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謎が解き明かされるとき③

 我々の創造科学研究所で、遺伝子情報を人為的に操作する方法で人格を変える新薬の研究をしていたことは前に言った通り。

 そして、その開発の成否は、天才山岡に掛かっていたことも。

 おそらく山岡は、その研究中に偶然ある発見をしてしまう。

 それはY染色体とX染色体を変化させるもの。

 知っている通りX染色体を二つ持つものは女性で、XとY染色体を一つずつ持つのは男性。

 山岡が発見したのは、このXをYに、YをXに自由に変化させるものだろう。

 どのような経緯か分からないが、山岡はその実験台として先ず水川千重子に試し、ここで水川千重子という人物は、この世から居なくなる。

 実験が成功して生まれ変わったのか、それとも失敗して死んでしまったのか、どうなったのかは分からない。

 しかし、この実験をもとに新薬の開発が進んだことは確かだろう。

 それこそ、お前さんが山岡から見張られていると思っていたように、実際の水川千重子は山岡の監視下に置かれていただろう。

 そして、その後の彼女の経過を見て今度は山岡本人が自分の体を使ってそれを試した。

 水川千重子本人への実験が成功して薬がそのまま使用できたのか、改良したのかのかまでは分からないが、そうして生まれたのが偽物の水川千重子。

 つまり私だと言う。


 ベッドに残された大量の湿り気とアンモニア臭は、山岡が会社を休んでいる間に、自分自身の体から排出された物だろう。

「では、私は二十日間も?」

「二十日掛かったかどうかは、見たわけではないから分からない。だけど、あの大きな山岡の体がそこまで小さくなるには、恐ろしく早いスピードで新陳代謝が行われたとしてもそのくらいは掛かっただろう」

「でも、どうして?」

「山岡がどうして女になりたかったなんてものには興味がないが、強いて言うならば最初の実験では飽き足らず……つまり、人格を変えるだけでは飽き足らず、人間そのものを変えたかったんじゃないか? あの野郎浮いていたからな。おっと失礼」

 恩田は、それだけ話すと大事そうにノートパソコンをバッグに仕舞い服を着た。

「もう、君に会うことはないだろう。もし山岡の心が戻ったら確実に爆発事故で死んだ奴ら同様に俺は消されるだろうからな。俺は君に見つからない所で、山岡の残したデーターを使ってひと儲けさせてもらうさ。お前さんが男から女になれたんだ。世の中にはGID(性同一障害)で悩んでいる奴も沢山居るし、ゲイやレズにも高く売れそうだからな。その時、君がまだ山岡として目覚めていなかったら、是非協力してもらいたいね」

 そう言って、いつもの嫌な顔を私に向けたあと「まあ遺伝子情報を司る染色体が変わっちまったんじゃあ、記憶が吹っ飛んでも不思議なことじゃない。それよりも生命活動に必要な遺伝子を多く含むX染色体を二つ持ったことを感謝して人生を楽しみな」と最後は私の肩をポンと叩いて玄関に向かった。

 そして、ドアを閉めるとき、今まで見たことない少年のような笑みを浮かべて恩田はドアの向こうに消えようとした。

 私は咄嗟にその手を掴んだ。

 何故掴んだのかは自分でもわからない。

 ひょっとしたら、恩田が出ていくのを止めようとしたのかも知れない。

「体を奪われて、情でも移ったか」

 一瞬驚いた顔を見せた恩田が、意地悪くそう言い、私は手を離した。

「じゃあな」

 恩田がドアを閉め、私の前から姿を消した。

 私は恩田の閉めたドアに鍵をかけ、チェーンロックを掛け、逃げるようにシャワーを浴びにバスルームに入った。

 汚された体を綺麗にしたかったのかも知れないし、他に何か違う感情が込み上げたのかも知れない。

 シャワーを浴びだして暫くたつと“ボン”というボイラーの点火音のような音が聞こえたような気がした。

 私はシャワーのお湯をそのまま湯船に向けて浴槽を満たし、それに浸かる。

 暖かなお湯に体を包まれて、あのアパートで目覚めたときからのことを思い出し、これで全てが終わったのだと思った。

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