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ロストアイ  作者: たみえ
学園生活一年目~闘交会騒動前篇~
98/106

詰みたくなければご用心@その2

長らく更新出来ず申し訳ございませんでした。

それでは続きをどうぞ。


 『領域(エリア)』『接続(コネクト)』『身体強化(ポテンシャル)』――それぞれを個のスキルとして見た場合、ある程度対処が容易なスキルではある。ここである程度と言ってしまうのは例の如く使い手によって一気に面倒なスキルになることに変わりないからだ。

 しかし、この三つを同時に発動している状況はかなり厄介であると言えた。まず、『領域(エリア)』は一定の範囲内を空間ごと把握出来るといった感知、探知系スキルだ。術者の技量にもよるがその距離に制限は無い。

 ただ制限が無いと言っても、あくまで理論上である。実際、私は普段から数十キロ位しか探知できないし、より詳細なことを感知する場合もっと範囲は狭まる。単純に処理能力が追い付かないから仕方ないけれど……そういえば聞いたこと無いけどもしかしたら、もしかしたらママは地球ごと探知出来たりするかもしれない。

 ……いや、さすがに無いか……えっ、無いよね?


 ――ドガーンッ! ゴオオオオオッッ!


「くっ……!」


 容赦ねぇ……! ちょっとお休みしませんかっ!?


 ――ドンッ!


「うおうっ!?」


 目の前の岩山上から大きな岩の群れが転がり落ちてくる。おそらく私の足に追いつけないからと足止めの為に壊したと思われる。なるほど、あの変な音はそういうことか。


「ざんねんっ!」


 ころころ落ちてくる巨岩を足場に利用してむしろ相手を引き離しにかかる。すぐそこの後方で少し驚いたように目を見開いたクールが見えた……て近っ!?

 余裕こいてる場合じゃなかった。今のは止まってたらかなり危なかったとみえる。なんかデジャブ……ヨドさん元気かなぁ。


「ふぅ……」


 距離が少し開いたので、改めて今の状況に思考を走らせる。

 ――『領域(エリア)』は厄介なスキルではあるけど、術者依存な部分がほとんどなので今回スキルを使用しているだろうラオ姐の弟くん程度の技量じゃあ高が知れる。単体なら弟即斬、で終了していただろう程度。

 そしてクールについても技量の面で言って無問題だ。確かにクールが『身体強化(ポテンシャル)』を使えるということに多少驚きはしたし、実際開幕の一撃で動揺してしまったせいで今の状況にある訳だけど、そっちは大した問題ではない。

 たとえクールが『身体強化(ポテンシャル)』を使えるといっても、ママや私には劣る。……デボラとはいい勝負しそうなので弱いというわけではないが、単体で向かい合ったところで私の勝ちに揺るぎは無い。たとえジミー先輩がいなくとも。では何故逃げ回っているかって?

 問題なのはここからなわけで……何故私が単体では格上にも拘わらず、現状逃げ回らないといけないのかというと、それは『接続(コネクト)』というスキルの特性による副産物が厄介この上ないからである。

 もともとの『接続(コネクト)』自体はアメニティーの中でも下から数えたほうが早い一般的なスキルだ。分かりやすく言えば、ものとものをくっつける、という某錬金術士みたいなことだ。このものについては何でも有りだ。

 この世界で一般的に使われるのはうささんみたいなAI同士のやりとりが有名だろう。情報を共有すると言ったほうがむしろ分かりやすいとも思うが。

 ここまで言えば分かってきたと思うが現在、クールとリンクは『接続(コネクト)』を利用して色々と共有している訳だ。そしてその色々にリンクの『領域(エリア)』がクールに共有され、クールの『身体強化(ポテンシャル)』がリンクに共有されてるわけだ。

 さらに分かりやすい現状を有体に言ってしまえばつまり、いくら私でもうささんをバックに背負ったデボラ二体の相手はキツイということである。

 ……キツイ、という表現が出来るのは私だからこそで……今までこのコンボでクールたちに倒されただろう相手はご愁傷様……としか言えない凶悪なコンボなんだけどねっ!


「……さてと。まだ起きそうにないな、こりゃ」


 すぐに移動できるように抱えているジミー先輩を横目に周囲の警戒を怠らないようにもする。相手のパワーアップした力量が分かってきて、段々と私単体であっても実は倒せそうではあるということに気付いたが、それでも油断は出来ない。

 それに倒せそうではあるが確実に仕留めきれるとは限らないギリギリであるのは変わらない。どのみち安全策を取るならジミー先輩に起きて貰わないことには始まらない。

 開始から未だ数分も経っていないなか、はやく起きてくれないかなあと早速思考が緩むのであった――。


          ◇◆◇◆◇


 ――ああ、アレを使うの。


 目下で先程開始された試合をぼーっと観戦していたらすぐに気付いた。しかし気付いたからといってそれを許せるかと言えば否、と答えたい。すぐさま事態の展開を予測出来、眉を少し顰める。そのまま緩い速度で目下の試合から視線を外し、反対側の観客席にいた古い知人たちに軽く視線を向けた。


『『――っ!?』』


 こちらから視線を向けたのが予想外だったのか、それとも別の理由か。とにかくこちらの意図を理解するには理解したようで、驚いたような気配をすぐさま引っ込めたかと思うと呆れたようにため息を吐かれた。その態度に思うところが無いわけではなかったが、今はそれどころではない。

 ――いつ、抑えている自らの理性が吹っ飛び暴れ出すか分かったものではない。そのことを理解しているのか、『ハイハイ、了解』とそれぞれ口パクと軽い手振りで応えてくれる。その態度に先程のように思うところが無いわけではない。

 実際、普段であれば何かしら軽い制裁を加えていたかもしれないが……今はそれより目の前の事に全ての神経が逆なでされているかのように全意識が集中してしまっていてそれどころではない。

 開始から数分も経っていないにも関わらず、周囲ではそんなやり取りがされている事に気付いた者は誰一人として存在しない。目下の派手な破壊から始まった試合に興奮して注意散漫になっているということもあるが、それ以前に今日の観客にその者たち以上の実力者が居ないというのも事実であった。……いや、上から数えたほうが圧倒的に早い、世界屈指の実力者たち相手に異変に気付く者が居れば怪しいことこの上ないのでそれはそれとして色々な意味で収穫になっていたかもしれないが。

 それが居ないことを確認し、古い知人たちが誰にも気づかれずに席を後にしたのを目にした後、自らも席を立つ。時間にして一分も掛かっていないやり取りであったが、そろそろ時間だった。

 実際、目下の試合では既に決着になりそうな雰囲気ですらあった。しかしその者たちにとっての本番はそこからであった。いや、若干数名については命がけとも言えたが。とにかく時間が無いのですぐさま行動に移すことにする。


「……あれ? マリア様……?」


 行動に移す瞬間、人としての域をとうに超えてしまった鋭い聴覚が、かなり距離が開いたはずの後方から先程まで横に座っていた少女の自らを探す疑問の声を捉えた。しかしそれが聞こえてきたものの時間が無いのであっさりと無視をする。


「――『強制終了(シャットダウン)』」


 ――刹那にして、近場で煩いほど反響し聞こえていた全ての音が世界から奪い去られる。


「…………」


 それを確認し、すぐさま異変を生じ始めた目的の舞台へ舞い降りるのであった――。


          ◇◆◇◆◇


 その日はその者にとって、人生で三度目の恐怖を強いられる日であった。

 一度目は恐れ多くも自らの力に酔いしれ、傲慢になっていた鼻をこの学園に入学した当初にあっさりとへし折られた時だった。

 そして二度目はこの学園で実力者として真面目に鍛錬、成長して力を付けた後、それでもなおこの世のものとは思えない化け物がいると知った時だった。


 ――そして現在が三度目だ。


 それも目の前で一見隙だらけにも拘らず実際には一切の隙が見いだせない見た目が可憐であるのに全く底の見えない少女が相手であった。

 己がこの学園に入学した当初のように、何も知らずに相対していれば確実に手も足も出せずに終わっているだろう、それほどの強者。

 自らの強さにはかなりの自信があったその者も知らず知らずのうちに生唾を嚥下し、知らず額に汗するほどには強敵であった。


「……先輩? どうかしましたか?」

「……いや」


 普段に無い雰囲気に気付いたのか、不思議そうに問いかけてくる自らのペアであり後輩の男に短く答えたその者、クールは改めて相対するペアに視線を向ける。その視線に気づいたのか偶然か、見た目は美しく可憐な少女であるアイと視線がかち合う。

 向こうも向こうで視線を向けられていることに不思議そうな表情を見せており、とてもではないが少女の横で警戒と緊張に強張っているペアの者とは大違いの豪傑な態度であった。

 その自信と強さに満ちた態度を裏付けるだけのものがあることが分かるだけに、今日の試合ではお手柔らかに、胸を借りる、といった修行に近い想いで目礼を送る。目礼したことでさらに不思議そうな表情をされたものの、それで満足したクールはその後を気にすることなく自らのペアに向き直って告げる。


「――相手は強敵だ。開始早々に決めなければ負ける」

「――――!」


 今までも真剣に試合に臨んで手加減等も無かったクールではあったが、そんなクールであったからこそ、ここまで言及するほどの相手であるとリンクが理解するには充分であった。だからこそ、――


「――全力で行きます」


 今までの試合でもそうであったし、普段であればリスクを考えて全力を出すことは無かったが、クールがここまで言うんだと、リンクは気合いを入れる意味も込めてそう告げる。

 それにクールが神妙な顔つきで頷くのと、観客席側で行われていたそれぞれのペアの紹介が終わるのはほぼ同時であった。そしてそれが意味するのは試合がすぐにでも開始出来るということでもあり、実際に周囲の景色はタイミングバッチリで一気に様変わりする。


「――行くぞ」

「はい!」


 そして景色が一変するのとほぼ同時に頭の中に試合開始の合図がなされる。相手が動く前にと、様子見なのか動きの無い相手を気にせずに早々にスキルを発動させる。


「――『領域(エリア)』『接続(コネクト)』」

「――『身体強化(ポテンシャル)』」

「はああ?!」


 呟くように補強の意味で声に出したスキル名の後に、数十メートル離れている向こう側から驚きに満ちた少女、アイの叫びが聞こえてきた。その様子からしっかりと聞かれたらしいことを悟り、相手に情報を与えてしまったことを遅ればせながら後悔する。

 しかしどのみち強力な発動の為には口に出すしか方法が無いのも事実であるため、今は先手必勝とばかりに拳を構えた。どうやって聞き取ったかは不明だが、それすなわちあれほどの距離であっても音などですぐさま対応できるということも意味している。

 すぐさまそれに思い至ると同時に、最初に思い描いていた作戦をすぐさま変更。スキルで共有している情報としてリンクに作戦変更を知らせる。横で作戦変更に多少動揺しているリンクの負担を確認しながらも今は一撃でもいいから当たれとばかりに強烈な拳を放つ。

 それを見た向こうの反応も素早かったものの、何かしらに驚いていたアイの意識を逸らせたおかげか、一瞬とはいえそんなアイに意識を奪われたペアにダメージを与えることが出来た。

 しかしそれだけで終わらせられるほど甘い相手ではないことは知っていたため、すぐさま追撃のために構えながら一歩を踏み出す。その一歩はたった一踏みで数十メートルあった距離を縮めるには充分であったものの、相手のアイが状況を判断し、危なげなくぺアを抱え、その場から離脱するのに充分な時間でもあった。

 それでも少しでもその足を遅らせるべく、何度も何度も何度も何度も何度も何度も――それこそ妨害の限りを尽くして相手の行動を鈍らせる。

 一瞬でも追撃をやめればもう勝ち目はないと、それを開幕のやり取りで理解できたからこそ、たとえ己の身体から少しづつ悲鳴が上がってきても、ペアのリンクにかなりの負担が掛かっていると理解しても、クールが追撃を止めない理由としては些細な事であった。しかし、長丁場になればなるほど若干でしか優勢になれない状況の天秤が反対に傾くのにそう手間は取られないのも事実。

 その焦りからか、それとも勘か……クールにも分からなかったが、脳裏に浮かぶ周辺の立体地図により、ちょうど良さげに配置されている岩石地帯に相手が逃げ込んだことを共有しているスキルで察知し、仕掛けに掛かる。

 最高なのは身動きできないように一瞬でもいいから閉じ込めることだが、最悪相手の足を鈍らせるだけでも充分であると判断し、強烈な拳を相手から少しズラして放つ。

 周囲に先程から続く追撃音と比べ、一際大きい破壊音がとどろく。崩れる様に放った拳により、相手の頭上に巨岩が降り注ぐ。だが、やはりというべきか、一瞬降ってくる巨岩に足を止めたものの、すぐさま回避される。

 しかしそこまでは予測できたため、出来るだけ距離を詰めるために足を動かすクールだったが……やっと距離が近付くと思ったのもつかの間、それを察知されたのか、それとも関係ないのか。

 クールには到底理解出来なかったが、密接に折り重なるように次々と降ってくる巨岩をものともせず、否、むしろ利用しながらその隙間をしなやかに、そして軽やかに足場として有効活用されることは予想外であった。

 そして余裕な表情をでこちらを一瞥した相手の視線に、唖然としていた意識を取り戻す。だが、相手の足を止めるはずが、自らの足を遅らせることになったことに気付いた時には既に遅く、むしろかなりの距離が開いてしまった。

 ここで無理に追撃しようにもこちらが消耗するだけで相手が有利になるばかりと判断したクールはすぐさまその場を後にし、迂回することを決断する。その間にも大量の巨岩が降り注いでいるのを見ればその判断はかなり的確といえた。アイもそれに気付き面倒な、とため息つきたくなるほどには。


「未熟……」


 普段の冷静さを焦燥さが上回り、このような結果になってしまったことを未熟の一言で小さく呟くように吐き捨てると、今は前進するのみであると、クールは脳裏に浮かぶ立体地図を頼りに相手の位置への最短距離を突き進む。

 そして若干の開きがあるものの普通であれば驚異的なスピードでいつの間にか足を止めている相手に追いつくと、すぐさま拳を叩き込む。が、――


「――っ!?」


 声にならない声を上げ、本能に赴くままその場から大きく飛び退く。そして叩き付ける前だった拳が、つい今しがた思い出したかのように腫れ始めたと感覚で確認。

 腫れの原因をしっかり確認すべく前を向くと、その場から一歩も動かず、一見すると空を虚ろに見ているだけの、それこそただ静かに佇んでいるだけに見える少女が居た。

 一定の基準に満たない者が見れば、か弱く儚げな……見れば見るほど戦いとは無縁そうな美しく小さな少女が隙だらけで棒立ちしているようにしか見えないだろう。

 ……が、しかし。クールは曲がりなりにも学園最強とも謳われており、一定の基準に満たないような一般人並みではない。

 クールが感じた雰囲気は強者の気配を纏っていた試合前とも明らかに隔絶したさらに格上の気を纏っており、存在値という値があればハッキリと格差が現れただろうと思えた気であった。

 そう、圧倒的な個としての格差をまざまざと放っており、禍々しさと神聖さを併せ持っているように感じられる雰囲気である。……自分ではまるで相手にならないと、クールは相手の様子だけでそこまで判断した。

 そしてそれが何を意味するかを同時に悟り、すぐさまその場を後にする。実際にはクールがその場に到着してから判断に数秒と掛かっていなかったが、その刹那の時間でさえ行動に移すのが遅いと言わざるをえなかった。


「――――」


 ――幸か不幸か、その場を全速力で離れんとしたクールが追撃されることは無かった。しかしだからこそ安心できないと、クールはこれ幸いにとい一旦態勢を立て直すべく相手から距離を取る。


「ぐっ……!」


 そしてある程度距離を取ったと思った瞬間、――それが少しの気の緩みとなってしまったのか、まるで見計らったかのように数瞬前までかなり距離が開いていたはずの相手が静かに目の前にいることに気付く。

 ――ヒヤリ、と背筋に氷柱を差し込まれたような感覚を認識する前に。ギュギュっ、と心臓が縮みあがるような驚愕を表に出す前に。カンカン、と逃走本能が警鐘を鳴らそうとする前に……ニヤリ、と。

 距離を取る前にはぼんやりとして焦点の合っていなかったはずの目線がしっかりとこちらを捉えていた。見間違いようも無く真っ直ぐクールに向けられる、その少女に似つかわしくない凍てつくような荒々しい複雑な笑みをたしかに、……たしかにクールは見たのだった。

今回は主人公視点ほぼない感じでしたね。

これからもどんどん他視点を入れていきたいと思います。

そしてここから先は割とシリアス多めなので、集中力低い作者は地獄の執筆作業になりそうです。

ああ、さらに更新頻度が落ちそうなのがなんとも……。

とにもかくにも、書かないことには進まない!

というわけで次回もぜひお楽しみに!

P.S.

客観的にも主観的にもまだこれといった山場ではないですが、感想、評価いただけると嬉しいです。

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