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Amnesia Doll  作者: 黒宮杳騏
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ⅩⅢ 不安

あいつがコッペリウスに連れられて扉の向こうに消えてから、もうどれくらい経ったのだろう。

時計を見ようにも、おそらく意図的に置かれていないらしいそれは探すだけ無駄のようだ。

柔らかすぎるソファーが心許なく、俺の不安を助長させている。


ようやく扉が開いたと思えば、中からはコッペリウスだけが出てきて、あいつの姿はない。

「あいつはどうした?」

「試練の真っ最中ですよ。気が散るといけないので、いつも私は準備だけして部屋を出るんです」

コッペリウスがソファーに座り、しばしの沈黙。

「試練っていうのは、具体的に何なんだ?」

俺の質問に、意外だとでも言いた気にコッペリウスの眉がわずかに上がる。

「貴方が知らないはずはないでしょう。…簡潔に言ってしまえば、トラウマの克服ですよ」

「この森に近付くほど良くない過去を夢に見たが、あれじゃ足りないっていうのか」

「それだけでは足りませんね」

コッペリウスはテーブルの上にある飲みかけの紅茶を一口飲むと、「すっかり冷めてしまいましたね」と呟き、紅茶を淹れ直そうと席を立つ。


もちろん、『トラウマの克服』が試練だということは知っていた。

けれど、この森に辿り着くまでに充分なほど過去(トラウマ)の夢は見てきた。

それでも不充分だというなら、この試練というのはどれほど過酷なものなのか。

俺は、今まであいつに何をしてやれただろう。

少しはトラウマを払拭することが出来ただろうか。


ティーセットを持って戻ってきたコッペリウスは、新しい紅茶を飲みながら俺に訊いてきた。

「彼女はどうでしょうね…貴方はどう思いますか?」

「どう思うも何も、あいつが無事に帰ってくるように祈るしかないだろ」

俺の返答に、コッペリウスはくすりと笑った。

「模範解答ですね。彼女との信頼関係が良く分かる」

何だか小馬鹿にされているような気がして、俺はそれ以上会話を続けるのを止めようとした。

だが、コッペリウスは違ったようで、押し黙る俺に構わず話を続ける。

「もし、彼女が耐えられなかったら…貴方はどうしますか?」

無言でコッペリウスから視線を逸らす俺に対して、奴は畳み掛けるように言葉を続けた。

「やはりその時は…今度は、貴方が『マスター』になるのでしょうか?」

何がおかしいのか、くすくすと笑いながら最悪の事態を口にする。

「うるさい、少し黙れ」

俺が不機嫌さを微塵も隠さず告げると、コッペリウスは一層笑みを深めた。

「まだ試練は始まったばかりです。その時がくるまで気長に待ちましょう」

優雅に紅茶を飲むコッペリウスの言い様はいちいち癇に触る。

けれど、今はただ待つしかないことに変わりないのは確かだ。

俺は沈黙でもって答え、コッペリウスとの間には居心地の悪い静寂が横たわっていた。

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