双子、ではありません@その2
私の全力サポートにより、ジミー先輩が周囲から襲い掛かる風の斬撃をものともせず、湿地帯を駆け抜ける。私はその横を適当に障害物を排除しながら並走していた。
相手の様子が、気配が手に取るように分かる。広範囲の強力な攻撃が当たっているはずなのに無視して直線で迫ってるんだもん。焦るよねー。分かるー。
「見つかった――!」
一直線に突き進んでたら間もなく風魔法の使い手と遭遇した。しかし、一人しかいない。もう一人は近くに潜んでるな。間違いなく。
「――『季節風』!」
今までよりさらに強力な豪風が迫りくる。風が相手中心に荒れ狂っていて物理的に近付けそうにない。こりゃ『結界』張ってなかったら吹き飛ばされるだけにとどまらず、現実なら微塵切りだよ、微塵切り。危ないし容赦ないな。
ジミー先輩もなんとか近付こうとしてるけど、せっかく詰めた距離が後ろへ引きずられるようにどんどん離れて行く。私は棒立ち待機してるけどね。
荒れ狂う台風のような暴風の中、なんらダメージを受けてない私を見て驚かれてるのが見える。ジミー先輩にもダメージが入ってないので、私と交互に見てマジか、って表情だ。
と、余裕こいてたら。
「――『水槽』」
私の周囲を水晶球のような水の牢が包んだ。もう一人だな。広範囲に満ちる風魔法のせいで気配が乱れて位置特定は出来てなかった。近くに居るとは思ってたけど、まさか目の前にいたとは。
私を閉じ込めたことで勝利を確信したのか、隠れていた倒木から出てきた。
「……これで終わりですね、姉さま」
「よくやったわサディー!」
私を捕らえたことで勝負は決まったとでも思ったのか、二人が合流してジミー先輩に集中的に攻撃を加える。攻撃してるのは風魔法の使い手、もとい、姉のメリーだけどね。
まあ、でも――
「……姉さま、おかしい。フェルナンデス家のに攻撃、当たってない」
「なんですって!?」
――その通り。
ジミー先輩は未だに風に押されているけど、攻撃は私の『結界』によって掠りもしていない。思ったより気付くのが早かったな。
「どういうこと!? サディー! あなたあのヤバい奴ちゃんと閉じ込めたんでしょうね!?」
「……今も閉じ込めています。姉さま」
……くすん。私の認識っていったい――。
「じゃあ、なんで当たんないのよっ! て、ああああ! あっちもピンピンしてるじゃない!」
「……ありえない」
私を捕らえたことで一度は逸らされた意識を戻される。理由は分かっている。この『水槽』というスキル。簡単に言えば本来、閉じ込めた者を窒息させるスキルだ。
水の牢の中は身動き出来ないよう水流が操られており、深海に潜るがごとく徐々に水圧も上がっていく。短時間でも息継ぎ出来ないから苦しいし、長時間なら圧迫されてボッキボキに骨が折れる、だけでは終わらない。現実なら中々にグロテスクなことになるだろう。
……なにこの姉妹。こっわっ。えげつなこっわ!
「……もう一度。『水槽』」
水の牢の中でも何事も無くノーダメージで突っ立っている私に向けてさらに『水槽』を重ね掛けされる。ダメージは無いけど、かなり圧が上がったのは分かった。
効いてない理由としては身体強化のおかげ。魔力で内側から外へ押し返すという荒業で一定の水圧に保ちつつ、肺活量もアップで水中の少ない酸素を微量に取り込む息が出来る。エラ呼吸ってほどでもないけど、似たようなことをしているのだ。ふっふっふ、応用も出来て我ながらマジ、便利。
……それにしても。一歩間違えればスプラッタなのに、いくら現実ではないとはいえ容赦なさすぎだ。やっべー、あの子マジやっべー。
「……効いて、ない」
私の精神に効いてます。
「なんてやつ! サディー! 放置よ、放置! 今まで通り、どちらにしろ手を出してこないんだから!」
女って恐ろしい……とか同じ女としても慄いていたらジミー先輩狙い宣言された。どうやら私たちの今までの試合を見ていたらしい。私がサポートとしてしか参戦していないことを分かっていらっしゃる。
そして有言実行と言わんばかりに、本当に私を放置して姉のメリーが『季節風』をジミー先輩へ続けてぶち込む。
「いくら強力な『結界』でも、蓄積限界があるはず! 攻めて攻めて、攻めまくるわよ!」
「……姉さま、頑張って」
ジミー先輩に向けて姉のメリーが連続で『季節風』を直撃させる。荒れ狂う風を一点に集中させていることからも、かなりの熟練者だと分かる。
妹のサディーは私を捕らえることに集中していて、手出しできないようだ。……なるほど。スキル能力自体は強力ではあるけど、複数個所に展開させられるほどの技量はなさそう。姉を応援する言葉に反して額に汗まで浮かばせて制御に精いっぱいのようだ。むしろ応援するの逆じゃない?
あれかな。維持するのがキツイからとっとと終わらせてくれってことかな。なんか、そんな裏の言葉が聞こえた気がする。
「くぅ~、しつこい『結界』ね!」
「ありがとうございます」
「褒めてないわよ! ――えっ!? なんであんた喋れるのよっ!?」
姉さまナイスノリツッコミ。まあ、向こうにしてみれば水の中で息も出来ないはずなのにハッキリと発声が聞こえてるんだから。そりゃ、びっくりだわな。
「サディー?!」
「……解いて、ない」
「うっそ!」
嘘じゃないです。
「――いい加減にしてくれるかな」
「なっ!?」
姉のメリーが私に気を取られた瞬間に、ジミー先輩が隙を見つけて暴風から抜け出せた。『結界』によって逸れた暴風が辺り一帯を呑み込みながら後方へ吹っ飛んで行った。
うへー。道が出来ちゃってるよ、道が。威力が凄まじいな。
「――『魔痺』」
「ぐッ!」
飛ばされた暴風の威力に感心していたらジミー先輩がアメニティースキル『魔痺』を使用した。魔力を持つ者であれば何にでも効くスキルだ。効果として、触れると魔法の流れが乱れる、というもの。
アメニティレベルであることから分かるように、それほど大したスキルではない。触れて魔法が乱れると言っても触れた部位だけ。それもごく短時間。たとえ触れてしまったとしても大きな魔法で流れを強引に戻してしまえばいいし、私みたいに魔力で覆うタイプのスキルであれば最初から大きな魔力量で弾いてしまえばいい。
しかし、このスキルは対策も取られやすく微量な効果しかないのだけど、これもやはり使い手によっては強力になるスキルではある。特に、
「舐められたものね! こんなスキル――」
「……姉さま?」
「んぐぐ!?」
「姉さま!」
姉のメリーが、隙をつかれてくらった『魔痺』を広く知られた対策通り大きな魔法を流して解除しようとした。しかし、その顔は顰め面。思うように魔法が流れないらしい。
元々、正しく発動の仕方が分からないとスキルの自動化はされない。必要な呪文、魔力、制御方法と習得するためだけに様々な技術を要求されるのがスキルだ。さすがにこんな発展した世界であってもタダではなんでも得られない。
うささんが言うには、人としての個の意思が存在することに意味があり、AIが存在する意義でもある、とのこと。良く分からんけども、個性があったほうが良いよねってことだと私は解釈しておいた。
うささんは『……間違いではありませんが、正しいとも認められません』とかなんとか呆れてたけど。細かいことにこだわり過ぎだよね。
「どうして……!」
スキルは力量によって威力も効果も段違い。ジミー先輩は高難易度である魔薬さえ自作出来る人。『魔痺』は魔薬と似た性質の魔法スキル。
つまり、何が言いたいかと言うと、
「――いかに本質を理解しているか、それが大きく左右するんですよね」
「……本、質……?」
『魔痺』の効果範囲内にいたのか、妹のサディーが膝を地につきながらも気になったのか質問する。私を捕まえておくためだけに相当な魔力を消費したようだ。
いや、『水槽』自体、維持するのには向いていないスキルだ。ここが湿地帯でなければとっくの昔に魔力切れだったろうに。粘るね。
それに、あわよくば時間を稼ぎながら情報を引き出そうとしてる。大人しいって言われてる割には内面、大人しくないね。ま、教えてもいいけど。
「――AI任せの単調なスキル発動だけなら三流以下。スキルの使い方が分かってやっと三流。自由自在にスキルを使いこなし始めて二流になる。そして、――本質を理解したことで、少ない労力だけで強力にスキルを活用出来るようになり、一流となる」
良く分からなかったのか、未だに痺れてる姉と苦しそうな妹が二人同時に狐に抓まれたような顔をした。あれ。かなり分かりやすく説明してあげたのに。
「……それじゃ伝わらないよ」
「うっそ、これでも最低限ですけどっ」
『魔痺』をどうにかしようと足掻いているせいで魔力が荒れ狂ってる姉に近付きあぐねていたジミー先輩が、額に手を当てて天を仰いだ。
戦闘中にも関わらず、一瞬妙な空気が漂ってしまった。解せぬ。
「――その食べ物が食べられるものであるかどうか、分からないまま食べるのが三流以下。その食べ物が食べられると分かってそのまま食べるのが三流。さらに、その食べ物を用いた料理、加工が出来るようになって二流。そして、その食べ物そのものを活かして料理、加工が出来るようになって一流、ということだよ」
「「お~、なるほど!」」
「……分かり、やすい」
何故、食べ物。と思わなくも無いけど、なるほど。なんとなく分かった。私の伝えたいニュアンスは伝わったみたい。たぶん。
「それは良かった。――ただ、悪いけどまだ試合中だからね。『火之玉』」
納得した姉妹に対して紳士的にも一言断ってからジミー先輩がトドメの『火之玉』を放つ。身動き出来ず、消耗も激しい状態じゃ直撃して私たちの勝ちだ。
「――ん?」
ジミー先輩が『火之玉』を放った瞬間、同時に私を捕らえていた『水槽』が解除された。しかし、『火之玉』の直撃前。
おかしい、と異変を察知したところで遅れて気付く。
「先輩!――」
――荒れ狂う巨大な魔法がジミー先輩を呑み込む寸前だった。
次回にまだ、試合が続きます。
お楽しみに。




