詰みたくなければご用心
PCの機嫌が悪いので、しばらく投稿頻度下がると思います。なるべく早くPCの機嫌が直ることを共に祈ってください(吐血)
「――マズい、詰んだ。軽く死ねる」
近くて遠い一定距離を敵から保ち、滴る汗を拭くことも出来ずに思わず呟いてしまっていた。抱える腕には既に瀕死状態のジミー先輩。回復魔法でなんとか場を持たせたけど、衝撃が強く未だに気絶状態から目を覚まさないジミー先輩。このまま継続して先輩を抱えたままでは移動にいつまで私の体力が持つか分からない。
ただの試合だし本来であればもう見捨てるべきだろうけど、残念ながらジミー先輩を見捨てたところで容易く勝てるビジョンが思い浮かばない。敵の強さを侮ってたのもあるけど、自分の力を過信し過ぎていた。
……そうだよ。周囲が人間辞めたような人しか居なかったからすっかり忘れてた。個での強さも勿論だけど、人間って協力プレイのほうが恐ろしい力を発揮できることも多いんだってことを。……実に相性の悪い相手と対戦することになってしまったな。
気絶しながらも額に汗が滲むジミー先輩。しっかり先輩を庇い、回復魔法を掛けたにも関わらずこの衝撃だ。なんとしてもあの作戦を用いるしかない。完全に舐めてた。今度は本気出す。
……先輩の目が覚めたらな!
「……チッ!」
――ドガーン!!
襲い来る猛威から必死で距離を稼ぎながらも割と涙目の本気で早く目を覚ましてくれないだろうかと、手に汗握ってジミー先輩の目覚めを待って逃げ続けることしか出来なかった――。
◇◆◇◆◇
ファルさんとニマさんの衝撃訪問から数日。バカになりそうな試合数を昼夜問わず消化していき、ついに私たちは上位戦へ突入した。これからの試合、ベスト十六ぺアが出揃ったので事実上の学園最強決定戦だ。
既に出来る限り目立ちたくないという儚い望みはママが実況席に座った時に捨て去った。後はいかにママに手抜きと判断されないかに全てが掛かっているといっても過言では無い。
本気でやってもダメ。手を抜きすぎてもダメ。実は闘交会が始まる前にママより「協調性を覚えるにはまず、加減を覚えないといけないわね~?」と言われているのだ。間違っても調子に乗って幼稚な行動をとってはならない。文字通り鉄拳制裁が前触れなく降ってくる。……ヨドさん元気かなぁ。
『――皆さん準備は良いですか? 私は数日前からドキドキが止まりませんっ! 熱い思いを持っている皆さんも同じことでしょう。今までのどの試合も注目度が高く、興奮の嵐でしたが断言しましょう、――この試合が今までで最も注目度が高く、最高潮に盛り上がれるということをッ!』
「「「――おおおおおおオオオオオッッ!!」」」
「「…………」」
相変わらず満員御礼な客席からは暑苦しい声援が飛んでくる。特にいつの間にか結成されていた我がファンクラブという変人たち一部地域の熱気が凄まじい。なにせ応援に気合入れ過ぎて暑苦しくも肩組んでこちらへ叫んでいる。せめて離れろ。ムサイ。
『それでは紹介していきましょう。まずは皆さん大好き、アイ、ジミーペアから参りましょう!』
「「「うおおおおおおおおお!!」」」
「……ジミー先輩人気ですねー」
「……君に言われたくないな」
「「……ハハハ!」」
お互いにしょうもない擦り付け合いを行い空笑いする。私はそれなりに追っかけを撒くことが出来ていたので精神ダメージはそれほどでもないけど、時間と体力の無駄遣いで疲れたのである意味ダメージを受けている。
逆にジミー先輩は逃げ切れないと踏んで真向から対処していたので体力より精神ダメージが凄かったらしい。お互いにプラスマイナスゼロだな。
『アイ選手は前回、凄まじい高魔法スキル合戦を繰り広げられた記憶も新しいでしょう。私は未だ、あの一瞬に何が起こったのか、まったくもって理解が追い付きません! さすがはマリア様に直接お声を掛けられるお方! 体術のみならず魔法ですらもぽんぽん使いこなすさまは見ていて気持ちがいい! 今回は我々にどのような興奮を届けてくれるのか、私既に興奮が収まりませんっ……!』
既にデリバリー興奮されてる件。もう届いてるみたいなので帰っていいですかね。あ、だめですか、そうですか……。
ジミー先輩にそんな感じで目配せして首を横に振られたため肩を竦めた。ジミー先輩とは以心伝心、というよりもはやジミー先輩の察し能力が高すぎて何も言わずとも伝わってるので誰でも以心伝心な件。
『そしてそして、アイ選手が局所で目立つなか、さりげない粘り強さを見せ対抗している、さすがあのフェルナンデス家と言わざるを得ないジミー選手! 地味なため派手に目立ってはいませんが、その手数、その戦略、その技術力、応用力にはかの魔導師協会に所属するプロも舌を巻くと言うほどです! もはやこの二人が組んでいること自体がズルいと言いたくなってしまいます! ズルい!』
チラッとジミー先輩を見上げてみると、苦虫を百匹は噛み潰したみたいな表情をなさっている。溜息をついたところで目が合ったので、さっきのお返しで首を横に振った上、人差し指をちっちっちっと披露してみせる。さらに苦い表情になったので伝わったと思われる。
『――そんなズルいペアに対するはこの二人。こちらもこちらでズルいと言いたくなるペアになっていますね! ちくしょう!』
お、また私情挟みだしたぞ。最近実況荒ぶってんなあ……。
『初戦より一撃必殺! どんな特殊な戦略をもってしても一撃! まるで理不尽! これしか言いようがありません……! 手も足も出すことが出来ない選手たちを量産しました――クール、リンクペアです!』
「……なんだそれ」
急に大雑把な紹介になったぞ。一撃で終わらせてるっていうのは分かったけどね、全然参考にならないよ。今までもそうだけど、さりげなく私たちに不利な情報しか出してない? 気のせい?
「――あの二人のうち、片方は……クール・ビズ。現在、この学園最強と言われている強者だ」
私の呟きに反応して冷汗を掻いたジミー先輩が教えてくれる。それは貴重な情報である。続いて、
「――そして、もう一人はリンク・レオナード。ラオネの弟だよ」
「え!」
――み、みえねえ……。
派手なラオ姐に比べいかにも爽やかで控えめな見た目だ。……言い換えよう。なよなよしい草食系男子だ。正直似てない。この世界の家族関係はいったいどうなってるのか。似ていないやつらばっかりでこんがらがる。――ん?
「……ラオ姐の弟ってことは貴族ですよね?」
「そうだけど?」
「なんか、名前短くないですか?」
「…………」
ジミー先輩がコイツマジか……って表情で見てくる。え、そんなに変なこといいました?!
「……貴族の階級は生まれ持っているわけではないよ」
「そうなんですか……?」
「たとえ同じ家名であっても貴族社会においては貴族位階が全ての力関係になるんだ。家名はただの付属でしかない。血統という付加価値として、ね」
「へー。じゃあ兄弟間でも力関係はハッキリしてるんですか?」
「……そういうことになるね」
ひぇ~、貴族めんどくさっ。アレコレと醜い争いがありそう。そういうのは苦手だ。……よかった、変な称号とか付いて貴族じゃなくて……あ、変な称号ついてなくてもあんま変わらない家庭環境だったわ。むしろ割増しで貴族よりめんどくさい環境だった……。
「まあ、正直あんまり興味ないので、いいですけど」
「…………」
ジミー先輩が物凄くシラケた視線を送ってくる。その電波を受信しながらも知らんぷりする。だって、私の家庭環境よりはきっとマシよ。知ったところで今なら鼻で笑えそうだ。
「――ハァ。とにかく、あの二人が組んでいるのは厄介だ」
「やっかい?」
切り替えるように真面目な顔になってジミー先輩が前を見据えて告げる。こうして向かい合っているうちはそれほど強者としての威圧感はない。むしろ不思議なくらいに勝てるとしか思えない力量しか感じない。
「なにせ、レオナード家は広範囲スキルが得意な家系だからね。クールの得意とする近接戦闘と合わさると厄介この上ない。開始早々に出遅れたほうが負けると思うよ」
「……そうですかね」
やっぱり、ジミー先輩が言うほどの脅威は感じない。が、そこまで言うくらいならと再度二人を観察する。クールもリンクも特待生。白服の生徒ではない。それだけでそこそこ強いのは分かる。だがそれだけ。私にとっては取るに足らない相手には違いない。
「とにかく、油断してはいけいないよ」
「はーい」
「…………」
ダメだコイツ……と、またしても呆れた視線を受信する。そこでふと、視線を感じたので目線を前に直すと、クールとかいうのと目が合った。そして私と視線がかち合うと無言で目礼された。とても静かな目だ。
……よろしく、って意味だと思うけど……私にだけ目礼する意味が分からん。まさかの知り合いだったか……?
「――そろそろだね」
「あ、はい」
はてなマークを浮かべているとジミー先輩に言われる。気になるけどひとまず目の前の試合に集中だ。変わりゆく周囲の景色を眺めて気を引き締める。今回は岩山立ち込める岩石地帯のようで、カラッカラな景色は見てるだけで喉が渇く。そして頭に試合開始の合図が――
「――『領域』『接続』」
「――『身体強化』」
「はああ?!」
――ドッガーン!
目前にあったはずの岩石が脆く刹那に砕け散っていく。もはや岩石地帯の岩石が石ころになり替わる。色んな意味で信じられない出来事に思考が一瞬停止した――
「――ぐあああああ……ッッ!!」
「やっば……!」
油断した……! 隙を見せすぎた。飛び散ってくる元岩石の、大きな欠片の直撃を受けたジミー先輩が横でゆっくりと倒れていく。致命傷は受けてないけど、右半身のほとんどを持ってかれており、頭に掠ったせいで意識が飛んでしまったようだ。
ただちに回復しないとこのまま退場になってしまう。高速回転する思考を終わらせると追撃が来る前にジミー先輩を抱えてすぐさまその場を離脱する。直後、追撃だと思われる圧空が到達した。
――危なかった。その場にとどまっていれば身動き出来ずさらなる追撃で即試合終了だった。圧空の後方でさらに突撃してくる構えのクールが見えて唾をごくりと嚥下した。
「『再生治癒』!」
「ごほぁっ!」
息を吹き返した! せーふ!
先程の岩石の飛び散りに紛れ、手近な岩場へ潜む。そしてなんとかジミー先輩の退場を回復魔法で防ぎ一安心したところで、後方から驚異的なスピードで迷いなく私たちが隠れている岩場へ突進してくる気配を感じた。
「――――ッ!」
――ドガーン!
なんでっ!?
「…………」
気配を上手く隠していたはずなのに速攻で見つかってしまった。おかしい。混乱する思考のまま無言で突進してきた相手と視線がかち合う。先程とは違って燃えるように瞳の奥が輝いている。……そして唐突にあることに気付く。
――『接続』か!
混乱する思考とは別に高速に分離して行われていたもう一つの思考が全ての疑問の回答を教えてくれた。それを瞬時に理解した私はとにかく相手から距離を取るべく無理やり移動を開始した。
後ろからは追撃の音が鳴りやまない。いくら広いフィールドとはいえ全ての岩石を潰されてしまうと双方にとってマズイことになるのでそれなりに残るだろうことには思い至った。が、事態はむしろ私たちにとって不利であることに変わりはない。
最初の油断が痛い。あそこで油断しなければカウンターみたいに速攻で勝てたかもしれないのに……と考えて忘れることにする。もはやそれどころではない。そして打開策を高速思考していく中であることを悟り、思わず呟いていた――。
「――マズい、詰んだ。軽く死ねる」
もう今年も夏で暑いからってキャラ名が決まったわけじゃないですよ。ええ。
なにせ決めたのは去年の猛暑日ですから。
というわけで次回、この続きになります。お楽しみに。




