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MR.ムーンライトの異世界新日常紀  作者: 毛利 馮河
第一章 一角の恐怖
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1話 弐 『羊の絵画』

──目の前で直立立ちをする少女の瞳は、本当に気持ちの悪い緑色をしていた。


「──あなたに、良い報せと悪い報せがあります」


彼女はそう言って、レイの目の前に選択肢を指し示した。その瞳には何の感情もない。否、『虚』だけがある。

レイはその瞳の奥をのぞく勇気はなく、そのまま頭をかいた。


これは、やはりそういう事なのだろう。話にも聞いていたし、レイも一度だけその光景を見た。──店舗潰し。きっとこの状況はそれなのだろう。


しかし疑問が残る。ヤマシタ・レイの何でも屋は、今日開店された。確かに客の数はゼロだが、それでも開店一日目。そんな事を言い出せば、新店舗を出す事など、不可能だろう。


とはいえ、である。レイはこの社会の厳しさを十二分に知っている。事に、一度『やらかした』レイの場合は、尚更だろう。

そんな事を理解しているから、レイもそれ相応の覚悟は出来ていた……やっぱり出来ていない。


「悪い報せか良い報せか……どちらを先に聞きたいですか?」


少女はそう言うと、両手を広げた。おそらく右が悪で左が良なのだろう。レイはその手を見つめてから、


「じゃ、じゃ……良い方から」

「では」


レイの言葉に、少女は息を吐く。


「あなたに初依頼です」

「初依頼?」

「ええ、初依頼」


そう言うと、少女は左手を下げる。右手を丸めて、広げた。この言葉で、レイの予想は大きく外れる。ただ、どうして初依頼であるのかわかっているのが不思議だ。とはいえ今、それはどうでもいい。早く次の言葉が聞きたい。


「悪い報せは……あなたを──研究対象として招致します」


そこまで言うと、少女は左手をこちらに向けた。掌が煌めく。──やばい! と、頭が思うよりも早く、そこから光が射出。それはレイの心臓辺りに直撃し、そのまま体に溶け込んでいく。


「では、後で会いましょう。──おやすみなさい」


そう言うと、少女はレイの額を指で押した。そのまま、視界が眩む。レイは自分が地面に倒れていく感覚を味わいながら、少女の瞳をひたすら見ていた。

少女の名前は、最後まで思い出せなかった。



──



目が覚めると、知らない天井。思えば映画をするするとか言いながら結局見に行けなかったなあと、思い出して瞼を落とす。

あの彼と自分ならどちらの方が辛いのだろう。──応えはわかり切っている。けれどそんな不幸較べは嫌いだ。


レイは体を起こすと、辺りを見渡す。自分は、どうやら綺麗な部屋にいるらしい。本当に綺麗だ。気持ちの悪い程に綺麗だと思う。


ただ、自分が寝ていたベッド以外に家具が一切ない。それは不気味だ。何だが、寝るためだけの部屋、と言う気がする。とはいえ、元々寝室と言うくらいなのだから、それはそれで正しいのだが。


レイはベッドから足を下ろすと、腰を何度か鳴らす。全身へ震えが走る。痛みは特にない。


「さてさて一体何があったんだっけか」


手を擦り合わせると、レイはそう呟く。何とか頭を回してみる。


確か、あのアボカドみたいな目をした少女に襲われたのだったろうか。何だか、恐ろしいことを告げられた気がする。──そうだ。研究対象として招致するなんて言っていた。


「研究対象って言っても俺なんか特別な事あったけな」


腕を組み、レイはそう呟く。

確かに、レイは異世界人である。この世界の人々とは違う体の構造をしているのかもしれない。

だからその点に関して調査・研究されるなら妥当だ。レイがもし研究者から是非そうしたいと思う。


しかし、である。

レイは今の所、自分が異世界人である事を誰にも告げていない。

勿論、何故か知らないがそれを知っており、何やら意味深な発言をしていたエル婆は除く。


彼女を除けば、レイが異世界人である事を知るものは居ない。彼女のように勘づかれているならどうしようもないが、その可能性は除外しておく。


となると、研究されるべきはもっと別のもの──そんなもの、たった一つしかない。


「こいつ──未来視か」


エル婆から授かったこの力。ルビアとネイブルを救う際、レイの力不足のせいで充分に能力を発揮できなかったこの力。

これはレイにとっての後悔である。


発動条件も、発動回数もわからないこれが、研究対象とするならば。

するならば、どうなのだろう。一体この能力は何なのだろう。


エル婆に、半強制的に託されたこの力。何かしらの条件を満たすと、未来を見る事が出来る力。

ほんの数秒だけしか見えないから、レイはこれを『先読み』なんて形容した。それは案外間違いではないのかもしれない。


「ま、考えても仕方ないよな」


指を鳴らして、首を鳴らす。鼻の先を人差し指で触れた所で、決意は固まった。扉を開けて、外の世界に飛び出す。

と、


「──っ!」


世界が青白い泡に包まれていく。途端、吹き矢がこちらに向かってきた。そのまま、レイの額を穿いて行く。

レイはその景色に目を見開く。──『先読み』だ! と心の声で、レイを囲んでいた泡が弾けた。


「──あぶなっ!」


その瞬間に、レイは思い切り屈伸。頭を掠める吹き矢の風が聞こえた。レイの声が狭い廊下に響いた。


暫く屈伸したままだったレイは、ゆっくりと体を起こす。辺りを見渡し、安堵の息を吐く。どうやら、あの一発だけだったらしい。


レイはそのまま、廊下を進み出す。どちらが前で後ろか分からないから、適当だ。

間は狭く長さは無駄にある廊下。それがレイの第一印象である。ちなみにそれは、そこから十分後にも感じる。


辺りには何の装飾品もない。絵画や壺なんて在り来りなものもなく、ただ真っ白。一面が真っ白に染まっている。

だから終わりが見えない。扉らしきものも三つ数えた辺りから消えてしまった。もう後戻り出来ない。感覚的にそう悟って、レイは進み続ける。


「てかもしかして、こいつ自体が実験なのか?」


ふと、レイの思考にそんな言葉が過ぎる。思えば、映画などでよくこんな展開がある。

終わらない廊下。主人公は一人。ここからどうやって脱出するのか。


こういう映画は大抵人体実験オチだが、やはりこれもそうなのかもしれない。そのうち、アホほど強い化け物が現れて、レイを襲ってくるのだろう。


と、完全なる映画脳で世界を観測。十秒待ってみるが、化け物が現れることはなかった。

レイは長く息を吐いて、腰を鳴らす。


「あかん、暇すぎる」


そう、危機的状況にでもならない限り、こう言った状況は大変暇なのだ。辺りを見渡しても全面真っ白だし、思えばレイの服装も全て真っ白。

暇だ。暇すぎる。


と、言う訳で。


「まあちょっとさっきの部屋まで走ってみるか」


呟いて、レイは来た道を引き返すことにした。もう後戻り出来ないといって直後の矛盾思考だが、そんなことはどうでもいい。

と、ばかりにレイは疾走。歩いて十分程度の距離だったから、走ればどうとでもなるだろうと楽観的思考。


しかし、


「え、何で何も見えて来ねえんだ?」


走り出してから凡そ五分。大体さっきの扉が見えてくると予想していた場所まで走った。

本来なら、そこに扉があるはずの壁。しかしそこには、ただ一枚の絵画が飾ってある。


「羊、か……?」


そこには、三匹の羊が描かれている。その後ろには、一匹の狼。その口は明らかに羊を狙っている。ああ、これはまるで三匹の子豚だな、とレイはふと思う。

そんな時だ。


「は?」


世界が青白い泡に包まれていく。そのまま、レイの動きは完全に止まる。しかし、何も起きずに十秒たった。そのまま、泡が弾ける。

──パスリと、耳元で何かが聞こえた。


「これは、不味い……」


チクリとした痛みに、レイは左肩を見る。そこには、吹き矢が突き刺さっていた。

引き抜こうと、レイは吹き矢に手を伸ばす。しかし届かない。そもそも右手が動いてくれないのだ。


「麻酔的な奴、か……?」


意識が朦朧として、足元が覚束無い。レイはそうして地面に伏せる。膝に割れるような痛みが走るが、それに構っていられる余裕はない。

ボケた視界とぼやけた頭で、思考を回転させる。一体今、何が起きているのか。


それをしろうと、辺りを見渡す。けれどあるのは絵画が一枚──そうだ。この絵画に、ヒントがあるのかもしれない。

レイは頭をかき回し、地球で記憶を探る。もう四ヶ月も前の事だから、随分忘れてしまっているが、それでも、何かしら出てくるかもしれない。


そんな甘い考えのまま、レイは瞼を落とす。眠たくて仕方がなくて、これではもう何も考えられない。

と、そんな時だ。レイはふと、思い出した。


──『ノリ』とか『雰囲気』が、きっとこの世の全て何ですよ。


それを思い出した所で、何があると、レイはふと考えていた。

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