ⅩⅧ 余命宣告
どれだけ泣いただろうか。
お兄ちゃんの服を涙で濡らした私は、ようやくおさまってきた涙を自分の服の袖でごしごしと拭ってから、再びコッペリウスさんへ向き直る。
「あの、お見苦しいところをお見せしてすみません…」
「構いませんよ。あの試練を受けた人は、合否を問わずたいていこうなりますから」
慣れた様子で微笑むコッペリウスさんは、その言葉通り動じることもなく、ただ私が泣き止むまで待ってくれていた。
「私…これからどうなるんでしょうか?」
もしかしたら『核』にヒビが入ってしまったお兄ちゃんとは引き離されるのではないかと不安になり、恐る恐る尋ねる。
「具体的にどうなる、ということでしたら、心配しなくても大丈夫ですよ」
「じゃあ、お兄ちゃんと離ればなれになったりしなくてすむんですか?」
「はい」
その言葉に、ほっと胸を撫で下ろす。
「…よかった…」
思わず漏れた呟きに、「ですが」と残念そうにコッペリウスさんが続けた。
「亀裂の入ったその『核』では、先は長くないでしょう」
冷水を浴びせられたように、心臓がどくんと跳ねた気がした。
「…どういうこと、ですか?」
「そのままの意味です。耐用年数が一気に縮んだ、と言えばいいのでしょうか。彼はもうすぐ『ペア』としての役割を果たせなくなる。それまでに新しい『ペア』を探すか、あるいは彼の『核』を別の『核』に交換するか…それはあなたが選ぶことですが、どちらにせよ、今のままではそう長くありません」
思わずお兄ちゃんを見ると、まるですべて分かっていたかのように平然としていた。
「お兄ちゃん…もしかして知ってたの…?」
「…まあ、何となくな」
嘘だ、と思った。
お兄ちゃんは私に何か隠しごとがある時、視線が上向きに泳ぐ癖がある。
きっと、最初から全部知っていたんだ。
だからここにくるのに反対していたんだ。
そう考えると、私はなんて愚かだったんだろうと、今更ながら後悔する。
「ごめん…ごめんね、お兄ちゃん…ごめんなさい」
やっと止まった涙がまた溢れだして、ぽろぽろと頬を伝い滑り落ちた。
「こら、泣くなって…」
困り顔のお兄ちゃんが、優しく私の頭を撫でる。
「だって…お兄ちゃん、知ってて止めなかったから…私の我が儘でお兄ちゃん振り回して、それでも何も言わずにいてくれて…なのに私、何も知らないで甘えてばっかりで…」
もしも時間を戻せるなら、旅に出たいと言ったあの時に戻りたい。
そして、『普通』に暮らしていることがどれだけ幸せなことなのか、過去の自分に知らせてやりたい。
新しい『ペア』なんて考えたくもなくて、『核』になりそうなものはないか懸命に考える。
私には、今こうして目の前にいる『お兄ちゃん』こそが必要なのだから。