみる。レイは荷物を纏めて、帰路に付く。

と、


「レ──────イ!!」

「に──げ──ろ──!!」

「えええ!」


森の柵を飛び越え、こちらの肩を掴んできたのは、弓と槍の双子──ウィンディ兄弟だ。

大変焦ったようにレイの肩を揺さぶり、


「やばいんです!」

「レイ!」

「一角獣が!」

「レイ!」

「僕らを!」

「レイ!」

「追ってきてる!」

「レイ!」

「いや、オスカー兄さん俺の名前連呼してるだけじゃん」


と、レイは軽く突っ込みを入れる。すると、ユダがレイの頬を叩いた。ビンタ!? と驚いて目を丸くすると、ユダがこちらに真摯な目を向ける。


「僕らを信じてください」

「────わかった」


逡巡した後、レイはそう応える。あんなにも真摯な目で見られて、拒絶する事なんて出来ない。

それで、レイは走り出した。


──後方から、一角獣の姿が見えたのをレイは確かに見たのだった。





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