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ロストアイ  作者: たみえ
学園入学
53/106

シュコー、シュコー、@その2


「シュコー、シュコー、」

「「…………」」

「……これはいったい、どういう状況なんですの」

「見ての通りです。助けて下さい」

「シュコー、シュコー、」

「「…………」」


 リアが起きてくれました。ただし、この空気を察しても、状況が分からず困惑中ですが。見ての通り、私は植物の近くで一人突っ立っており、先輩とヤマトくんは入口に突っ立っている。時々私が視線を送ると、ビクゥっっ……!! とばかりにペットが怯えるので、顔を向けて会話することも出来ない。なんとかコンタクトを取ろうとしても目線一つ、発言一つで怯えられてしまう。何も出来ず途方に暮れていた。仕方がないので、皆突っ立ってリアが起きるのを待っていたのだ。


「いったい、何が起こったんですの? それに、どなたですの?」

「シュコー、シュコー、」

「ヤマトと言うんだ。私の弟の」

「嘘おっしゃいな。似てませんわ」


 間髪入れずに返事が返る。リアさんや、どこを見て言っているのかな? それはただのガスマスクよ。顔じゃないよ。思わず、生温い目でリアを見守る。まだ、寝ぼけてるのかな。可愛い。


「シュコー、シュコー、」

「そうかい? まあいいさ。それより、体調は大丈夫かい? 何度も気絶すると、身体によくないからね。――そうだろう?」


 リアを心配するように声を掛けた先輩が、途中から私の背に浮いてたうささんへ目を配る。最近は二人で居るとき以外、黙って背で待機がデフォルトのうささん。そのうささんが後ろで動いた気配がした。


『……そうですね。余程図太い神経を持ち合わせていなければ、危険です』

「おい。今私を見ながら言ってなかった?」

『気のせいです』


 私への嫌味もバッチリである。ニクい奴め……。


「……そうですわね。まだ頭がぼんやりとしていますわ。倒れた時に打ったのかしら……?」


 私とうささんが睨み合う……訂正。私が一方的に睨み、明後日の方向へ身体ごと視線回避しているうささんのやり取りを横に、リアが自分の体調を確認する。咄嗟にうささんを下敷きにして頭は守ったけど、少なからず衝撃はあったようだ。

 ……もしかして、いつもと違って身体ごと明後日の方向を向いているのは、拗ねているからなのか。だからか。さっきから無言の視線を感じていたのは。なんか感じる視線が多いなとは思ったけど。咄嗟に雑な下敷きにしたこと怒ってたのね。

 そう。先ごろ、リアが倒れる際、位置関係的に間に合わなかったので、宙に浮いてるうささんを引っ掴んで、倒れたリアの頭下に行くように投げたのだ。そして、直ぐ後に先輩の惨事が起こり、その間に下敷きから這い出たうささんを扱き使った流れである。……私でも怒るな。ごめんよ。


『気にすることはありません。鍛錬が足りないと、既にマリアに報告済みですので』

「こんにゃろおおおおおおお!!!!」


 なんてことしてくれてんだ! 私の謝罪を返せっ! 報復が速すぎるよ! 的確な報復が速すぎる……!!


『自業自得ですね。これを機に、私の扱いも改めて欲しいものです』

「それはどうだろう……?」

『即答ですか。やはり、恐怖による支配……』

「こじつけが過ぎるわ! なんでもそれかっ! 気に入っちゃったの!? ブームなの!? ねえ、ブームなの!?」

「「…………」」

「…………シュコー、」


 ママに報告するだなんて、なんてヤツだ。これからの薔薇色学生生活が一瞬で暗雲立ち込めたよ。くっ、神も仏も居ないのか……!


『神ですか? ……存在証明自体が難しい内容ですね。将来的には可能性がありますが、現段階では証明不可能です』

「……ねぇ、時々挟む超異次元的ハイテクノロジーなんなの。そういうのいいから。何でもかんでも解明して、面白いことなんてないよ! ふわっとした設定だから妄想が膨らむんでしょうが!」

『そうでしょうか? 解明することで膨らむ妄想もあると思いますが』

「…………」


 それはそうかもしれない……、ハッ! 何を考えてるんだ私! だめだ、違う。思わず納得しかけたけど、神様の存在証明とか、そんな危ないこと成し遂げたら、さすがにヤバいのは私でも分かる。たとえ可能性があったとしても、求めてはいけない真理だ。人間の手には余る。それだけは分かる。


『あと数千年経っても可能性はマイナスですが』

「先に言え!」


 恐れおののいたじゃん。無駄に恐れおののいたじゃん。うささんのほうが恐怖による支配実行してない? 違う? ……相変わらず、私で遊びやがる。その愛らしいぬいぐるみ姿も憎らしい……あ、うそ、超可愛いです。

 ふんすー、ふんすー、と鼻息荒くうささんと言い合う。なんだか最近、また感情の起伏が激しくなったな。まだまだ私も未熟だ。もっと嫌味を速攻で言い返せるようにならないと……。


 ――トン


 明後日の方向に思考を飛ばしていると、両肩に手が乗せられた。そういえば、皆に背を向けてたんだった、と、我に返る。振り返ると、可哀想な子を見る目のリアと、何も感じ取れないガスマスク装着中のヤマトくんだった。


「シュコー、シュコー、」

「苦労してますのね」

「……あー、うん」


 二人の分かってるよ的な視線に耐えられず、目線を右往左往させる。恥ずかしい。状況を忘れてうささんとはしゃいでしまった。


「シュコー、シュコー……!」


 なんか、ヤマトくんが雰囲気的に同情してくれた模様。何に? いったい何に対して同情してるの? 怯えられることはもうなさそうだけど、なんか、納得いかないんですが。


「あら? そういえば、ジルニクさんはどうしましたの?」


 私が打ちひしがれていると、リアが当然の疑問を呈す。そういえば、色々衝撃的なことが起こって、完全に忘れてたな。様子も見に行ってない。てことは……、


「……あ。気絶したまま放置してたんだった」

「何をしてますの!?」

「え? だってリアもここ来るとき放置したじゃん?」

「……何を言ってますの? 後ろからついて来ていました、わ、よ……?」

「「…………」」


 再び、沈黙が場を襲う。リアは言ってる途中で青褪めた。そして私も違う理由で青褪めた。確かに、先輩の後を追ったのは私とリアだけだ。それ以外に気配は無かった。絶対無かった! ジルニク君は一歩も動いていない! 絶対に!


「どうしたんだい? 顔色が悪いよ。そういえば、赤い髪の少年が居たが、どこへ行ったんだろうね?」

「シュコー、シュコー?」


 先輩たちは不思議そうな雰囲気を醸し出す。しかし、私とリアはそれどころではない。緊急事態だ。


「……っ!」


 すぐさま植物部屋を飛び出し、燃えカス部屋へ飛び込む。後ろから、反応が遅れて付いてくるリアたちの気配を感じながら、部屋を見回す。中は相変わらず焦げ跡だらけで、迂闊に触れば崩れ落ちそうな燃えカスしか残っていない。中を隅々まで改めるが、どこにも目立つ色彩のジルニク君はいない……。


 ――ジルニク君が、成仏してしまった。

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