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キツネ目の男③

 喫茶店からアパートまでの帰り道は、考えることも多くて短く感じたが、アパートに着くとやはり恩田に合ったことが大きく影響して疲れて直ぐにベッドに横になってしまい、気が付くと夕方になっていた。

 恩田の言うように私は山岡の実験台にされて記憶を奪われたのだろうか?

 私には何となく違う気がしてならない。医大病院時代の彼の行った認知症患者にしてもALS患者にしても、一旦は改善の方向に行き、そしてその結果エネルギーが切れたように症状が悪化した。

 私は医学には詳しくないけれど、恐らく山岡のしたことはただ患者の持っているエネルギーを一旦集中させただけに過ぎないのではないだろうか。

 そう考えると、私の記憶喪失は経過ではなく結果のような気がする。つまり、何かが既に変わってしまった後の障害……。

 晩に部屋を綺麗にして、山岡の財布から使った分のお金を便箋に入れ、山梨に帰ることなどを書いた手紙も添えてテーブルの上に置いた。

 それからコンビニエンスストアに行き電話を掛けた。

 このアパートから駅までは、一キロくらいの距離だったけれど、スーツケースもあるのでタクシーで行くことにした。

 電話ボックスから、あのサングラスのタクシー運転手の川原さんから渡された名刺の番号に電話を掛けると指定時間に迎えに来てくれると気の良い返事が返って来た。

 翌朝、指定した十時半前にアパートのベルが鳴り、川原さんがスーツケースを持って降りてくれた。車に乗り込むと「旅行ですか?」と陽気な声を掛けられ、何故か言いにくかったが山梨に帰ると伝えると残念そうな顔をしてくれた。

 駅に着いた時も川原さんは乗る時と同じようにワザワザ車から降りてスーツケースを降ろしてくれて「また東京に来てタクシーがご利用の時は連絡ください」と言ってもらった。

 お礼を言い、別れ際に「いつもサングラスを掛けているのですか」と聞いてみると「昼間だけですよ」と笑いながら、眩しいのが苦手だと教えてくれた。「じゃあ夜は?」と聞くと「裸眼です」と答えたあと「あぁ」と何かに気が付いた風にサングラスを外して「失礼しました」と言ってまた笑う。

 サングラスを外した川原さんの目は切れ長の山岡の目とは違い、大きく円い優しそうな目だった。

 タクシーを降りて一旦荷物を駅のコインロッカーに入れてから恩田と約束した喫茶店へと向かう。

 久しぶりに夏の日差しが戻って来たような陽気。

 暑いアスファルトの上を重い足取りで、恩田との待ち合わせ場所である喫茶店に向かう。

 てっきり山岡が川原さんに化けていると思っていたのに、見当が外れてショックだった。

 それなら山岡は如何なる手を使って私を監視しているのだろう……物思いにふけって歩いていると、いつの間にか約束の喫茶店を通り過ぎてしまい引き返す。

 約束の時間にはまだ五分ほど早かったけれど店内を覗いてみると、そこにはもう恩田の姿があった。

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