シンプルに暑苦しいです@その3
今回、戦闘シーンは少なめです。
「――さて、どうするつもりですか?」
「……どうしようもなさそうだね、どうも」
実力差を感じ取っているのか、ボディーは構えをキツくした。まあ、まだ何もしないけど、お疲れ様です。
横では何やらジミー先輩に対して特待生のグリルが私のことを生意気だなんだと喚いていた。そしてそのまま魔法合戦にもつれ込んだ。
私は私でそれをぼけっと観戦する。勿論目の前のボディーを牽制することも忘れない。
「――君は新入生かな? 見ない顔だ」
「そうですよ」
私がジミー先輩たちの戦闘に介入するとでも思われたのか、ボディーが世間話を始める。私も観戦するだけでは暇なので、付き合うことにした。
「噂の新入生がいると聞いてはいたが、まさか君だったとはね」
「……ちなみに、その噂ってどんなものです?」
ちょっと付き合うつもりが、いきなり良くない出だしだ。入学早々に大勢の前で目立つような何かをした覚えはないけど、念のため確認したい。
私の反応からして時間稼ぎ出来るとふんだのか、思い出すようにボディーが告げた。
「……例えば」
「例えば……?」
「……最新軍用設備から多少劣っているとはいえ、何十発もの核弾さえ寄せ付けない自立型防御設備に巨大な風穴を空けたとか」
「うっ……」
それは合ってる。当時は見た目が紛らわしいだけで、そんな凄い壁だとは微塵も思わなかった。おそらく、あの場に居た授業中の生徒たちから出た噂だろう。
しかし、あの場にはジルニク君やリアもいたのに、何故私の噂として広まってるんだろうか。
「……変態科学者と懇意にしているとか」
「げぇっ……!」
間違ってないけど、今すぐに抹消して欲しい噂だ。というか、どこから漏れたんだ、その情報。あそこ近辺はほぼ人が近付かないっていうのに。
「怪しい頭の下僕と毎朝徘徊しているとか……」
「…………」
な、なんも言えねえ……!
「たったの一ヶ月で裏組織をまとめ上げたとか――」
「――――」
――いやマジどこ情報ですかい、それ。尾ひれはひれはともかく、本流は間違ってないんだけど。個人情報駄々漏れ過ぎてどこから疑ってかかればいいのか困惑しかないんだけど。
私の動揺を見て、ボディーが少し驚いたような表情を浮かべた。
「……まさか、本当なのか」
「…………」
「……ただの噂だと思っていたんだがな、これはこれは――」
「ち、ちちち、違いますからっ!」
「…………」
咄嗟の苦し紛れの否定を聞いて、信じてないような、というか私が噂の本人だと確信したような感じだ。誤解である。非常に遺憾でもある。
唯一の救いは試合中、観客側へ話声は聞こえないということだ。聞こえてもせいぜいド派手な破壊音ぐらいだ。今はそれに感謝。
「念のため言っときますけど、私、その噂とは関係ないですから! か弱い乙女ですから!」
「……自分でか弱いと言うものほどそうでもないと思うね。特に君はか弱いの真反対に位置しているよ」
「乙女に向かって良く言えますね」
「男女差別はしない主義なんだ」
「それは立派な心掛けですね」
一応言ってみただけだけど、私が噂の本人と確信したのか、表面上でも取り合ってくれない。乙女心も何も関係無いようだ。……どこかの誰かさんを彷彿とさせるな。
「――こんなうわさも聞いたよ」
「……!」
まだあるんかーい。
「あのアリアナ・グラ=トウジョウに喧嘩を売り、生還したとか……」
「……?」
え、誰。
「……まさか知らないのか?」
「聞いたことがあるような気がしないでもないですけど」
「それは知らないということだね」
「まあ、そういうことになりますね」
「「…………」」
――ヒューン……
私たちの間を『火之玉』が猛スピードで通り過ぎていく。ジミー先輩が避けたものだけど、避けるまでも無く私には当たらない。別に直撃したところで大したダメージでもないのに、律儀に当たりそうな軌道はすべて相殺してくれているからだ。
ジミー先輩のほうがよほど女の子扱いしてくれてるはずなのに、何故だろう、嬉しくない。
ボディーについてはそもそもグリルが遠隔で当たらないようにコントロールしている。激情型ではあるけれど、『火之玉』の扱いは中々の光るものがある。
「……それで、誰です?」
「……いいだろう。有名な話だからね」
本音は時間稼ぎだろうけど、気になるのは事実なので、飛んでくる『火之玉』も意に介さず聞く態勢を取る。
「トウジョウ一族は知っているか?」
「いや、全然」
「「…………」」
――ヒューン……
タイミングよく『火之玉』が通り過ぎる。すぐ横では激しい魔法合戦が繰り広げられているというのに、私たちの間に漂う空気はシラケている。
「……たった三代で庶民から名門貴族として盤石な地位まで成り上がった武器商人だ」
「……武器商人」
なんかヤバそうな界隈の話ね。今は落ち着いてるらしいけど、一昔前までは魔獣の進行が日常茶飯事だったっていうし、もっと殺伐としていたらしい。
うささんが言うには、戦力の育成が間に合っておらず、数千年に渡って人の数が少なかったことが原因だそうだ。安定したのはここ数百年って話だし、歴史の規模が大きすぎて実感がわかない。
「――アリアナ・グラ=トウジョウはその跡取りだ」
「へー」
あまり興味は湧かない。他所は他所、家は家ってスタンスなので。
「知らないとは思わないが、貴族の中でも"グラ"は特別だ」
「どこらへんが」
「…………」
ご希望の返答ではなかったようだ。
「……君って、見かけによらず――」
「違いますー、興味が無いだけですー」
「それはそれで問題があると思うよ……」
「「…………」」
――ヒュンヒューン……
またしても都合よく空気を読んで『火之玉』が通り過ぎる。先程から白熱しているようで何よりだ。
「……貴族階級は強さに比例する」
「へー」
そうなんだ。それは知らなかった。確か、申請しないと審査されないって言うし、ママもパパも興味ないって面倒くさそうな態度だったからな。貴族社会とか絶対面倒くさいんだって、ポッカリと頭から情報が抜け落ちてた。
「併せて権力も比例する」
「ふーん」
さらに面倒くさいな。いよいよ脳筋が正義って感じじゃん。脳筋の歴史、ここに極まれり――。だってつまり貴族階級は脳筋ばっかてことでしょ?
あ、でもジミー先輩やラオ姐は貴族出身だけどそんな脳筋寄りでもないしな。……変わり者に違いは無いけど。
そんなどうでもいいことをつらつら思考していると、ボディーがとんでもない事実を補足してくれた。
「分かりやすく言うなら、"グラ"の位は一国の今後さえも左右しかねない権力をも持っている」
「……え、それマジ?」
「まじ?」
時代を超越した言葉の世代間格差を久々に感じ取りながら、衝撃的事実を知る。最初に、確かに面倒くさそうだな、としか思わなかった私も私だけど、いつの間にかその面倒くさそうな階級の人物に喧嘩売ってた事実とかさらに面倒くささしかない。
こんなことなら貴族情報の掴みくらいは調べておけばよかったかな。今更だけど後で確認しようっと。
ひそかに心のメモ帳を開いていると、激しさを増していたジミー先輩たちの対戦が動いた。
「――『火之玉』!!」
絶妙なコントロールでジミー先輩を追い詰めていたグリルがトドメとして今までの中でも特大と言えるサイズの『火之玉』を放った。
――詰んだな。
「――あれは……」
ジミー先輩たちの対戦に決着が迫っているからか、ボディーが気を逸らした。そして――
「――グリル! まだだ! まだジミーは諦めてない……!」
「へ……?」
ボディーの視線が示す先、それは地上とは程遠い空の向こう側。気付いたグリルが咄嗟に上を向き、それの存在をことここに至って初めて、確認した。
「…………」
――グリルの頭上では、小さな太陽が形成されていた。否、正しくは最後に放たれたグリルの特大サイズの魔法さえも小さな太陽へ呑み込まれていく、その瞬間を目に捉えた。
「なっ……!?」
……ちぇ、気付かれたか。今までジミー先輩は相殺ばかりしているように見えていただろうけど、実はそれ以上にひっそりと魔法を融合して待ち、グリルの隙を伺っていたのだ。私は最初から気付いていたけど、余裕のない二人は気付けなかったようだ。
……つまり私のせい、と言えないことも無い。
「チィッ!」
「――おっと、それは悪手だよ」
意外にもすぐさま反応したグリルが『火之玉』を放つ。しかし威力が足りないのか、頭上の小さな太陽に呑み込まれてしまった。
「くぅ……! グリル……!」
私が邪魔するせいで、ボディーは動けない。残念だけど、このまま足止めさせてもらう。グリルも善戦したけど、ここまでね。私が言えたことでもないけど、何も力こそが全てではない。
「――致命的痛手、だよ」
ジミー先輩が言葉通り、ギンギラギンに輝く空に隠していた小さな太陽を上から下へ腕を動かすことで勿体ぶらずに落とした。そして、凄まじい熱量の魔法エネルギーがグリルを襲う。
咄嗟に『結界』を張っていたけど、即席で形成した魔法では圧倒的な熱量には耐えられない。完全に形勢逆転だ。
「う、耐えられ、ぼ、でぃ、さ――!」
耐えたほうではあるけど、グリルは呑み込まれてしまう寸前だった。ここにきて一か八か動くしかないと判断したのか、ボディーが一歩前へ進んで――
「――気を抜いちゃダメじゃないですか」
「――ッッ!!」
大きな隙が出来たため、遠慮なく十メートル以上あった距離を詰める。さっきの仕返しともいえるけど、別に仕返しではない。
わざわざ背後に音も無く近づいて軽く肩に手を置いての発言だけど、ムッとしたからやった仕返しではない。断じて、ない。
「しまっ――」
私が一瞬、ボディーの気を引いたことで、グリルは呑み込まれ退場。しかしそれだけでは留まらず、すぐさまジミー先輩の動きに連動して軌道変更。ボディーの目前にまで、小さな太陽が迫っていた――。
「ぐああああああッッ!!」
私のせいで気付くのが遅れ、避けることも出来なかったボディーが両手を超高熱であろう熱の塊へ触れる。止めようとしているみたいだけど、無理だ。
魔法で相殺できないこともないけど、それをした瞬間身体ごと蒸発だ。私は勿論既に退避済み。高みの見物ともいえる。サポートだけなんでね。直接的な攻撃はジミー先輩任せだ。
「――性格悪いよね」
「失礼ですね。腹黒いと言って下さい」
「うん、意味変わらないよね?」
気合の入った魂の叫びで小さな太陽を根性で押し留めるボディー。さすがの実力者だ。そして私とジミー先輩は横で雑談である。世も末だな。
「ぐぐぐッッ!!」
「耐えますねー」
「……あれを見ての感想かな」
放ったのはジミー先輩なのに、普通にドン引きされた。解せぬ。計画通りなのに……。
それにしても、だ。
「あーほんと、まだ春先の晩だってのに、暑苦しいったらありゃしないですよね」
「……そうだね」
「「「「「――ぉぉぉぉおおおおおおお!!」」」」」
爽やかな晩のはずなのに、小さな太陽ごとフィールドが元へ戻った瞬間に暑苦しい声援が反響。どこまでも暑苦しく響き渡っていた――。
正直、書いてて暑苦しかったです。
次回、バトルなしですが、幕間みたいな感じで久々にとあるキャラが登場します。
お楽しみに。




