ⅩⅩⅠ 白い部屋
泣き過ぎて頭に鈍い痛みが反響する。
気持ちの整理はつかないままだったけれど、私の涙は止まってしまった。
ぐすぐすと鼻をすすりながら、ぼろぼろの顔を上げてお兄ちゃんと目を合わせる。
「…ひどい顔だな」
そんな冗談にさえ、今はありがたみを感じる。
言葉とは裏腹に、お兄ちゃんの手はどこまでも優しく私の頭を撫でてくれた。
あくまで普段通りに接してくれるお兄ちゃんの優しさに、またしても目の奥が熱くなる。
ここで泣いてしまったら、いつ泣き止むのか自分でも分からない。
だから私は、精一杯の虚勢で言葉を返す。
「…不細工で悪かったわね」
「不細工までは言ってないだろ」
「似たようなものじゃない」
ずずっ、と鼻をすすって言えば、予想外の言葉が飛んできた。
「誰だって泣き顔は似たようなもんだろ。…大丈夫、お前は可愛いよ」
「は?…何それ…」
突然の誉め言葉に、どう反応したらいいのか分からない。
「お前は、可愛い可愛い、俺の『妹』だ」
私の目を見つめ、一言一言、ゆっくりと言い聞かせるように紡がれた言葉が、じんわりと胸の中に広がっていく。
息が苦しくなって、私はお兄ちゃんに勢い良く抱きついた。
だって、この感情を伝える言葉が見つからなかったから。
唯一出てきた言葉は「ありがとう」なんてありふれたものでしかなかったけれど、お兄ちゃんの匂いを胸一杯に吸い込んだ私は、安堵と幸福感で一筋だけ涙を流した。
「どうするか、お決めになりましたか?」
コッペリウスさんの声で、現実に引き戻される。
そうだ、お兄ちゃんのための新しい『核』を探さなければならないんだった。
「…新しい『核』を探します。お兄ちゃんには『ペア』でいて欲しいから」
「そうですか。では、今日はもうお疲れでしょうから、こちらに泊まっていくといい」
「え、でも…」
私はお兄ちゃんと顔を見合わせる。
「客間があります。こちらへどうぞ」
有無を言わさぬコッペリウスさんの様子につられ、私達はコッペリウスさんに続いて部屋を移動した。
「こちらの部屋を使って下さい」
開かれた扉から、半ば押しこめられるようにしてお兄ちゃんと部屋に入る。
「何か必要なものがあれば遠慮なく言って下さい」
そう言い残して、コッペリウスさんは部屋を出ていった。
「…誰かの前であんな風に泣くなんて、恥ずかしい…」
今更過ぎる程に後悔する。
「気にするなって。あれだけ泣いて、少しはすっきりしただろ?」
「でも、まだ怖いよ…?」
「大丈夫、何とかなる。別に、今すぐに俺が動かなくなる訳じゃないんだから」
「うん…」
「心配するな、俺も『核』探しに付き合うから」
「え…手伝ってくれるの?」
「当然だろ、なんたって俺はお前のお兄ちゃんなんだからな」
「…ありがと」
こんな時、お兄ちゃんがいてくれて本当に良かったと思う。
「よし、じゃあ取り敢えず寝るか。お前眠そうな目してるし」
言われてみれば、泣き過ぎて何だか全身まで怠いような気がする。
「…そうだね。取り敢えず寝て、考えるのはそれからでも大丈夫だよね」
「ああ、今は寝てろ」
ベッドに潜り込むと、お兄ちゃんが優しく頭を撫でてくれた。
「お休み…いい夢だといいな」
「うん、ありがと…」
意識に急速に靄がかかって、私は文字通り、気絶するように眠りに落ちた。




