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ロストアイ  作者: たみえ
学園入学
58/106

お散歩ですか


「私は今、恐ろしいことに気付いてしまった……」

『何を考えているかは分かりますが、それがどうしましたか』

「どうしましたか、じゃないよ。筒抜けな思考を知ってもなおどうしましたか、ですと……!」

『……』


 うささんからまた、仕方のないやつを見るような視線を感じる。なんだかんだで人工物のAIのくせして感情表現豊かだよね。誰に似たんだろう。


『宿主の思考に感化されることは珍しいことではありません。似ているというのならばそれは自分自身の投影に他なりません』

「うっわあ~、過去一で知りたくない情報だったわ」

『それは光栄です』

「……」


 褒めてませんがっ!? ……こういう言動も私自身のせいとか考えたくない。あれ。でもよく考えたら最初のころと全然態度変わら無くない?


『前世の記憶の影響でしょう。それが無ければ私はまだ声を掛けてすらいなかったと思われます』


 あ、そうなんだ。でもなんとなくそんな気がしてた。前世の私って結構斜に構えてた卑屈者だったし。……あんまり良い記憶も無かったしな。


『それより、本日は残りの教室の見学を行う予定では?』

「……誰かさんのせいで脱線した気がしなくもないけど」

『先程の話ではありませんが、巡り巡って自業自得でしょう』


 何、その明日の天気は雨でしょうぐらいの安定的な嫌味っぷり。思いっきし掘り返しおってからに。だから思考が変なところに飛び火しちゃうんだよ。どうしてくれようか。


『魔工学については一人での見学ですね』

「そりゃあリアが戦闘系は暗殺教室で十分だって言ってたし。実際、スカウトの書も貰ってないって言ってたのに無理強いするわけにもいかないでしょ」

『一緒に行動するとひどい目に合うと思われたのでは?』


 ――どうしよう。うささんの指摘に反論できる余地が無い。心当たりが多すぎる。私は目の前で宙に浮いている不思議生物……じゃなくて、蛍光ピンク発色でうさぎ型ぬいぐるみに扮した、うささんのボタン眼部分より目を逸らす。

 そう。先程恐ろしいことに、今日が入学から三日目であることに思い至ったのである。まるで一日が数か月分の濃縮具合だ。このペースでは神様も厄日の設定に困ることだろう。私はもっと困る。寿命が足りない。


『午前中に早く見学に向かいましょう。午後には約束があります』

「あ~、そうだった」


 実は午後からジル姫……じゃなくて、ジルニク君と魔法技師教室に行く約束をしてたんだった。そういえばプリシラさんにジル姫たちを託したあの後、なぜか大騒ぎするジル姫……じゃなくて、ジルニク君に部屋へ乗り込まれそうになったな。セキュリティーに阻まれてドアの向こうで撃沈してたけど。案外厳しい警備のようだ。オンボロにしては意外だったな。


『どうやらあの格好をさせたと勘違いしていたようです』

「げ、そうなの?」


 濡れ衣だー! ……と、一概にも言えないのがアレの面倒なところだ。あの格好のまま放置したり、最後まで面倒を見なかった部分については謝るが、完全にとばっちりである、色々と。


『昨日した約束ですが、いかがいたしましょうか』

「誤解説かないとな……」

『承知いたしました』


 それだけ言うと、うささんは静かに私の肩にひっつく。お? 誰か近くにいるのか?

 私は今、9時を目安に魔工学の教室に向かっている最中である。けっしてリアに同行拒否で振られたからではない。断じてない。

 ここは昨日通った噴水広場の脇道だ。……何故だろうか。芋づる式に悪い予感しかしないんだけど。


「……そこにいるのは、誰?」


 昨日回りをウロチョロしてた人たちのこともあるし、今度はこちらから声を掛けてみる。結局昨日は自分たちのことでいっぱいいっぱいだったし。

 私一人ならともかく、接近戦が出来そうにない非戦闘員だろうリアに、実際に本気の実力を見てはいないけど、たぶん、周りにいた人たちから逃げれるかどうかぐらいの戦力差だろうジルニク君がいたのでは分が悪かったし。

 昨日の反省点について思い耽っていると、生け垣がガサゴソする。というより、声をかけて思考に耽っている間ずっとガサゴソしていた。

 なんでだろう。前世の幼少期、生息域というものに気付かず、必死になって何時間も茂みを無意味に歩いていたゲームの記憶がフラッシュバックする。大体レアなのは奥深くの隠された洞窟とか山頂にしかいなかったな、実際。

 よく考えたらリアルに人が生活していると仮定して、そこらへんの町近くの茂みに伝説級のやつらが居る訳もなかったけど。子どもの思考ってなんてふぁんたじー。

 そういえば。強いやつを捕まえたり、寝る間も惜しんで必死で何時間もプレイして苦労した割に、新しいカセットと機器が発売すると古いカセットと機器はいつのまにか失くしてたな。……社会の貨幣価値に疎い、誰もが養われる時期とはいえ、我ながら恐ろしいことを仕出かしていたもんだ。

 今更ながらに前世の自分の行いに恐れ戦き、それでも生け垣からは未だに何も出てこない。というより、そんな長い間ガサゴソするようなことってある?


「――あ」


 私は今、確実に気付いてはいけないことに気付いてしまった気がする。……忘れよう。お互いに何も見なかったことにしよう、そうしよう。

 そうと決まれば未だに出てこない相手を放置し、その場をそっと去ろうとする。これがせめてもの大人の対応というものだ。


「――っ!」


 空気を読んでその場をそっと去ろうとした私に気付いたのか、相手が焦ったような雰囲気を感じた。まあ、そっと去ろうとする前に声を掛けるという愚行を犯してしまったからね。

 相手にとっては嫌がらせなことをしてしまったからには仕方がない。大人しく場に居合わせたのは謝ったほうが良さそうだ。

 そう思って去ろうとした生け垣を振り返る。ちょうど相手もガサゴソするのをやめたのか、上半身が生け垣から生えた。

 そうして相手と向かい合ったまでは良かったのだけれど、謝罪する前にどこかで見覚えのあった相手に対して気まずさが先にたった。


「……その、ええと、はい。ご、ごめんなさい?」


 疑問形になるのは許してほしい。少しだけ呆気にとられたものの、気を取り直して謝罪をした。これは完全に予想外であった。いや、敢えて言い直そう。予想GUYだったと。


「シュコー、シュコー」


 頭の片隅で、なんか前にも同じような展開があった気がするなとくだらないことを考えて、一先ずの気まずさと思考を先送りにする。

 その場に息苦しい沈黙が続く。何も打開策を思いつかないため、しばらくこの苦行に耐えるしかなさそうだった――。

意図したわけでもないのに気まずくなることって多々ありますよね。

文字を打ってる最中、前に雪で気付かず、ゲボを踏みそうなところを助けてもらったのに、友達の持ってた携帯が代わりに吸い込まれるようにゲボの犠牲になってしまった瞬間を思い出しました。

お礼は言いましたけど、その後、色々と気まずかったですねぇ。

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