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Amnesia Doll  作者: 黒宮杳騏
9/22

Ⅸ 日記

最近、夢見が悪い。

夜中や明け方に目が覚めると、それから眠れなくなって、結局睡眠不足でもう一泊、というパターンが増えてきた。

お兄ちゃんに起こされる前に目が覚めるというのは喜ばしいことなのかも知れないけれど、そもそもお兄ちゃんは睡眠を必要としないのだから張り合う意味がない。


夢の内容をよく覚えていないので本当かどうか分からないけれど、しょっちゅう心配そうな顔をして私を無理矢理叩き起こすお兄ちゃんは「うなされていた」と言うのだから、多分思い出せない方が幸せな夢なんだろう。


私が眠っている間に見ている夢は、お兄ちゃんも見えない『左目(ハダリー)』を通して視ている。

私を起こすお兄ちゃんの、どこか淋しそうな辛そうな表情を見ると、私は自分が見た夢を覚えていないのが凄くもどかしくて悲しい。

お兄ちゃんは私と同じ『記憶(もの)』でできているのに、私はお兄ちゃんにインプットするだけで、お兄ちゃんが私にアウトプットすることはない。

それでも、最初は本当にただの『空っぽな人形(スワンプマン)』だったお兄ちゃんが、長い時間をかけてクオリアを得て自然に笑うようになったのは、決して『水槽の中の脳(わたし)』が見ている幻想ではないと思う。

お兄ちゃんが私を認識してくれる限り、私は『水槽の中の脳』ではなく、肉体を持ち実在する私でいられるから。


お兄ちゃんにはずっと傍にいて欲しい。それは私のためでしかないけど、お兄ちゃんは私がいなければ生まれなかったのだから、多少のエゴは許して欲しいと思う。

私にはまだ、お兄ちゃんが必要なのだ。


書き終えた日記を静かに閉じる。

今はお兄ちゃんを眠らせているから思考が読まれる心配はない。こうして日記を書く間だけは、お兄ちゃんに眠っていて貰うのが習慣だ。

私がどれだけお兄ちゃんに依存しているのかが、自分が認識している限り克明に記録してあるそれを他人、ましてやお兄ちゃん本人に見られる訳にはいかない。とは言っても、日記に書かなくても私が自覚してしまっている時点で、お兄ちゃんにも多少なりそれは伝わっているはずだ。

だからお兄ちゃんは私を甘やかす。

私が昔、甘えられなかった分を埋めるように。

『大丈夫』

『傍にいるから』

『もう怖がらなくていいんだ』

そして私は、そんな言葉を吐くお兄ちゃんの優しさに甘えて、結局は更に依存する。泥沼だ。

だからこそ私はガラテイアの森を目指すことにした。

お兄ちゃんが人間になって私と精神的に切り離されれば、こんな関係も少しは改善されるんじゃないかと思って。


この先にどんな悪夢が待っているのかは分からない。

けれど、私はガラテイアの森を目指すと決めた。


そろそろお兄ちゃんが目覚める時間だ。

強制スリープの解除時間はケースバイケースだけど、お兄ちゃんはたいてい3時間くらいで目が覚める。もしお兄ちゃんが目覚めた時に私が起きていたら、きっと心配するだろう。

だから私も、明日に備えてもう寝よう。


どうか、今日は怖い夢を見ませんように。

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