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男の部屋②

挿絵(By みてみん)

 シャワーを浴びながら、何があったのか考えたけど、なにも思い浮かばない。

 洗面室のドライヤーで髪を乾かしながら、考えても、何一つ心当たりがない。

 バスタオルに身をくるみ部屋に戻り辺りを見渡すと、ベッドの近くのフローリングに男物の衣服が無造作に脱ぎ散らかされていて、テーブルにはビールの空き缶にスナック菓子の袋と煙草の吸殻があった。

 私は、男と居た。

 私は周囲を見渡し、その男を探した。

 けれども、部屋には、男はいない。

 もしかして隠れているのだろうかと思い、トイレやクローゼットの戸も開けてみたけれど、隠れても居ない。

 そのかわりクローゼットの中にあるものに、私は驚かされ、目が釘付けになった。

 ハンガーに掛かっているのは、男物の背広やワイシャツ。

 それも、一つや二つではない。 ここにある全部の洋服が男の物。


“私のじゃない……”


 タンスの引き出しを開けた。

 下着のシャツに、パンツ、Tシャツ、靴下。どれも入っているのは男物。


“ここは私のアパートじゃない”


 いつも通りキッチンの換気扇のスイッチを入れ、いつも通りバスルームでシャワーを浴び、いつも通りドライヤーで髪を乾かした。つもりだった。

 しかし、ここには私の物はひとつも無い。

 混乱した頭を抱え、その場に座り込んだ。

 なにも思い出せないけれど、ここで何があったのかは薄々分かってきた。

 それは女性の私にとって恐ろしい事実。

 恐らく私は何らかの薬を飲まされ、ここに連れて来られて、寝ているうちにこの体を玩具のように(もてあそ)ばれたのだ。

 あいにく私を弄んだ男は、今ここに居ない。

 お腹が空いて外に何か食べに行ったのか、それともコンビニエンスストアに何か買いにいったのか、いずれにしても私に薬を飲ませて眠らせて情事に及ぶなど正常な精神の持ち主ではない事だけは確かだ。

 兎に角、逃げるなら今がチャンス!

 ところが、自分の衣服が見当たらない。

 なにを着て来たのかも思い出せないけれど、今はそれを深く考える余裕はない。

 男が帰って来る前に逃げなくては!

 私はタンスの中にあった男物の短パンにタンクトップを着て、その上からカジュアルシャツを羽織り、その裾をおへそのあたりで括った。

 着替えながら、屹度男は自分が部屋を開けている隙に私が逃げ出さないように、私の衣服を持って出たのだと思った。

 案の定、玄関に出ると、やはりここにも私の靴はなかった。

 仕方なしに男物のブカブカのサンダルを履いて、玄関のドアを開けるために二つのロックを外して外に出た。

 アパートを離れて通りを走ると直ぐコンビニエンスストアがあったが、アパートに一番近いこのお店だと、男と出くわすかもしれないので、もう少し走った先にあるコンビニの中に入る。

 喉がカラカラに乾いていたので、冷蔵庫の扉を開けて冷えたミネラルウォーターを手に取ろうとして諦めた。

 慌てて逃げ出したので部屋に財布を忘れてきた。

 渋々アパートの傍まで帰った。しかし中に入る勇気はなく、外で様子を窺っていた。

 部屋の電気は点いているが、それは私が点けたままなのかアパートの男が帰って来て点けたのかは分からない。

 部屋に男が戻って居るのか、それともまだ私が出たままの誰も居ない状態なのか分からないので、怖くて戻る事が出来ない。

 そして、男の正体を全く覚えていない私にとって、たまに人が通るたびに私を拉致した男かと思えて心臓が破裂しそうなほど怖い。

 幸い遅い時間なので人通りは多くはなかったが、それでも緊張でクタクタになる。やがて新聞配達のオートバイが走り出し、駅に向かう会社員もちらほら通り出す。皆が私を変な目で見ている気がする。

 そして、この中に私を拉致した男がいるかも知れない。

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