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剣も魔術も使えぬ勇者-無能な僕がやがて英雄に至る物語-  作者: 138ネコ
第3章「魔法大会予選 ‐エルクの秘められた力‐」

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第22話「エルク」

 1分だけ発動させて、しばらく休憩を取る。これを何度か繰り返し『混沌』の扱い方を練習してみた。

 色々試してみた結果、わかった事は身体の強化が凄すぎて、全然制御が出来ない。

 それと10回目に発動が出来なくなった。どうやら僕の魔力切れのようだ。

 1日に発動できる回数は10回くらいか。持続時間次第では回数は多くも少なくもなりそうだけど。

 

 今日はもう練習できそうにないし、休憩のためにその場に座り込む。

 周りを見ると、僕が走ったり飛んだりした場所の地面が抉れていて、勢いあまってぶつかった木が倒れている。

 問題点はまだまだ沢山ある。でも僕は強くなった。強くなれた!

 昨日までの焦っていた気持ちが、頬を撫でる風と共に飛んでいくのを感じる。

 

「しかし、本当に使えるとは思わなかったぞ。正直もっと苦労すると思っておったからな」


 隣に座り込んだ彼女は、少し自慢気だ。まるで自分の教え方が良かったのだと言わんばかりに。

 だが教え方はともかく、彼女が教えてくれなければ、僕はいまだに劣等感に苛まれていただろう。

 僕に強くなる道を教えてくれた。そう考えれば彼女の教え方が良かったと言えなくもない。

 いや、そんな捻くれた考えはやめよう、素直な気持ちを言えば良いんだ。


「イルナちゃんのおかげだよ、本当にありがとう」


 素直にお礼を言って頭を撫でると、イルナちゃんはにかんだような照れ笑いをしている。

 シオンさんはイルナちゃんの隣に座り込み、神妙な顔をしている。


「ところでエルク。一つ聞いて良いか?」


 そう言って、ジーッと僕を見てくる。もしかしてシオンさんも頭を撫でて欲しいのだろうか?

 流石にそれはないか。


「イルナ”ちゃん”というのは、どういう事だ?」


 シオンさんは静かにそう言った。

 彼女からそう呼んでくれと言っていたが、もしかして馴れ馴れしすぎたのだろうか?

 でも友達だから、そう呼んでほしいと言い出したのはイルナちゃんだし。

 しかしそれを言い訳に使うのはダサイな。


「友達なので」


 胸を張って堂々と宣言する。友達だからちゃん付けなのだと。


「うむ。友達じゃ」


「……なるほどな」


 シオンさんは無言になり、何か考えている。 

 ぽつりぽつりと独り言のように喋り出す。


「友達だから、スクールやピーターは君付け、イルナ様にはちゃん付け。アリア達は仲間だから呼び捨てか」


 そして、悲しそうな顔で僕を見ていた。


「シオン”さん”と言う事は、つまり、俺は友達じゃなかったのか?」 


 えっ、そんな事気にしてたの? メンタルどれだけ弱いのよ。

 友達と思ってたのに、相手は友達と思ってないと言われたら確かに凹むけどさぁ。


 しかしこの手のタイプは「うん。友達だよ!」とここで言ってもイマイチ信用してくれない。自分から言わせてる癖に。

 自信をもって言える、安易に「友達だよ」と言えば関係が拗れる、絶対に拗れる。

 なんでわかるかって? ネガティブな思考ばかりする僕だから、ネガティブはお手の物さ。言ってて悲しくなってきた。


 とはいえ、僕としても、シオンさんとは友達で居たいと思うし、ここで変な誤解を持たれたくない。

 じゃあ、どうすればいいか?

 

「えっ、僕はシオンさんを友達だと思っていたのに、シオンさんはそう思ってくれてなかったのですか?」


 そう、こういう時は責任を逆に押し付け返すのが一番さ!

 友達かどうか聞いてるのはシオンさんなのに、僕が「友達じゃない」と言われた側みたいに、ショックを受けた振りをしながら言う。

 彼は訳が分からないだろう、その混乱のどさくさに紛れて適当にごまかす。僕がシオンさんに「僕らは友達ですよね?」と聞いてる立場に変えるんだ。


「えっ、いや、俺は友達だと思っているが……」


「良かった。もしかして僕を友達と思っていないのかと思って、少し不安になりましたよ」


 立場の入れ替え成功だ。

 自分が聞いていたはずなのに、何故か聞かれる立場になっている。

 しかも「友達じゃないの?」と自分が不安に思ってた事を、何故か相手が言ってくる。

 これでもう下手な事は言えない、彼の選択肢は「友達だよ」しかない。

 彼の頭には『???』が大量に浮かんでいるが、笑顔で頷いている。結果オーライと言うやつかな。

 イルナちゃんは、いまだに首を傾げているけど。


「そうそう! さっきの魔法『混沌』って、魔族の極一部にしか知られてないって事は、使い手も相当少なかったのですか?」


 変に突っ込まれる前に、強引に話題を変えよう。


「うむ。使い手は殆ど居ないと聞くな。まともに使えたのも1000年前の魔王らしいが」


「えっ、それって」


「聖魔大戦で、魔王が勇者アンリとの最終決戦の時に使ったとされておる」 


 かつての伝説の戦いで、魔王が使っていた自己強化の魔法という事になるのか。

 確かに、そんなのをおいそれと教えるわけにはいかないよね。僕が使ってもこれだけの効果を発揮するんだし。

 勇者アンリはその魔王によく勝てたな、確か勝った後に力尽きるんだっけ、文字通り命がけだったわけか。


「わかっておると思うが、誰にも教えてはならぬぞ。学園の者が知れば大騒ぎになりかねん」


「うん、わかってるよ」


 その後は、他愛のない会話で盛り上がった。

 しばらく話をして、日が沈みかけた頃に街に帰った。



 ☆ ☆ ☆



 次の日、二日酔いコンビは復活していた。

 何事も無かったかのように、いつも通り学園に通う。


「おはよう」


「来たか」


 挨拶をしながらドアを開けると、緊張した面持ちのジル先生が待ち受けていた。

 そのまま真っ直ぐ僕らの前まで歩いてきて、そして頭を下げた。


「もっと早くに言いに来るべきだったな。先日の護衛依頼の時にした不快にさせる言動、本当に申し訳ない」


 真っ先にアリアとリンにかつての非礼を詫びていた。謝ろうとは思っていたけど、中々タイミングがなかったそうだ。

 いや、そんなのいつでも謝れただろうと思うけど、魔術師至上主義の学園において、魔術師としての実力が未熟な2人に対し下手に謝罪をすれば色々な勢力から反感を買い彼女達に危害が行く可能性もあり中々謝りに行くことが出来なかったそうだ。

 アリアやサラ達の活躍のおかげで、そういった圧力も弱くなってきたので、正式に謝罪に来たとか。

 ちなみにサラには、先日の祝勝会の席で既に謝罪を済ませていたようだ。


 アリアもリンも謝罪を受け入れた。というか日が経ちすぎてそこまで気にしてないといった感じか。

 謝罪を受け入れてもらえた事で、ジル先生はホッとした様子だ。


「もし困った事があれば頼ってくれ」


 そう言って、ジル先生は教室を後にした。

 


 ☆ ☆ ☆



 放課後。サラとフルフルさんは魔術の研究に、アリア、リン、シオンさんは近所の子供たちと勇者ごっこをしながら、学園の生徒に剣を教えたりしている。最近は子供たちも一緒に剣を学んでいるのだとか。

 僕はイルナちゃんと『混沌』の特訓だ。


 『混沌』は少しづつではあるけど、調整できるようにはなってきた。それでも自分の思った通りの場所まで移動するだけでも、相当気を使わなければならないが。

 そろそろ腕試しをしてみたいけど、そういうときに限ってモンスターは現れてくれない。

 


 ☆ ☆ ☆



 特訓を始めて5日目。


「エルクよ。これを持っていくが良い」


 特訓を終えると、イルナちゃんに何やら布のようなものを渡された。

 赤い布と、黄色い布。

 赤い布はマントで、黄色い布はモヒカンのついたマスクだった。マスクの額には『ゆ』と刺繍されていてカッコ悪い。

 イルナちゃんは、物凄いドヤ顔を決めている。もしかしてこれイルナちゃんのセンスか?


「そろそろ実力を試してみたいと言う頃だと思ってな、シオンと一緒に変装道具を作っておいたのじゃ」


 変装? なんのために?


「それを着ると言うなら、ヴェル魔法大会の予選に出ても良いぞ。もちろん正体はバレないようにではあるが」


 急に僕が強くなれば周りに怪しまれる。修行したと言っても流石に無理があるレベルだ。

 なので正体を隠すなら腕試しに大会に出ても良いよ、と彼女なりに気を使ってくれているのだろう。


 苦笑いを浮かべながら衣装を見ていると、ふとイルナちゃんがこちらをジーッと見てる事に気づく、今ここで僕に着てほしいという事か。

 マントを羽織り、マスクを被る。


「似合う?」


 軽くポーズを決める。

 これで少しは彼女の期待に応えれただろうか?


「ブハハハハ! なんじゃそれは!」


 イルナちゃんは指を指して爆笑していた。酷くない?


 こうして僕は、ヴェル魔法大会の予選に参加が出来るようになった。

いつも『剣も魔術も使えぬ勇者 - 無職の僕がいかにして世界を救ったか -』を読んでいただき、本当にありがとうございます。

次回から4章になります。


これからも続けていけるように、頑張って更新をしようと思います。

アリア、サラ、リンのイラストを活動日報にありますので、興味がある方はそちらを見ていただけると幸いです。

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