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MR.ムーンライトの異世界新日常紀  作者: 毛利 馮河
第一章 一角の恐怖
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1.5話 零 『会合』

──最近、一角獣に関する噂が流れている。


そんな事を知ったとしても、ヤマシタ・レイはきっと動かない。そんなルビアの予想は、完全に外れてしまった。一角獣の噂が流れるやいなや、レイは飛び出して調査を開始したのである。

聞いた話では、初依頼なのだそうだ。依頼主が一体誰なのかは、口封じされているらしい。ルビアにでさえ、語ろうとしなかった。


「ルビア! そろそろ『会合』があるから、ちょっと開けるわ!」

「はいはーい!」


どうやら、『会合』何てものが出来ているらしい。一角獣の情報交換が目的だろうが、よくレイが参加出来たものである。

一角獣の調査を始めて三日。その間も、一応依頼はあった。

猫探しや犬探しなど、一角獣探しとは比較にならないものばかりだが、やはり依頼は依頼。ルビアとレイは協力して、それらを真面目に行ってきた。


とはいえ、である。


ヤマシタ・レイへの信頼度は、相変わらず低いままだ。正直な所、ルビアがいなければ仕事として成立していなかったのでは? なんて最近では思う。それは自慢と言うより、事実だった。


「あ、忘れてた」


ふと、伝え忘れた事を思い出し、ルビアは腰を上げた。資料の作成と経費の計算は一時中止して、首を伸ばす。

レイの姿はもうない。やはり遅かったか。


「今日の『本降り』が大変だって言うから傘作ったのに……馬鹿なことしたものね」


と、自嘲してから、ルビアは腰を鳴らす。大きく息を吸い、空へと手を伸ばす。


──曇天の空に、太陽はない。



──



──『本降り』。

定期的に訪れる、降雪量が異常な量になる時間帯。原因としては、十年前突如現れた『邪竜』の息吹であるとされている。

エル婆が統治していた、以前までの『始まりの村』では、障壁のおかげでこれが阻止されていた。しかしエル婆の死亡と、原因不明の障壁の消失により、半年前からこの村でも発生している。


と、『本降り』に関して分かっているのはこれくらいだろうか。最近になって、『本降り』の時間と降雪量の予測が可能になってはいるが、それも焼石に水。根底から変えなければ、この『本降り』は止まらない。


と、それはともあれ。


「おうルビア? 何しに来たんだ?」


『会合』が執り行われている仮説住宅から、レイがそう手を振ってきた。こちらも手を振って、傘を差し出す。


「忘れ物……って言うか、わたしの言い忘れだけど。これ、持っておいて。今日の『本降り』は強烈らしいから」

「なるほど強烈ね……ま、それはともあれ、ルビアもちょっと参加しといてくれよ!」

「え、わたしはちょっと色々整理しなきゃ行けないことが……」


と、嫌がるルビアをレイは無理矢理椅子へ座らせる。引っ張られた左腕が少し痛む。頬を膨らませ、ルビアはレイを睨んだ。それに、野太い声が「ヒューヒュー」と鳴る。


「愛されてるねー」


と、一人が言うと、残り五人も、


「愛されてるねー」


と、復唱。それにレイとルビアは、


「「それはない」」


と冷たく回答。それで大爆笑が起きるが、ルビアにその気は無い。以前から考えていたが、やはりヤマシタ・レイに、そう言った感情は湧いてこない。

では何故ルビアがレイを囲うのか。それを敢えて言うなら、おそらくルビアの罪滅ぼしだろう。自分も悪いと理解しているから、ルビアはきっとレイを恨んでいない。


──もし、自分に罪の自覚が無ければ、きっと民衆と同じ目で彼を見ていたのだろう。


そんな事は、容易に想像出来る。だから、ルビアはレイに対して寛容になれるのだ。


「まあ、それはともあれだ」


と、一人の男が、そんな言葉で談笑と会合を区切る。一気に部屋が凍りつき、真剣さが舞い戻るのをルビアは感じ取った。


「とりあえずそこのお嬢ちゃんへ、俺から、こいつらを紹介する」


そう言って、指導者格の男は左隣の男に手を差し出す。円卓を囲んだ五人の視線が、一斉にそちらに向かう。


「こいつは、テイラー。流れの動物使いだ。下手に怒らせるとこいつの『犬』が襲ってくるから気を付けろ」


そう言うと、テイラーと呼ばれた男が軽くお辞儀する。顔立ちはかなり優しげだが、その肩に刻まれた傷は生々しく戦争の過酷さを語っている。

もしかしたら、犬に噛まれただけかもしれないという発想はルビアにはない。


テイラーは禿げた頭を摩る。爪を立てたその様は少し痛々しく、ルビアは顔を引き攣らせる。彼の瞳は、説明するまでもなく茶色。ただの人間だろう。


「んで、槍持ったこいつがオスカーで、弓持った横の奴がユダだ。こいつらは兄弟だから、俺らはウィルディ兄弟って呼んでる」


紹介されたオスカーとユダが、揃ってお辞儀する。どうやらオスカーが兄でユダが弟のようだ。あまり似ていない顔立ちから、異母(父)兄弟だろうかと推測する。

ただ、二人とも綺麗な黒の瞳をしている。南西の旧アルタ王国辺りで多い特徴だ。彼処ら辺の訛りは強烈だから、少し注意を払った方がいいかもしれない。


「それで、この優男がマーキュリー・サガン。商人だ」


マーキュリーは、小綺麗な服装で、こちらに礼をした。格式ばったそれは、やはり商人らしい。ルビアは少しだけ目を細め、レイに合図を送る。気付かれない。

ボーッとするな、と膝を叩くと、レイはビックリした表情でこちらを見た。「なんですか?」とばかりに目を丸くしている。


それに少し苛立ちを感じながらも、ルビアは顎でマーキュリーを指し示す。少しだけだが、この時期に商人と言うのが引っかかるのだ。


「んでまあ、最後になったが、俺が、この『会合』の司会者、ネコだ」

「──え? ──ネコ?」


珍しい名前に、ルビアは思わず反応。それにネコは笑って膝を叩くと、


「まあ、珍しい事この上ないのはわかる。確かにわかる。でもな、俺にゃ記憶がサッパリ無くてよ。しゃーねえから、ネコって名乗ってるんだわ」


そう言って、またもや豪快に笑った。それに、ルビアは怪訝に尋ねる。


「つ、つまり記憶喪失って事?」

「ああ。ま、そうは言っても割と昔からそれだからな。今じゃ新たな人生をおうかしちょるよ」


手を後頭部に回し、ガハハと豪快に笑う。ネコなんて名前をしているくせに、猫らしくないな、とルビアもそれにつられて笑う。ただ、その左手の甲には猫を模した刺青があった。


「と、行けねえ行けねえ。真剣な雰囲気を崩しちゃうのが俺の悪い癖でね。許してくれ」


と、ネコが舌を出す。それに、ルビアは何だか懐かしさを感じて、レイの方を見る。すると、何を思ったのか、レイはこちらに笑いかけた。

求めていたものと違ったので、ルビアはそれを無視。そのままネコの話に耳を傾けた。


「さっきの続きなんだが……一角獣に関しての、俺の見解を話させてもらう」


残りの五人の沈黙と了承を待ってから、ネコは咳払いを一つ。


「そもそも、一角獣なんてもんがこの時代に居るのはおかしい──それは、みんなの共通事項だな?」


確認するように、ネコがみんなの顔を見る。頷きが一斉に起こり、ルビアは少しだけ圧巻。レイでさえそうしているのだから、よっぽどなのだろう。

だからルビアも、頷く事にした。


「よし。ならいい。──それでだ。前回の『会合』で話してた事を俺なりに纏めてきたから、それを解説して行きたい。じゃ、初めから──」



──



「──誰かが一角獣を作ってる、ね……」


ネコが語った、いわゆる陰謀論を口に出し、ルビアは唸る。

確かに、最近は物騒だ。聞く所によると、『革命軍』なんてものが発起されているらしい。

つい、十年前、反乱軍が王国に勝利したばかりだと言うのに、忙しないものである。勿論、ルビアはその戦いを知らない。


「──じゃ、俺らそろそろ帰りますんで」


そんな軽い言葉で、レイはルビアに傘を差し出す。渋々と言った表情で隣に立つと、妙な緊張感がその場に流れた。


「ねえレイ?」

「ん? な、何だ?」

「いや、どうしてそんな焦ってるのかな……? と、思いまして」

「い、いやちょっと『本降り』に対してビビってるんだよ。そう、ちょっとビビってるんだよ」


まるで胡散臭いレイの証言に、ルビアはため息を吐く。呆れ、何てものがそこには含まれていた。レイが持っていた傘を、ルビアも掴む。


「そんなに震えてたら雪で濡れちゃうから、わたし持っとくよ」

「あ、ごめんなさーい」


と、ぎこちない笑み。レイのそんな表情を見て、ルビアはまたため息を吐く。少々苛立つが、この男の事だ。何も考えていないだろうから、怒るのは辞めておこう。

そんなふうに思って、ルビアは帰路を急ぐ。その間も、思考は回り続ける。


──結局の所、ルビアがレイの気持ちに気付く事は無い。

ストックが尽きました!

隔日更新をできるだけして行きたいです

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