教室見学?
ちょっとした事件はあったけれど、おおむね私は問題ないので、問題なし。ジルニク君はしばらく魂が飛び出してたけど、自力で復活してたし、この件はこれでよしとしよう。まだブツブツ言ってるけど、終わり。終わりったら終わり。
「さ、元気出して、ドンマイ」
「どこまでも他人事だな、お前」
他人事ですもの。口には出さないけど。そんな私の考えを表情から読み取ったのか、ジルニク君から白けた視線を感じる。もちろんスルーしますが。
今はまた、教室見学に向かっている最中である。私の後ろにはぞろぞろとジルニク君とヤマトくんが付いて来ている。そういえばさっきの騒動の間、ヤマトくんはずっと物陰に隠れてました。今は普通について来ているけど。基準が分からん。
「それよりさ、私の見学についてくるのはいいけど、同じ教室に入るの?」
「ああ、お前強いしな」
いやどんな理由。そんな理由で選ぶって自由過ぎるでしょ。それに強い弱いが教室に関係あるのかっていう疑問もあるんだけど。ほぼデスクスタディだよ。
「……理由はともかく、私が選んだ以外の教室も選んでるんでしょ?」
「いや、特には」
「なんでや」
おっと。似非な発言してしまったな。しかしマジで疑問なんだけど。他に気になる教室とか無いんだろうか。いくらなんでも適当過ぎる。
「最初から同じ教室なら、お前と行動すれば迷わねぇだろ。トウジョウは難しそうなのばかり選んでるしよ」
「あー」
納得してしまった。そういえばこの子迷子属性持ちだったわ。それで戦闘系に偏る私と同じにしとけば、私にはうささんが常時ついてるから迷わず教室に行けると。意外と考えてたね。
「それで、理由には納得したけど、私も一応戦闘系以外選んでるよ?」
「その間は自主訓練だな」
「あ、さいですか」
マジでハッキリしてんな。まあ、この学園の特待生は共通教室もないし、本当にやろうと思えば脳筋プログラムで卒業も出来てしまう。自由過ぎるだろうけど、裏を返せばそれだけ魔獣が脅威という意味でもある。暗殺教室が多いのもそういうわけだ。全ての生徒に対して数クラスじゃ少なすぎるもの。
あれ、それならママの教室に一緒に入るとかそういうことなのかな。
「じゃあママの教室にもいくの?」
「ママ? 誰だそれ」
「あー」
しまった。ついさっき見学終わりにメルディアナ先生から、目立つからママのことはあまり口にしないようにって注意されたんだっけ。知ってる前提で話したけど、ジルニク君ほとんど気絶してて知らなかったな、そういえば。
『マリアの教室です』
「まりあ? ……それはあの、マリア様の教室か?」
どのマリア様かは分かんないけど、そんな有名なマリア様がいっぱいいるとは思えないので多分私のママのことだろう、うん。というかジルニク君まで様づけするとか、いったい何したんだママ。
「お前マリア様の教室に行けるのか!?」
「う、うん」
え、そんな食いつくことなの。むしろ嫌がられるほうだと思ってたのに。そういえば説明会のときにママが登壇したらアイドルコンサート並みの盛り上がりだったもんな。人気なのか、ママの暗殺教室。今日一の驚きだな。
「俺も、行っても、いいのか……!」
「あー、うん。いいでしょ、たぶん」
キラキラした眼差しで迫られたので、思わず大丈夫だと言ってしまった。まあでも私に付いて行けば一緒に勉強できるだろうから教室に入ったも同然だし、嘘ではない。私がいないときは無理だろうけど。あ、そういえば月一でいいみたいなこと言ってなかったっけ。
『記憶の改竄が激しいですね。毎日でなくてもいいとしか言っていません』
うささんからすかさず訂正が入る。なんだよー、いいじゃんかちょっと変えたって。それに提出する内容にもよるけど、本当に月一になるかもでしょ。ほとんど願望であることは分かってるんだけどさ。
「毎日じゃないけど、私が行けるときであれば教室に入れるとは思うよ」
「そうなのか! 一生付いて行くぜ! 親分!」
「それはやめて」
これ以上面倒なことを増やさないでほしい。あなたみたいな手のかかる子分は断固拒否します。ただでさえ入学してから騒動しか起きてないのに。三分の一くらいはあなたも関わってるのよ、恐ろしい。
「だめか。なら大将。これでどうだ」
「あ、いいかも」
「決まりだな! 大将!」
「げっ、嘘、今のなし! 撤回します!」
さっきの親分ってのはパパを思い出して速攻拒否できたけど、大将っていうなんかカッコいい響きにキュンと来た。……やってしまった。すぐに無しにしてって言ったけど、ジルニク君の反応からしてもう手遅れのようだ。キラキラした眼差しでさっそく大将大将言ってる。くっ、そんなキラキラした眼差しされると止めにくい……。
結論。私は大将になりました。何の?
『着々と支配形態が構築されていきますね』
「どこの悪の組織だ。やらないよ?」
何故そこまで悪者っぽいポジションに持っていこうとするんだ。せめて英雄とかの人気そうなポジション目指そうよ。
『……目立ちたかったのですか?』
「あ、うそ。普通の人として生きていきたい」
よく考えなくてもどっちもどっちだった。どっちの方向性も却下で。ワタシ、シズカに、生きて死にたい。平穏が一番。コレ大事。
私とジルニク君、ついでにうささんが騒ぐけど、その後ろでヤマトくんは相も変わらずのほほんと平和だ。いや、もう少しこっちに興味示そうよ。あなた一応自分の意志で付いて来てるんだから。もっと仲良くしようとかしないんかね。……正直私も一人になりたい。
そうやって賑やかに魔法技師教室に急ぐ。気付いたらもう目的地は目の前に迫っていた。ここらへんは昨日も来たけど、人が少ないエリアだ。今回はもちろん同じ轍を踏まず、真っ先にうささんに案内をお願いする。
「それにしても地下からの入り口ばっかりね」
『警備の都合上、地下が最も活用しやすいため、学園内の建物は旧建築を除き、基本的に地下からしか入れません』
「へえ~」
それって昨日ジル姫が撃退されてたシステムの事かな。確かに鮮やかな手配だったけどね。後からうささんが事後報告してくれたんだよ。その時点で既に自分の部屋に連行されてたから、そのせいで誤解を解けなかったんだけど。
て、それはもう過ぎたことだし今はもういいか。
「ここか。なんか他に比べて小さいな」
今まで見学しにいった――まともに見学したのは一か所だったけど――中でも教室が小さい。外から見たときも思ったけど、他に比べてなんだか狭いのだ。
『新しく始めた教室の為、余っている場所がここしかなかったようです』
勝手に裏事情にアクセスしたうささんが疑問に回答してくれる。いつも思うけど、割かし犯罪よね。捕まらないのが不思議でならないんだけど。自分から主張するのもおかしいし、特に変なことには使ってないから許して神様!
アホなことを考えながら、午前中と同じように目の前の扉をノックする。念のため声もかけた。普通って素晴らしい。やっぱり前世の学生生活を思い出して和むなあ。
「――はい」
しばらくすると、扉の向こうから反応が返ってくる。声の感じからは若い女性っぽいけど。どうなんだろうか。見た目詐欺なんてそこら中にいるし。ママも相変わらず少女みたいな若さだった。……そろそろ私と双子と言われてもおかしくないレベルにまで追いついてしまった。
これは現在の文明力が凄いのかママが凄いのか判定が微妙だ。なんてまたしても気を抜いて思考を逸らしてしまっていた私は気付かなかった。この扉の先にさらなる面倒が待ち受けていることを。
「あ、いらっしゃ――」
音もなく扉が開くと、予想通り若い女性が出てきた。濃いめの茶髪はおさげにまとめて、大き目の眼鏡をかけている。目の色はこげ茶色といっていい色で、第一印象はクラスメイトによくいる委員長みたいだなとしか思わなかった。
しかし私たちを歓迎してくれようと発せられただろう言葉は途中で止まり、バチッと電流が走ったように目が合う。一秒にも満たない時間見つめ合うと、先に相手が手を出した。
――眼鏡がキラッて光ったけど!?
「ちょ!?」
結構本気の殺意を乗せた拳が急所を躊躇なく狙ってくる。反応が出遅れてしまったけれど、なんとか腕に身体強化を掛けて防御する。同時に目にも身体強化を掛けて的確に防御を行う。
最初の拳に始まり、蹴りも含めて容赦なく何度も急所を狙われる。そのたびに予想した地点を防御する。反撃しないのは単純に後ろにジルニク君とヤマトくんがいて動けないからである。きっと反撃に出た瞬間、倒すことは出来るけど同時に後ろの二人がやられる。
防御しているからいいものを、こんな狭い場所じゃ碌な反撃も出来やしない。私がいったい何をしたと言うんだ。……昨日のことなら謝りますけど!?
あ、そういえばメルディアナ先生にも問題児って言われたっけ。昨日のことを知ってて攻撃されてるんなら、情報回るの早くないですか。というかそんな嫌われるようなことでした!?
鋭角低めにえぐる攻撃が迫る。――いやほんと躊躇しないな!? 私生徒! 見学にきただけ!
「――っ!」
「ハアァァァッッ!!」
――なんか最終奥義出す直前みたいな気合が入った空気を感じた! え、マジで!
すぐさま最大限の魔法防御膜を張り、相手の最終奥義っぽい雰囲気の技を待つ。と、背景にゴゴゴゴゴォォッッ!! て効果音が付きそうな気迫が途端に緩む。そしてニッコリ笑いかけられると。
「――合格です。教官」
「は?」
何が?――、
次回、新たなキャラが登場します。あ、間違えました。新たなキャラの名前が出ます。
どんどんキャラが増えていきますね。(混乱しないように)頑張ります。




