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MR.ムーンライトの異世界新日常紀  作者: 毛利 馮河
第一章 一角の恐怖
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1話 壱 『アボカド』

──見える全てが明瞭だ。心の全てが軽やかだ。

今なら、何もかもを救える気がする。

少年は、漲る力に感動を覚えながら、長く息を吐く。


「言っておきすが、それは一時的な物です。下手に使い過ぎると干からびますからね?」

「わーってますよ」


と、にこやかに少年はスマイル。それにアボガドみたいな少女も呆れ顔。理解していないのを完全に悟られていた。


「さて、お前には色々やられたからな。──今回は俺の糧になってくれ」

「────」


前方で睨む、黄金の瞳に、鋭利な輝き。向こうから言葉を発することは無い。否、両者に言葉は必要ない。

砂が風に舞っていく──そんな様子を眺めてから、少年は相手に走り出した。


左手で半分光るそれに、自分でカウントダウンしながら、少年は構えをとる。

それに、驚いたような顔。しかしそれも直ぐに侮蔑の念へ切り替わる。


やはり、嫌な奴だ、と思いながら、少年は息を吐く。


「──さあ行くぞベイベ!」


──ヤマシタ・レイは、その日から立ち向かう勇気を覚えた。



──



──遠く、遠く空で鳥が飛んでいる。


ヤマシタ・レイはそれを眺めて、目を細めた。風が目にゴミを運ぶ。レイはごろついたそれを何とか取り除く。

大きく欠伸をして、腰を鳴らした。快感が全身を通り抜けていく。それで、レイは達成感を感じた。


「やっと終わった──!」


大きく天に手を伸ばし、レイは叫ぶ。障壁のない空はやっぱり綺麗だ。けれど寒い事に変わりはない。レイは以前より少し厚手の服装だった。


達成感が、全身を通り抜けていく。心がまるで軽やかで、レイは思わず綻んだ。そのまま地面に転がってしまいたい。けれど泥と雪の混ざったそれで服を汚すのは嫌だ。という訳で、気分だけ味わっておく。


レイの達成感の理由──それは、彼の眼前にある。

レイの眼前。そこには、一つの小屋があった。ボロボロの小屋である。一体いつ建築されたのだ、と疑問符が浮かびそうな程にボロボロの小屋だ。

しかし、それは最近に建てられた。ちなみに言うと、それはついさっきに完成した。つまり、ヤマシタ・レイの手によって、その小屋は完成したのだった。


再興の進む村の中で、開いたスペース。そこに建てられたそれは、三ヶ月とかなり短い期間で完成されられた。勿論、レイ一人の手ではない。ルビアの手も加えられている。と言うか、大半の魔法的補助はルビアのおかげだ。


「あいつには感謝しかないな」


改めて、レイはそう呟く。この小屋を建てるだけでも、彼女に多大な恩がある。それ以上の恩もある。だから彼女には一生逆らえないな、とレイは思った。フッと笑う。振り返り、辺りを見渡していた。


──地震と狼の襲来から早三ヶ月。復興作業は、順調に進んでいた。


やはり魔法という要素がかなり大きい。本来中世では使えないような技術が発揮されている。それも主に、MR.ムーンライト団の人々だ。あの、皆が役立たずと言っていた人々が、今ではヒーローと化していた。


ただ、やはり耐震性という概念がない為、建物の損壊は激しい。シンドロの泊まり木も未だ営業を再開しておらず、『来訪祭』も延期の延期を続けている。市井の声としては、殆ど中止だろう。レイもそんなふうに考えている。


やはり人々は徐々に元の生活に復帰していっている。行商人の連中なんかは、既に仕事を再開している。ちなみに、ガイヒは未だにこの村で営業をしている。レイは一応、警戒心を持って彼と接していた。


ただ、この三ヶ月で変わった事もある。それは──、


「──ドワイト、元気してんのかな」


彼女が残した手紙。レイでは読めないそれを開いて、独り言を呟く。

そう、ドワイトはこの三ヶ月でこの村を後にしていた。理由はよく分からない。この村にはもう用がない、なんて言っていた。レイは彼女に何度も誘われたが、それは丁重に断った。レイにはやらなくてはならない──否、やりたい事があるのだから。

と、


「おー、完成したんだね」


そんな声が聞こえて、レイは振り返る。そこには、ルビアが居た。彼女の表情は笑みで、こちらまで胸が暖かくなってしまう。


「それで……名前は決めたの?」

「名前?」

「そう。店を出すんならわかりやすい名前が必要でしょ?」

「あー、確かに」


けれど別にそれは後でも良いや。そんな考えが頭にある。正直、今はこの達成感に浸っていたい。そんなふうな気持ちを込めて、彼女に笑いかける。どうやら伝わっていないようで、首を傾げられた。


「まあとりあえず、宣言だけでもしときますか!」

「宣言ってそんな大袈裟な」


と、笑うルビアを他所に、レイは大きく息を吸う。振り返り、歩く人々に向けて一言、それも大声で言い放つ。


「──ヤマシタ・レイの何でも屋、本日開店です!!」



──



ヤマシタ・レイの償い方。それは、何でも屋として、社会奉仕をする、というものだった。これならば、ヤマシタ・レイの信頼回復も期待でき、且つ、住居の確保も可能と考えたのだ。勿論、発案者はルビアである。


始め、その案を聞いた時、レイには正直成功のヴィジョンが見えなかった。

当たり前だろう。レイは一度『やらかした』。故にもう二度と失敗は出来ない。だから臆病になっていたのだ。否、それは過去形ではない。現在形の話である。


ただ、何もせずに終わる事はもっと許されない。だからレイは数ある選択肢の中から何でも屋を選択した。ちなみに、候補は三つほどあった。


と、それはともあれ。レイの何でも屋の初営業に初仕事。その結果は──、


「まあ、予想通りと言えば予想通りだから……落ち込まないで?」

「そう言われんのが一番辛いんよなぁ」


散々であった。

まず、客が来ないのだ。来たとしても、冷やかし程度だろうか。まず、レイが経営している、という時点で受けが悪いのだ。最悪なのだ。


仕方がないと言ってしまえばその通りだが、やはり無念である。それに、この仕事を行う為にはレイの信頼の回復が必至だと言うことに気付いてしまった。

つまるところ、信頼回復を目的とした仕事をする為には信頼が必要という、完全な本末転倒状態に陥っていた訳である。


ルビアがそれにいち早く気付き、何かしら手伝ってくれてはいたものの、効果はあまり──と言うか皆無であった。レイの不信頼度が軽くルビアの信頼度の三倍上を通っているのだ。仕方がない話ではある。


しょげた面をして、レイは机にへたり込む。ルビアが肩を叩いてくるが、余計に虚しくなって終わりである。

外は既に夜だ。障壁のない夜中はやはり寒く、レイは思わず身震い。毛布を握りしめて一震した。ルビアが少しだけ驚いて肩から手を離す。その目は子犬を見る飼い主のそれだった。


「でも真面目に考えないとやばいな」


障壁が無くなってから、この村ではとある時間帯が出来た。それは、『本降り』である。

『本降り』とはその名の通り、雪が本気で降る時間帯の事である。

何故かわかないが、それは定期的に訪れる。まるで決まっていたかのようだが、この雪が降り始めからの他村では普通だったらしい。


それが何故、営業に関わるかと言うと──単純に、『本降り』の間は人が全く現れないのだ。

この小屋には特殊な魔法が掛かっているらしく、『本降り』でも何の影響も受けないが、他の所は違う。何やら対策が必要となっているらしい。


「それにしても、客来ねえなあ」


外の景色を見てレイは呟く。雪景色はやはり綺麗だ。


「ま、まあ初日だしね。明日から少し考えて行けば大丈夫なんじゃないの?」

「まあそうなんだけどなあ……」


──正直、明日客が来る気はしない。

そんな言葉を吐いて、レイはため息。ルビアの横顔を眺める。「何よ」と一言。それに何でもないと応えて、レイはフッと笑う。何だかそのやり取りは恋人同士のようで、レイは心が熱くなるのを感じた。

と、


「──おい! ルビア!」


突然に扉が開かれ、風が舞い込む。それに載せられた言葉は、レイを一瞥した後、ルビアに吹いた。少し胸中に燻りが起きて、レイは虚しさを感じた。


「ピートが呼んでる! 急いで行ってやれ!」

「う、うん!」


そう応えるルビアに、レイは手を伸ばし、


「俺も!」


と叫ぶ。けれどその声の主は──シンドロは非常だ。冷たい目でこちらを見て、一言放つ。


「なあ、レイ。──これ以上、下手な事すんな」

「──っ!」


途端、風が吹いたような気がした。急いで頭を抱えてみる。けれど髪の毛が逆だっている事は無い。それで、レイはその風が何か悟った。そして虚しさに伸ばしていた手を引っ込めた。


「……ルビア、行ってらっしゃい」

「……っ。ごめんなさい……」


そう謝って、ルビアが扉から出ていく。シンドロの姿はもう見れない。見たくない。心が重たくなるのを感じて、レイは机に伏せた。


頭の中で、グルグルと言葉が回る。それは全部ネガティブな言葉で、レイの心が侵食されて行く。

やらなきゃ良かった。なんて言葉もそこにはあった。羞恥心なんてものもそこにはあった。


きっとそれらはレイの本音だ。きっとレイの心根だ。けれど──それらはきっと、甘えなのだ。


だからレイは歯を食いしばる。そうだ。これ以上考えるな。ヤマシタ・レイがすべきは、信頼の回復。それを達成するのだ。だから、今のこの状況は受け入れなくてはならない。そして、変えなくてはならないのだ。


レイは心にそうは刻み込む。息を吸って、吐く。吸って吐く。その繰り返しの中で、決意が改めて固まっていく。

シンドロに言われた言葉を思い出す。ドワイトの言葉を思い出す。人は『ノリ』とか『雰囲気』とかで生きている──それはきっと正しい。されど今のレイにそれは甘えだ。


心に刻み込んだ決意を思い出す。そして、もう一度目を見開いた。見える全てが懐かしい。そう言えるようになるまで、ヤマシタ・レイは諦める事が出来ないのだ。


そうだ、そうだ、そうだ。明日来ないかもしれないなんて、そんな恐怖はどこかへ捨て去る。そんな事を考えている暇があるなら、明日客を呼び込む方法を考えよう。


長い長い息を吐く。深呼吸をしてから、椅子から立ち上がる。窓を開けて、外の空気を小屋の中に入れ込む。清涼感が、心で満ちる。使命感が、改めて固まっていく。


ヤマシタ・レイは、手を握り締めた。


「──そうだ。やってやる。やってやろうじゃないか」


言葉を吐いて、空を見上げる。曇り空でも、何だかいい気がした。


──そんな時である。


扉が二度、叩かれた。くぐもった木の音が、小屋に響く。レイは怪訝に思いながら、扉を開いた。そこには、


「──こんにちは、夜分に失礼します。ヤマシタ・レイ」


薄い黄色の髪に、まるでアボカドのような緑の瞳の少女が立っていた。


「──っ!」

「そんなに驚かれる事ですか?」


レイはこの少女の顔を知っている。そうだ。この女は──!


「あなたに、良い報せと悪い報せがあります。どちらから聞きたいですか?」


MR.ムーンライト団の悪魔。そう通称される少女の問。それはまさしく、ヤマシタ・レイへの危機を表していた。



今回はストックが大してないので、毎日投稿は厳しいかなと。


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