ⅩⅩ 独白
今まで、たくさんの『試練』を受ける人を見てきた。
過去を克服した人がいれば、痛みに負けた人もいる。
当然、精神崩壊した人もいた。
そういう人達は、地下通路で繋がっている隔離病棟へ送られる。
隔離病棟へ収容された大半は、おそらく一生をそこで終えるのだろう。
病棟を出て社会復帰した人がいる、という話は滅多に聞かない。
彼女は『試練』を受ける人達の中では幼い方で、あの苦痛を乗り越えられるかどうかでいえば、正直なところ無理だと思った。
彼女の『ペア』である『彼』の『核』に亀裂が入った瞬間、やはり彼女も隔離病棟へ送られるのだろうと諦めた。
ところが、彼女は最後の最後に抗い、何とか隔離病棟行きを免れた。
人間の持つ希望や可能性、それは最も好奇心をそそられる事象だ。
基本的にこの森から出ない私は、社会から隔離されているという点において、精神に異常をきたした彼等と変わらない。
唯一、決定的に違うのは、私は『仕事』としてこの森にいるということだけ。
私は『森の賢者』などと呼ばれているが、それはまったく違う。
この森を訪れる者へ『試練』を与え、そして結果を見届け、『管理局』へ報告する。
この森が、そして私が世間から隔絶されている、という認識は間違っているのだ。
私の本当の肩書きは『管理局』の職員、もっと詳しく言えば『審査員』なのだから。




