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ロストアイ  作者: たみえ
学園生活一年目~闘交会騒動前篇~
95/106

双子、ではありません@その3


「先輩!――」


 荒れ狂う巨大な魔法がジミー先輩を呑み込む寸前、出し惜しみしても仕方がないので一瞬だけ身体強化を発動してジミー先輩ごと魔法の軌道から大幅に飛び退く。

 緊急事態の為、多少手荒な方法になってしまったことは許してほしい。倒れ込んだものの、直ぐに立ち上がって避けた魔法の残留を確認した。

 先程までジミー先輩が立っていた場所が輝く塵となって消えている。とんでもない威力がうかがい知れた。


「……なんとか避けきれました、ね」

「ああ――っ!」

「先輩?」


 ――庇いきれなかったのか。

 隠すようにジミー先輩が右足を抱えていた。……油断しすぎたな。私のミスで誠に面目ない。早速光の粒子になりかけている。まずいな。これ以上は無理そうかも。


「あー、先輩」

「――分かってるよ。後は任せた」

「――らじゃー」


 攻守交代、ってことですね。ああでもしかし、動けないジミー先輩を放置するわけにもいかないしな。うーん。あ、そうだ。


「ジミー先輩。ちょっといいですか」

「何?」

「――『水槽(アクアリウム)×反転(リバース)』」


 ジミー先輩を地から湧き出た清らかな水流が覆う。妹のサディーが使用した『水槽(アクアリウム)』とは違って、捕らわれた人は息継ぎも出来るし水圧も掛からない。

 むしろ外部からの攻撃に対して流れる水が受け流して守護してくれる安息の揺り籠となる。たとえママや師匠レベルであっても私が本気で集中すれば易々とは破れない。自信作だ。

 あ、ちなみに私は元々『水槽(アクアリウム)』が使えて、『水槽(アクアリウム)×反転(リバース)』はうささんと私で進化改良させたスキルだったりする。元は私の考えでも微調整はうささん任せだったけどね。

 産まれる前の胎児みたいな恰好で安全を確保されたジミー先輩を確認して対戦相手の姉妹に向き直る。先程放った強力な魔法はどうやらそう何度もぽんぽんと放てるようではなさそうだ。


「――しくじったわね、サディー」

「……姉さま、次、いこ」


 わずかな時間とはいえ、少しは魔力が回復したようだ。さすがは特待生、といったところかな。先程の魔法も出力自体は押さえてたんだろうな、たぶん。

 さっきのは相手も体勢が整っていない状態で放ったはず。今度はそうはいかないだろう。迂闊に手出しして墓穴を掘るのもなんだし、とりあえずは普通に応戦しておこう。


「『季節風(モンスーン)』」

「『水槽(アクアリウム)』」


 様子見でタイミングを待っていたら、一気に畳みかけることにしたのか、姉妹が手を繋ぎ、スキルの名を口にした。しかし今まで発動していた効果が発動する様子は無い。どちらかといえば本人たちの方に魔法の流れが集っている。これは――。


「――これで決めるわよ、サディー!」

「……はい、姉さま!」


 気合いの声と共にさらに魔法の流れが速くなる。――これは珍しい。二人とはいえ、生徒で使える人が居るとは思わなかったな。

 先程は避けることが優先されて聞き取れなかった、強力な魔法スキルを二人が同時に紡ぐ。重なるように、一音一音が呼応し、反響する。


「「『合技(シンクロ)×――」」


 マジか。


「「――凍結(フリージング)』」」


 視界一杯が白く染まった――。


          ◇◆◇◆◇


「――なんということでしょう。開始早々に湿地帯フィールド全体が細切れです」


 言葉通り、試合開始早々にメリー選手の放った魔法スキルによって湿地帯に植生していた大木のことごとくが倒れ伏し、切り刻まれていた。

 メリー、サディー姉妹は魔法が得意であるため、開始前に魔法合戦が見られるかもしれない、と実況を行っていたホウソウもここまでとは思っていなかった。

 今までの試合では圧倒的な魔力量にて長期戦で相手を圧倒してきただけに、しょっぱなから大技を決めてきたのには観客含めて実況のホウソウも予想外であった。


「おお、あれではさすがのアイ選手たちも――ってえええっ!?」


 いきなりのことに思考が乱れていたもののすぐさま正気を取り戻したホウソウはなんやかんやでプロであった。実況を続けようとアイ選手たちへ意識を向けると、そこには荒れ狂う暴風の魔法の中でもなんら気にした素振りもなく姉妹との距離を詰めるアイたちがいた。


「どどど、どういうことでしょうか! まったく効いてないようです!」

「――まあ、それはそうでしょうね」

「ええ! そうなんですか?」

「ええ、あのくらい当たり前よ」

「はあ……」


 そんなわけないだろう、とホウソウと観客の心は一つになった。が、マリア様が仰せになったことに異論を唱える命知らずはいないため、表面上納得しておく観客とホウソウであった。

 そうしている間にも、目まぐるしく展開が進む。離れていた距離がとうとう近付き、目視できる位置にまで近づいた。そして、


「ああっ、アイ選手が水の中に捕らわれました!」


 フィールドが荒らされ、現在進行形で破壊されているため遠目でもはっきりと捕らわれる瞬間が全員に見えた。

 そのままジミー選手を集中的に攻撃しだしたので、もはやアイ選手たちの勝ち目は無いように観客ともども固唾を呑んで見守る。が、


「――ん? あれ、効いてないですね。二人とも」


 そう。ジミー選手は押し出されることはあってもダメージ判定は受けていない。同じくアイ選手も水の中で平気そうだった。

 姉妹の勝ちで勝負はついたように思われた。なので、この展開は観客たちを大いに盛り上がらせる。


「油断し過ぎね」

「私の目にはどちらも一進一退に見えます!」

「素直ね、見ていれば分かるわ」

「はい!」


 相変わらず主語が足りないマリアの解説も受け流せるようになってきたホウソウと観客たちであった。そのまま誰もが次に起こることを固唾を呑んで見守る。

 そして、――


「――ここで使うのね、あの子たち」


 相変わらず意味深な発言を繰り返すマリアに慣れてきたのか、この後何か凄いことが起こると言われたも同然だと、流れを理解出来るようになってきたホウソウと観客たちであった――。


          ◇◆◇◆◇


「「『合技(シンクロ)×凍結(フリージング)』」」


 マジか。


「――って感心してる場合じゃない!」


 迫る強力な魔法。接触までほんの数秒。もはや躱す時間は無い。むしろ動かないほうがダメージは低い。……うささんが居れば避けられただろうけど、今は言っても仕方がない。

 知恵熱が出そうなほどの刹那で何万通り以上もの対処方法を精査する。……やっぱりアレ使うしかないのか。うーん、でも。ああ……仕方ない。――やるか。


「観念なさい!」

「……お、わり!」


 今度こそ勝利を確信したのか、姉妹が勝利宣言らしき声をあげる。傍から見れば私たちはそれを回避不可能、対処不可能、絶体絶命の大ピンチ。

 そもそも『合技シンクロ』というのはその名の通り(スキル)の合わせ。二つ以上の魔法を全くの同時、細かく言えば同じ魔力量、方角、質、とつまり完全にすべてが一致していないと放てない、この世界でも超々高難易度と言われるものだ。

 合わせる数が増えれば増えるほどに威力がとんでもないことになるのは誰でもわかるだろう。しかも、違う属性であればなおさら難易度は高くなり、被害も大きくなる。

 二人がベースにしたスキルはどちらも継承だ。アメニティですら軽く災害レベルだって言うのに、継承二つの合わせ技は災害なんて生易しいものじゃない。

 ……その脅威を踏まえて考えれば気持ちは分からなくも無いけど、まだそれはちょっと時期尚早。相手が粒と消えるまでが試合ってもんよ。

 それに、


「言い忘れてたかもだけど実は――」


 一般人はそもそも『合技シンクロ』自体あまり知らない。知っていても伝統のある貴族たちくらいの認知度。代々受け継がれてきた技術とも言えた。

 この時点で私は知らないと思われているかもしれない。――けど、忘れないでいただきたい。私は()()ママの教育を長年直で叩き込まれているのだ。勿論、――


「――私も使えるんだよね、『合技(シンクロ)×――」

「「うそ!?」」


 勝利を確信していただろう姉妹の目と口がこれでもかと見開かれる。もう鼻先まで迫っていて悠長なことは出来ない。普段は口にしないが、今は緊急時。恥ずかしいがさっさと厨二臭いスキルの名を唱えることにした。


「――火之湖(ゲヘナ)』」


 途端、迫りくる脅威の魔法を丸っと呑み込み、それだけにとどまらず辺り一帯を高熱の青が染め上げる。単純に魔力量の力押しによって、大技を放った直後で疲弊しきっていた姉妹はあっさりと呑み込まれて光の粒子と消えたのだった――。

次回、双子回が続きます。バトルはなし? です。

お楽しみに。

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