閑話 セカイがコダマする
今回長いです。
ついでに色んなキャラでごちゃごちゃします。
以上。どうぞ!
燃えるように綺麗な赤髪をボサボサと台無しにするガサツな大女と、美しく癖のない綺麗なストレートで白髪の少女……のような見た目詐欺師がいた。何を隠そう頭が痛いことに自らの少ない古き友人だ。
二人の友人は武器を手に向かい合い……もとい、マリアがジュリアにカタナという剣を一方的に突き付け、一触即発の空気のまま時間が止まったように動かずそこにいた。
――そもそもだ。今日は、魔演武場の観客席で久々の休暇を楽しもうと試合観戦していただけだ。とばっちりも甚だしい。
事の始まりはジュリアたちと楽しめそうな試合をいくつか観戦して、そろそろ解散しようとした時だ。だが、ジュリアが――
『――おい。次の試合、優勝最有力候補ペア同士で当たるってよ! 見てこうぜ……!』
……と。豪快で光り輝く純粋な笑顔の誘いから裏は読み取れず、ジュリアの謳い文句に興味が湧いてしまったのが運の尽き。
久々の休暇でやはり気が緩んでいたのか、疑問も抱かずに観戦しに行ってしまった過去の己を、戻れるならすぐにでも回れ右して帰れと、罠に決まっているだろうと、滔々と説教したいところだ。
その試合で、まさかの事態に遭遇するとは思い至らなかった。いや、そもそもジュリアの情報源は最終的にマリア経由だ。完全に計算づくで巻き込まれたといってもいい。最悪だ。
――それにしてもまさかあの子がソレだとは気付かなかったな。……仕方ないことだが。
それで粛々と目配せされた分の仕事を終えて来てみれば、面倒くさいことこの上ない状況になっているとは全くもってついていない。
しかしさすがに今の沈黙する周囲の状況下でいつまでもそのままでいる訳にはいかず、仕方なく自らが仲裁をかって出ることにする。……場合によっては迷わずジュリアを犠牲にするが。
「――それで? これはどういう状況か」
「見ての通りよ」
不快感一杯に鼻を鳴らしながらジュリアの首元にカタナを強く押し込めるマリア。あと少しでも押せば首を簡単に飛ばしてしまいそうだ。ジュリアが青褪めた。
「待て待て待て待て待ってくれっ……!」
「待たない」
「ちょっと落ち着こう! な!?」
詳しい理由は不明だが、どうやらジュリアがマリアの機嫌をかなり損ねたらしい。マリアは見た目と口調に騙されがちだが、割と短気だ。
となればガサツで無神経なジュリアが毎回マリアを無意識に怒らせるのは風物詩のようなもの。自明の理なので、特に気にすることなく次の疑問を呈す。
「そうか。理解した。――それで、わざわざ我らを呼びつけた原因はどうなった」
原因について思い馳せたのか、一見落ち着いた様子に戻ったマリアはジュリアの首ギリギリにあった刀をどこぞの異空間にしまい込みながら答える。ジュリアがホッと安心したように息を吐いた。命拾いしたな。
「――無事よ」
今はここにいないもう一人のおかげでそれほど心配はしていないが、マリアからも無事を聞けて心底安心した。万が一があれば大惨事だからな。……これからさらに大変になるのが憂鬱だが。
「……今はシェルアリアシィエレェラシェスカが診てくれてるわ」
マリアが頼りになるもう一人の古き友人の名を、光が消えた空虚な黒曜石より暗く闇深い目で告げる。マリアがこうなることはたまにあることだ。
シェルアリアシィエレェラシェスカ――もとい、長いので愛称でシエルと周囲は呼んでいる。愛称で浸透してしまった今、むしろ周囲がシエル本来の名を覚えているかどうかすら怪しいものだが――は我らがマリアに会った時には既にマリアとは古い知人であった。
――だが、マリアが本人の前ひいては本人が居なくともシエルを愛称で呼んだことは記憶の限り一度もない。
シエルも容認しているのか、特に何も言わない。ただ、こうなるマリアを見て困ったような、嬉しいような、泣きたいような、複雑な表情で沈黙を通すだけなのである。
二人以外の誰も詳細は知らないが、二人の間で何かがある、いや、あったのは二人の間にたまに漂う重苦しい空気が雄弁に物語っている。察するなというほうが無理がある。
……と、考えに耽ていた矢先に。ジュリアが先程の出来事も彼方に忘れ去り、けろりとした表情で余計な一言をマリアに言ってしまう。
「マリアお前……良く噛まずにあいつの呪文みてぇに長ったらしい名前を言えるよな……」
「「…………」」
……相も変わらず、ただの命知らずだったようだ。思わず澄み渡る天を仰ぐ。絶叫日和だな。……耳栓は忘れてしまったか。非常に残念だ。
ジュリアの感心したような言葉に、一度は一時的に落ち着いた風のマリアは一瞬前までの深淵を潜めた。が、それもすぐに先程とは対照的なキラキラしい笑顔に変わる。
それはもうキラキラしい晴れ晴れとした笑顔のまま、どこぞの異空間にしまったはずのカタナを取り出し再度構えたかと思うと、神速の一振りを前振りなくジュリアの首めがけて一部の狂いなく繰り出した。
「――ちょぉっ!? あっぶねえ……! 掠っ……」
「……黙りなさい」
分かりやすい殺気に気付いて反応したジュリアが命からがら距離を取る。しかし攻撃を紙一重で回避しながら、何故自らが攻撃されているのか理解不能といった表情である。
マリアの繰り出す死撃ひとつひとつを避けることの出来る高い戦闘センスは驚異的にずば抜け称賛に値するが、空気を読むセンスは残念ながら比例するように壊滅的だ。心底残念な友人である。
「うおぅ!? ――褒めただけだろ?! オレ今、褒めただけだろーがっ……!?」
文字通り必死にマリアの死撃をギリギリ躱し続けるジュリア。確かにジュリアの言葉だけをとればそうかもしれないが、二人の関係性という肝心な部分が見えていないのは何年経とうと相変わらずのようだ。
「相変わらずだな、ジュリア」
「レイナてめぇ、見てねーで助けてくれよ!?」
「断る」
「即答かよ!? てうおっ!?」
マリアのかつてない焦り様に一時は世界の終わりかと強い緊迫感と共に焦ったが、輝かしい笑顔で容赦なくジュリアを殺しにかかるマリアと、ひぃひぃと大きな悲鳴を上げる隙なく死撃を紙一重で避けまくるジュリアという久々の日常を見て気が抜けた。
……今日も平和で何よりだ。
◇◆◇◆◇
砂塵が舞う、見渡す地平線まで限りなく果てがない地上の死海に、ひとつの人影が差していた。その陰意外、周辺に人影、もとい生物は無く、唯一の生物である影の主が移動するとともにゆらゆらと砂の海をひとつだけ蠢いていた。
――――√╲____……
「――――」
――ふと、影は前触れなく動きを止め、当の影の主はまるで何かに気付いたようにある方角へと視線をぴったりと固定した。
「――あぁ、面倒だなぁ~……」
気の抜けるようなやる気のない呟きとは裏腹に、その眼差しは眼光鋭く、憎々し気に、怒りを強くはらんで、自らが固定した方角へ注がれ続けるのであった――。
◇◆◇◆◇
「――ところでレイナ。首尾はどうかしら?」
――チャキ
静かに鞘へカタナを仕舞う音とともに、汗一つかかず、息も上がっていないマリアがこちらへ向き直った。相も変わらず衰えていないようだ。感服しきりである。
「ああ。……間に合わせだが、なんとかこの周囲は隔離した。だが、分かっていると思うが、一瞬だったとはいえ厄介なやつらに分かる程度の隙はあったがな」
「――そう。……もう、そのことは仕方ないわね。いずれ悟られるにしろ、今なら全く問題ないわ」
そう言うと、カタナを異空間に放り投げるようにしまう。その傍らには回復の為に本能的に気配を極力消しているが、血走った眼と荒い息で地に膝をつくジュリアが居た。
本来のジュリアなら仰向けに大の字で寝っ転がりそうなものだが、さすがに自重したのか、マリアの油断させた後の追撃を警戒しているのか、膝をつくに留めていた。
今回もなんとか凌ぎ逃げ切ったようで身体的な外傷は見受けられないが、神経を擦り減らす連撃を紙一重で躱し続けた精神的疲労は推して知るべし。毎度のお約束とはいえ、こちらにもある意味感服するな。
何故こうも学習能力が低いのか甚だ疑問であるが、前にも何故マリアが毎回怒るか全く見当がつかないと宣っていたことを知っている身としてはただただ毎回憐れむばかりである。
「そうか。ジュリアの二の舞かと一応身構えてたんだがな」
「あら? 何を言っているのレイナ。あなたはいつでも最善を尽くしているでしょう。何故あなたに怒る必要があるのかしら?」
心底不思議そうにこちらを見るマリアの様子からひとまず二の舞は無いと安心する。今までに多少の目溢しはされてきた経験はあるが、今回に限ってはマリアも余裕が無かったために何かしら罰を受けると思っていたのだがな。
「お、おい! それじゃあオレは斬られ損じゃねーか!」
……黙っていればいいものを。
そもそもかすり傷すら負ってないというに何を言うか……。いつの間にか息を整えていたのが仇になったのか、ジュリアは自身の二の舞を被るという不可思議な状況に自ら率先して陥った。
「――そう。本当に真っ二つになりたいようね」
何度も出し入れされてカタナも迷惑だろう。こちらも話が進まず迷惑なのは同感だ。己の迂闊さに遅まきながら気付いたのか、今更サァーッと青褪めて逃げ腰のジュリアに慈悲は無し。
この際とことん極上の恐怖を味わうがいい。ジュリア以外は遠慮以前に即死するだろうがな。
「ふふふ……どう捌こうかしら?」
マリアの静かな笑い声が恐怖を煽る。こちらには無害だが、念のため距離を取っておく。さっさと成仏してくれ。
――第二の追いかけっこが強制発動した。
◇◆◇◆◇
――とある晩餐会が催されていた。
一筋の光も差し込まない室内でゆらゆらと不気味に揺らめくろうそくのみが光源となり、晩餐に集う者を薄気味悪く照らしていた。
そこに集まった者たちは特に何か話をするわけではなく、黙々と味のしない食事を摂るに専念するだけであった。早く終わってくれないかと思いながら。
古式ゆかしいといえば聞こえはいいが、形式に雁字搦めの食事は喉に詰まると思う参加者は割と多かった。
――――√╲____……
「「「「「「「「――――」」」」」」」」
「――目覚めた」
そんないつも以上の沈黙の中でふと、皆の動きが固まった。その隙をつくように一番の上座に居た者が顔を上げハッキリと周囲に向けて発言した。
「……いや、目覚めかけた、が正しいかな」
暗闇の中で照らされたその顔は薄気味悪い微笑を浮かべていた。いつからそう思うようになったのだろうか。
「どう思う、――ファル?」
誰も我知らずと反応を示さないなか、真っ先にこちらへ聞いて来るとは性格が歪んでる。答えずとも知っていると言ったも同然だとファルは思いながら無関心を装い答える。
「……どうも思わないのですよ。所詮、神のみぞ知ることなのですよ」
こちらの答えは予想済み。となれば、次は案の定片割れに視線が向けられる。――そう、先程不自然に挙動不審になったおバカさんへ。……頭が痛い。
「ニマ?」
「そそそ、そうなのじゃ! 紙の味噌汁はペラペラなのじゃ!」
――……頭痛が痛い。
「……それはなんというか、うん、まずそうだね……」
さすがに分かりやすいとはいえ、おバカから言質は取れまい。先程まで薄気味悪いとさえ思っていた微笑を引き攣るような微笑へ早変わりさせるとは、ある意味才能と言えなくも無いとファルは内心妹のおバカさを褒めた。
「――いいではありませんか、どうでも。その時は望むとも望まずともいずれ来ますから。そうですよね?」
見兼ねたのか、静寂を邪魔されたのが気に食わないのかは定かではないが、比較的上座に近い位置から神経質に尖った声が鋭くその場に集った者達に向かって響く。
「ああー、うん。まあ、うん。一票」
先陣を切って適当に答える者がひとり。同意の声があがった斜め向かいの位置に目線を向けると、豪奢なテーブルの飾りを意に介さず、のびのびと突っ伏していた。
今日集まったなかでも最もやる気ゼロであり、さらに言えば体裁も何も関係なく、到着早々に最も身体で早く終わってくれないかと示しすように突っ伏していたひとり。
「俺様もどうでもいいな」
続くように隅で大量の料理を黙々と消化していた一人も一応と声を上げたが、その手は次々と料理皿をとっかえひっかえしており、この議題に対して本当に関心のひとつも寄せていないようだった。
「えぇ? でもねぇ、目が覚めてたらぁ、ひさびさにぃ、遊びたいかなぁ?」
反対に、話をぶった切るように可愛らしい猫なで声で、マイペースに間延びしながらも自分勝手に答える者が一人参戦。
「――あら、そうね。もし目が覚めたのなら放置もいいけれど、遊ぶのもいいわよね。うんうん。迷うわね」
それぞれが声を上げ始める中、これまた上座に比較的近い位置より急に興味を持ったように楽しそうな声が上がる。
楽しそう、といっても。両手で頬杖をつきながら頬を上気させる仕草は見る者を魅了する妖艶さであり、しかしその目は純真な子どものように輝いているせいか無垢な表情でもある。
さらに言えば聞く者が悩ましいと感じる溜息を吐きながら、無邪気に発言するアンバランスさは見る者を魅了する魔性があった。
普段は興味の欠片も示さないのに今回は違うのかと、ファルは冷静にそれぞれの反応をつぶさに観察していた。……たとえそれがきっかけを作った主の誘導と知っていながら。
――しかしそろそろ本当に収集が着かなくなりそうだと、それぞれ夢想し始める周囲の声をちゃっかり記憶しながらファルは遠く空虚を見つめた。
「…………ぁ」
「――そうだね。みんな気になるだろうけど、まだ目覚めには早いようだから、今は見てるだけにしようか」
「「「「「「「――――」」」」」」
「…………」
ファルに気遣った訳ではないだろうが、既定路線ともいうべきやり取りの間を見て、最初に疑問を上げた上座の主がいつになくざわついた場を遮るように一声で制す。
「その通りですね」
「まあ、お兄様がそう言うなら……」
「……(コクコク)」
沈黙を破るように、上座に最も近い二人が同意を示す。長女と次女だった。それに続くように今まで参戦できず沈黙していた次男が首定した。
「……あたくしたちはもとよりそのつもりなのですよ」
「そうじゃそうじゃあぃたたたたた……っ!?」
「……ニマがあたくしといつも同じなのは皆知っているはずなのですよ」
余計な事を言われる前に、近くにあったおバカさんの耳を引っ張り上げながら代わりに答える。やれやれ、後で拷問のような躾でもするかとファルは本気で考えていたりした。
「ふーん……ふーん……まあ、うん、うん」
三男が何に納得したのか適当に頷いて了解する。相も変わらずやる気のない男だとファルは呆れた。稀に見る油断ならない見掛け倒しの男だと、そこにいる全員が当然のように知っていた。
「うっそぉ? もぅ、でもぉ、仕方ないかぁ……」
若干落ち込んだように五女が呟く。この場においての優先事項決定権は当の昔に決められ定められている不変であるため、そもそも説得材料もないのに意見を変えさせるなど不可能。
単なる妹の落胆する姿だけでは心動かされるはずもない。そういう決まりなのだ。そもそもファルにとっては都合がいいので覆らせる手伝いをする必要も無いと切り捨てていた。
「ま、そういうこったな」
最後に、慰めるわけではなく五男が軽く同意の声を上げる。おかげで五女に睨まれたが、やはり我関せず大量の料理消化に集中、勤しんでいた。
「――良かった。それでは晩餐会の続きをしようか」
全員が同意したのを確認したところで、これ以上の問答は不要とばかりに薄気味悪い微笑を浮かべて告げられる。
黙々と、淡々と、誰一人声を発しない晩餐会の続き。早く終わってくれないだろうかと思うのは半数以上であった――。
◇◆◇◆◇
白金色の髪を複雑に編み込み、優雅に背に垂れさせる美女が、慈しみを込めた微笑みをこちらへ向けてゆっくりと歩み寄ってくる。その姿は神聖な空気を滲ませており、侵し難い聖域と化していた。
いち早く気づいていたマリアが、周囲の跪きたい衝動など関係ないとばかりにスタスタと無遠慮に近づき直接問いかける。
「シェルアリアシィエレェラシェスカ、早かったわね。結果はどう?」
「今のところ特に問題ありませんわ、マリア」
「そう……」
染み渡るように心地のいい響きの声でシエルがマリアへ答える。二人が並べば余計に神聖さという空気が辺りを充満する。この場面だけを切り取れば、二人が微妙な関係であると誰が思おうか。
「ところで……」
マリアがシエルの答えに満足するとシエルは報告は終わったと判断し、最初から気になっていたのか否か、地面を気にするように目線を向けて何か言いたげに困った、という表情を浮かべてこちらに確認をとる。
「あの死体は処理してしまっても良いのですか……?」
「死んでねぇよ!?」
シエルが近付く今の今までマリアから死に物狂いで逃げ回っていた屍が、ガバッ! という効果音がつきそうな俊敏さで上体を起こし、目をかっぴろげてシエルに反論した。
「まあ……ご無事でしたかジュリア」
「無事に見えたかっ?! なあ、無事に見えたか……?!」
「いいえ。まったく」
何があったのか察したのか、憐れむような視線で無事を確認するシエル。ジュリアの見た目は確かに無傷ではあるが、この場合は精神的なダメージのことを言っていると思われた。
サッとジュリアの精神疲労を見抜いたのか、シエルはジュリアに近付くと前触れなく頭に手を置く。
するとジュリアの全身が淡い光に包まれてジュリアが殴りたくなるマヌケ面になる。シエルの二度手間なので殴らないが。
「……ジュリア、あなた今回の責任をとって不安定なアレ、完成させておいてくれない?」
「は?」
マヌケ面でシエルに治療してもらっていたジュリアがマリアからの課題でアホ面になった。おそらくマリアを怒らせた責任という名目で最初からやらせるつもりだったんだろうが、ジュリアは気付かない。
「いいわね?」
「な、な、んな無茶な……」
「いいわね?」
「んぐっ……」
若干抵抗を試みたものの、マリアが笑みを深めて念押しすることで悟ったのか、嫌そうに喉を詰まらせた。さらに畳みかけるようにマリアが言伝を頼んでいる様子を後目に、いつのまにか横に移動してきたシエルに尋ねる。
「……今回は怒りが深いな。いったい何をしたんだ?」
「レイナは見ていませんでしたね。ジュリアの悪い癖が出たのです」
残念な子どもを憐れむような目でマリアから言い含められるジュリアを見ながらシエルがさらに補足する。
「あの子を気絶させるだけで良かったというのに、私情で無駄に長引かせてしまったこと。さらには手加減を忘れ、結果不必要な大怪我を負わせてしまったためマリアは激怒したのでしょう」
「……なるほど」
納得の自業自得であった。
「私がすぐにでも治療に入らなければ、ここ一帯がジュリアを除きマリアの怒りによって消し飛んだでしょう」
「…………」
……納得の自業自得であった。
「ひぃ!? うっそだろぉ!?」
「自業自得よ、観念なさい」
いいぞ、もっと締め上げろ、と外野から内心ヤジを飛ばすレイナであった。
◇◆◇◆◇
とある森深くにて、陽の光を遮る高さの木々が鬱蒼としげる深い闇の中を、二人の男が足取り確かに歩いていた。
――――√╲____……
「あれ」
そのうちのひとりが何かに気付いたように足を止める。
「……今度はどうしたでござる」
足を止めた男につられて、止まったもう一人の男が振り返り訪ねる。その声音は普段の相手の突拍子の無さを想えば片目の、隻眼の男にとっては当たり前のように警戒心が多分に含まれていた。
「……いや、うーん。お腹空いたのかも」
「…………」
最初に足を止めた男が笑って誤魔化すと、隻眼の男は注意深く誤魔化し笑いを浮かべる男を観察したが、普段の大食らいを思い出してすぐに納得した。
「……暫し早いが仕方なし。拙者手製の弁当を用意するでござる」
「わーい、ありがとー」
隻眼の男は怖い見た目に似合わず、かなり家庭的であった。
「――確かに予定より早いけど、とても嬉しいよ」
シートを敷いて重箱を取り出す隻眼の男を見て答える言葉は、隻眼の男とは関係ない場所へ向けた。人知れず零れた男の本音であった。
◇◆◇◆◇
――――√╲____……
「――消えた」
読んでいたつまらない本を閉じ、近くの机に放り投げ、美しく輝きを放つ白金色の髪をかき上げた。
妖精のように可憐で儚く美しい容姿とは相まって、苛立ちも露わな仕草は妙な色気を醸し出している。
誰も居ないのをいいことに外面は完全に外れていた。そもそも本人の関心はもとよりひとつにしかなかった。執着であり、終着であった。
「……また、消えた――」
――その心は常に、最も遠い場所に向かっていた。
なっっっっっっっが!!(書き終わった後の作者)
作「(本当はもう少し長くなる予定だったけどカットしたと言いづらい長さ)」
次回、アイたちの次の試合です!たぶん!