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謎が解き明かされるとき①

「手を出しちまったあとで言うのもなんだが、怖くてもう手が出せなくなったと言う方が正しいか……まだ確信は持てないがな」

 と、まるで独り言のように言って、二本目の煙草に火をつけた。

 恩田は自分の考えを言った。それによると私は本物の水川千重子ではなく、事故も恐らくでっち上げだと。

 海外の新聞記事など当てにならない。

 だいいち本当に全身数十カ所も骨折しているのなら必ず手術の痕跡がどこかに残されているはずなのに君の体は、まるで生まれたてのように瑞々しいとさえ言った。

 私の体を蹂躙しておきながら何て厚かましいと思ったが、自分の腕に目を向けたが、確かに手術をしたような傷も感覚もない。

「仮に、外科手術をしなくて治療ができたとしても、折れた骨は歪に膨らむが、君の腕も足も肋骨にも、そのような所はない」

 私の体が触られたことを忌々しく感じながら聞いていたが、腕をさするってみると恩田の言う通りだと思った。

「では、私はいったい……」

 自分が何者であるか聞こうとした言葉、を制止するように恩田は手のひらを見せて話を続けた。

「児童養護施設を訪れた海原というのは、間違いなく山岡だろう。

 そして本物の水川千重子に関しては未だ生きているか、もう死んでいるか分からないが、彼女は間違いなく山岡の実験材料にされたはずだ」

「実験材料?」

「ああ。本人が望んだのか、山岡が騙したのかは分からない。しかし一定の成果が出たことだけは確かだ」

 何故、そんな突飛な想像でこの話を進められるのか不思議に思っていると、恩田は怖いものを見るような眼差しを私に向けて、ヤニ臭い指を私に指して言った。

「だから今、君がいる」と。

「君が、第二の実験体。そして、おそらくは完成形だ」

 言われている意味が分からないでいるところに、恩田はバックからノートパソコンを出した。どこかで見たことのある物だと思った。そう、それは山岡のアパートに有った物。

「一服盛ったのね……」

「さすが、感が良い。そう、あの日の喫茶店でコップの水の中に一服盛って君が意識を失っている間に、鍵の写真を撮らせてもらったよ。写真を等倍すれば簡単にスペアキーなんてできる時代だからね。そして保険証の写真も撮って、ここの住所を知ったのさ。」

 驚いて見ている私に恩田は「感謝して欲しいね」と言って、私がアパートに書置きしておいたメモを差し出した。

「こんなもの残していたんじゃ、折角の山岡の計画が台無しじゃないか。アパートに有る君の痕跡を消すために、どれだけ苦労した事か……」

 そう言って、ニヤッと笑う。

「山岡さんの計画って?それと私がどういう繋がりがあるの?」

 身を起こして聞く私の言葉を無視するように、恩田はパソコンを起動させ、私にパスワードを入れたいのだけど何が良いか聞いてきた。

 私は、他人のパソコンを勝手に開くことには賛成しない。

 だから躊躇っていると

「これは、君の記憶の扉を開く重要なカギとなる」

 と、悪魔のように(ささや)いて来る。

「私の記憶の、鍵?」

「そう、失った記憶は全てこの中に、隠されている。さあ考えるんだ、パスワードを。君なら必ず知っているはずだ」

 恩田の、妙に芝居がかった言葉に触発された訳ではないが、このパソコンに自分の記憶が隠されているとなると、他人のパソコンを勝手に開いてはいけないと言うモラルも揺るぎ始める。

 思いつくままに適当なアルファベットと数字をキーボードに打ち込む。

 恩田は、万が一パスワードを間違えた場合の爆発の危険性を考えたのか、私の背中越しに用心深く覗いていた。

 全てのパスワードを入力して終わると、一瞬液晶画面の上に付いているカメラが私たちの姿を捉えたようにみえた。

 そして次の瞬間、ノートパソコンの画面が瞬き、ハードディスクの起動ノイズとファンの回転音がした。

 恩田がニヤッと笑いながら隣に来て、ノートパソコンを自分の方に引き寄せながら私の顔を覗く。

「ビンゴ!」

「?」

「漸く答えが出たよ」

 そう言って、恩田はエクスプローラーが開ける状態になっている画面を私に見せて言った。

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