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コンプレックスシリーズ

桃太郎コンプレックス〜桃太郎と十二支の末裔〜

 むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。働き者の二人は毎日休まず働いていました。


 澄みわたる空は濃い青色で、おひさまが輝いたぽかぽか日和。この日もおじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。



 おばあさんが川で洗濯をしていると、ドンブラコ、ドンブラコと、大きな桃が流れてきました。


「ありゃま!なんて大きな桃でしょう!!」

 おばあさんは大きな桃をひろいあげて、家に持ち帰りました。


「美味しそうな桃だなぁ!!」

 柴刈りから帰ってきたおじいさんは大きな桃を見てとても喜びました。


「おばあさん、実はわしもお土産があるんじゃ」

 おじいさんが拾ってきた薪の山の隣には一つのかごがあり、おじいさんはそれを抱えておばあさんに渡しました。


「おやまあ!こりゃあたまげた!!」

 かごの中にはすやすやと眠る可愛らしい赤子が入っていたのです。

 おじいさんが山で見つけてきた、というとおばあさんは少し悲しい顔をして「この子には親がいないんだろうね……」と言いました。静かにうなずいたおじいさんに、おばあさんは「この子は今日から私たちの子だよ」と優しげに笑いました。


 二人には子どもがなかったので二人は赤子を桃太郎と名付け、それはそれは可愛がりました。

 もちろん、桃はおじいさんとおばあさんが美味しくいただきました。




 さてさて、すくすくと育ち、たちまち青年となった桃太郎。ある時、彼は思いました。

 ーー僕は誰の役にも立っていない。このままでいいのだろうか?


 そんなとき、おじいさんとおばあさんのもとへ商人が生活必需品を売りに来ました。



「すみません。今回は商品が少なくて。最近、いろんな村へ盗賊が現れて盗みを働いていて、品物が上手く回っていないんです」


 これを聞いた桃太郎は「僕が退治しにいく!」とすぐに決めてしまいます。これに驚いたのはおじいさんとおばあさん。危ないからやめるんだと桃太郎に説得を試みますが、桃太郎の決意は少しも揺らぎません。


「あんたは人より力が強いわけでも、賢いわけでもない。体術の技術もない。それでも行くのかい?」


「ですが、おばあさん。今、みんなは困っています。盗賊退治だって、僕がやらなければ誰もやらないかもしれません」

 桃太郎は困っている人々を放ってはおけないと思いました。


「私が世界一強い刀をお譲りしましょう」

 商人の協力もあり、桃太郎の盗賊退治が決まりました。

 一度帰って刀を持ってきた商人は警備隊のお偉いさんを連れていてこう言いました。


「これは我が鼠森商会に伝わる最強の刀です。きっとあなたの役に立つでしょう」


 警備隊のお偉いさんも続けて話します。

「私たち警備隊が力不足なばかりに、申し訳ない。盗賊には懸賞金がかけられている。私からも牛嶋家に伝わる勝利ののぼり旗を贈ろう。そこに名前を書けば勝利は間違いない」


 桃太郎はそれらをありがたく受け取り、旅の準備をしました。乗り気ではなかったおじいさんとおばあさんも桃太郎のためにきびだんごを作り、桃太郎に渡しました。


「気をつけるんだよ。必ず生きて戻っておいで」


「一人は危ない。頼れる仲間を探しなさい」


 桃太郎は「わかりました!!」と元気よく答え、旅に出ました。



 旅に出ると、桃太郎は顔見知りに次々と声をかけられます。


「桃太郎!どこへ行くんだい?」

 虎田のおばさんに話しかけられ、桃太郎は答えます。

「盗賊退治です!」


 そう言うと、おばさんは「そうかい!」と笑って立派なはちまきをくれました。頭にぎゅっと巻くと気持ちが引き締まります。



 歩き出してしばらくたたないうちに、桃太郎は卯佐見のお姉さんに会います。


「どこへ向かっているのかしら?」

 桃太郎は「盗賊の根城のある鬼ヶ島に」と答えます。

「あらぁ、それはすごいわ」

 情報通なお姉さんは鬼ヶ島までの地図を書いてくれました。実は桃太郎は進む道がわかっていなかったのです。

「助かりました」

 そう言うと桃太郎は旅を続けました。



 桃太郎は辰巳財閥のお嬢さんに会いました。桃太郎は彼女とは初対面でした。


「あなたはお侍さまなの?その割には鎧が無いようだけど……」

 事情を話すとお嬢さんはお金に物を言わせて丈夫な鎧をもたせてくれました。

「ありがとう!」

 お嬢さんに「頑張ってね」と送り出されます。



 その後に会った馬林のおじいさんは書道が上手だと有名だったので、持っていたのぼり旗に『世界一の桃太郎』と書いてもらいました。


 また、羊山のお兄さんは寒くないようにと陣羽織をくれました。



 しばらく歩いていくと、猿渡に会いました。彼女は桃太郎の数少ない友人の一人でしたので、桃太郎は頼みます。


「どうか僕と一緒に盗賊退治に行ってくれないだろうか」

 彼女はすぐさまうなずきます。


「ありがとう。お礼にこのきびだんごを……」

 桃太郎の言葉に彼女は首を横に振ります。

「いらないよ。私たち、友達でしょう?」

 桃太郎はいい友達を持って幸せだ、と思いました。



 桃太郎は旅に出ようとしますが、猿渡は「まだ仲間を探そうよ」と言います。もう一人くらいいたほうが心強いよ、と。桃太郎はそれもそうだと思ったので、もう一人、仲間を探すことにしました。


 きょろきょろしながら歩いていると、二人は友人の鳥之宮を見つけました。ツンツン頭の鳥之宮です。


「おーい!鳥之宮ー!」

「とりのみやー!!」

 二人は鳥之宮に事情を話し、見事に仲間にしました。


「お礼にきびだんごを……」

 桃太郎がきびだんごを差し出そうとすると、鳥之宮は必要ないと言います。

「友達を助けるのは当たり前のことだよ」

 桃太郎は友達っていいなと思いました。


「さあ行こう!鬼ヶ島へ!!」

 まだ家からそんなに離れていないので、早く村を出ないといけません。



 村を出ると、後ろから門番のおじさんが走ってきました。


「あれ?門番さん何か用?」

 桃太郎が問いかけると、門番さんは言います。

「子供だけだと心配だ。俺も行く」

「もう子供じゃない!」と言い返すと、「それでも心配なんだ」と言われました。


「俺は犬崎という。よろしくな!」

 桃太郎は求められる握手に答えると、こう言いました。

「きびだんご、いらない?おばあさんが作ってくれたもので、世界一美味しいんだ」

 犬崎のおじさんは少し考えたあとで言います。

「いらない。鬼ヶ島には盗賊に捕らえられた人たちがいるはずだ。彼らにあげてくれ」


 こうして桃太郎には三人目の仲間ができました。



 四人で旅に出て一週間。ついに目的地へたどり着きました。鬼ヶ島に一番近い村です。村の中へ入ると、村はさびれていて、人の気配がありません。


「おーい!!誰かいませんかー!!」

 桃太郎は困ります。鬼ヶ島へ行くには、海を渡らなければなりません。そして、船を用意してもらわなければ海を渡れないのです。

 桃太郎は「鬼ヶ島へ盗賊退治に行くんです!協力してください!」とさけびます。すると、物陰から一人の女の子が飛び出してきました。


「それ、ほんと?」

 女の子はぬいぐるみを抱えています。それも珍しい事に桃のぬいぐるみです。

「ああ、本当だ!僕は桃太郎!盗賊退治は僕に任せてくれ!!」

 桃太郎の言葉に女の子はにこりと笑います。

「わかった!じゃあ、桃太郎さんにこのぬいぐるみあげるね。これ、お気に入りなんだけど、桃太郎さんが持っていたほうがいいと思うから」


 女の子はそれから、村人の一人に船を出してくれるようにお願いしてくれました。

「猫沢のおじさん、桃太郎さんに船を出してあげて!」

 村人はしぶりましたが、女の子の必死の説得にようやく首を縦に振りました。

「猪野の嬢ちゃんがそう言うなら……」

 女の子は桃太郎にお別れをいいます。


「桃太郎さん、きっと盗賊たちを退治してきてくださいね!おじさんの船は沈まないと評判なんですよ!おじさんは三毛猫の子孫だから!」



 猫沢さんの船で無事に鬼ヶ島についた桃太郎たち。鬼ヶ島では、盗賊たちが村からぬすんだ宝物やごちそうをならべて、酒盛りの真っ最中です。桃太郎たちは盗賊たちを逃がさず捉えるために、盗賊たちが眠るのを待って奇襲することにしました。


 桃太郎の作戦は見事に成功しました。盗賊たちが眠っているうちに、残らずみんな縛りあげてしまったのです。



 桃太郎は捉えられていた人たちを助け出し、お腹をすかせた人にはきびだんごを与え、盗賊の溜め込んでいたお宝を回収しました。それらは盗品なので、もちろんすべて持ち主に返しました。


 桃太郎と犬崎と猿渡と鳥之宮は盗賊退治の賞金を持って元気よく家に帰りました。

 おじいさんとおばあさんは、桃太郎の無事な姿を見て大喜びです。


 そして……、四人は賞金を村と村人たちのために使い、みんなで幸せに暮らしましたとさ。



 また、後日談ではありますが、桃太郎が持って帰ってきた桃のぬいぐるみが中は空洞で、開け閉めできることを知ったおじいさんとおばあさんは、可愛い赤ん坊のぬいぐるみを作りました。

 それを桃のぬいぐるみの中に大事に入れたため、桃太郎は『桃から生まれた桃太郎』として後世に語り継がれてしまったのでした。

読んでくださってありがとうございます!

表現の違和感、誤字脱字等は発見次第連絡をしていただけると嬉しいです。感想も常時募集中です!


追伸:ちなみに「桃太郎コンプレックス」は存在しません!「救世主メサイアコンプレックス」よりちょっと弱めなイメージです。


この作品の桃太郎は強くもなく、装備もないのに「みんなを助けたい」と救世主じみた思いをいだきます。

まわりが助けてくれるのでなんとかなったんですけどね(笑)


桃太郎『さすがに人間は桃から生まれないよね……普通……』


船を出してくれるならやっぱ猫でしよ!という作者の独断と偏見より、猫沢のおじさんが登場しております。適当に作りました、猫沢さん。十二のお助け村人(お助けマン)を登場させたかったので、猫沢さんが登場した分、辰巳財閥のお嬢さんは辰と巳の両方の設定を盛りこんでしまいました。


✡ベトナムではうさぎの代わりに猫年があるそうですよ!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです。 最後にネコがツボ。 十二支にいない…… 優しい話でしたね。 [気になる点] ネズミは無事かな? [一言] 実は私も桃太郎のパロディを 干支で他の動物も交えて作りたく、 …
[良い点] 誰もが知っている桃太郎というお話に対して、ありさん独自のコミカルな書き方でリプレースされています。 道中が軽快なリズムで進んでいくため、わたしはいつしか大切なことを忘れていました。そうです…
2018/11/28 18:55 退会済み
管理
[良い点] 面白かったです。 [気になる点] 羊はいましたっけ?
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