第3話「ありがたみ」
出発の朝。
屋敷の外までティラさんが見送りに来てくれた。
「それじゃあサラ、気を付けて行ってくるんだよ」
「はい」
「それとエルク君。サラを宜しく頼む」
「勿論です」
「良いかい。くれぐれも宜しく頼むよ」
「ちょっとお父様、恥ずかしいからやめてください」
「はっはっは。冗談だ」
冗談という割には、今目が血走ってましたよね?
冒険者として以外の意味で宜しく言われた気がするけど、あえて気づかないふりだ。
下手につつけば外堀を埋めてきそうだし。
「街の外に馬車を手配しておいた。もし危なくなったらすぐに帰ってくるんだぞ。違約金が大変ならいくらでも私が支払うし、なんなら……」
ティラさんの言葉を、少し年老いたの獣人の執事が遮る。
「旦那様、あまり過保護が過ぎますと、またサラ様に怒られてしまいますよ」
「むっ、そうだな。困った事があったら私に頼ってくれ。気を付けてな」
親だから過保護になってしまう気持ちは、分からなくはない。
傍から見れば良い親だと思うけど、やられてる側は恥ずかしくてたまらないのだろう。
実際にサラは「もう」と言いながら顔を赤らめているし。
僕も皆の前で父さんに同じ事をされたら恥ずかしくて、同じ対応としてしまうだろう。
「優しくて良いお父さん」
「そうだよ。サラちゃん素直になりなよ」
「あーもう、さっさと行くわよ」
顔を赤らめたサラがズンズンと先を歩いていく。
普段のサラならもうちょっと言い返している所だ。
だけど、アリアもフレイヤも親が居ない。なので変に言い返せないのだ。
自分は親が居るというのは幸せだけど、彼女達に後ろめたさを感じるのだろう。
僕も同じだから気持ちは分かる。
☆ ☆ ☆
街の外にはやや豪華な馬車が2台並んでいた。
サイズも大き目で、1台に僕ら全員が乗り込んでも余裕がありそうだ。
御者もいるようで、父さん達が何やら御者さん達と話している姿が見える。
「おはよう父さん」
「おぉ、エルクか。今ちょうど目的地について話していた所だ」
地図を広げ、どのルートで行くかを話し合っているようだ。
僕らはというと、道が分かるわけでもないので、少し離れて邪魔にならない場所に移った。
「よぉ。お前ぇさんの父ちゃんが良い馬車手配してくれたおかげで、良い旅が出来そうだぜ」
「我々の分まで手配して頂き、感謝します」
ダールさんがチャラーさんの頭を押さえて、一緒に頭を下げた。
「別に良いわよ。私が何かしたわけじゃないし」
「へっへっへ。代わりといっちゃなんだが、今回の依頼で気になる事があるなら今の内に答えるぜ」
「そうね。エルク、何かある?」
「そうですね。ダンジョンというとモンスターは何が出てきますか?」
ダンジョンなのだから、モンスターは出てくるだろう。
なのにどんなモンスターが出てくるのか、まだ聞いていなかった。
「いや、モンスターはいねぇはずだ。もしモンスターが居るんだったら隠れるのに使えねぇし、さっさと潰してるはずだ」
「なるほど。となると事件を起こして逃亡した人達が居る位ですか?」
「そうだな。ただ罠とかはあるはずだ。危険度が高いわけじゃねぇが、万が一があるからモンスターが出ねぇと緩むんじゃねぇぞ」
「チャラーの言う通りモンスターは出ないだろう。だが人間と戦闘になる可能性はある。気を引き締めるんだぞ」
対人戦か、モンスターと違い知性がある。
罠や不意打ちは当然覚悟しておいた方が良いだろう。
「どうやら話がついたみてぇだな。それじゃ早速出発するか」
僕らは馬車に乗り込んだ。
ガタゴト音を立てて走り出した馬車だが、思ったよりも揺れが少ない。
サラのお父さんが手配してくれただけはある。
「エルク君エルク君。また皆と冒険だね!」
「そうだね。サラとリンが居た方がやっぱり安心するね」
「ごめんなさいです」
「あー違う違う、攻めてるんじゃないよ。ほら、リンの『気配察知』があるとやっぱり安心するなって思ってさ」
「そうだね。エルクいつも寝不足になりながら夜の哨戒してた」
「モンスターが多い時は、サラちゃんみたいに無詠唱でババババーンって出来ないからどの順番で倒すとかエルク君が指揮してたんだよ」
「でも、本来はそれが普通なんだろうけどね」
旅の様子がどうだったとか、他愛もない話で僕らは盛り上がった。
フレイヤに「やっぱりサラちゃんが居ると頼りになる」と褒められて、気を良くしたサラが馬車の中から次々と魔法を打ち放ちモンスターを倒していく。
リンの『気配察知』でモンスターを見つけ、サラとフレイヤが遠距離から魔法で速攻する。
バールまでの苦労は何だったんだろうかと思うほどに楽過ぎて、思わず笑ってしまうほどだった。
特に苦労する事なく、僕らは目的地であるエッダの領地へたどり着いた。
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